第18話 イネちゃんと野営と新たな仲間?

「もう!どれだけ心配したと思ってるのよ!」

 外に出てディメンションミミックの作り出した小屋から離れて、ローブの人と戦闘した広場まで移動したところで、ミミルさんがイネちゃんとヨシュアさんに向かって涙目で叫んでくる。割とイネちゃんのドジが原因だったし、ごめんなさい。

「立ち上がる時に躓いちゃって……ごめんなさい」

「見捨てるわけには行かなかったから、ごめん」

 と二人で頭を下げて謝ると同時、ヨシュアさんが耳打ちしてきた。

(僕が異世界出身だってことは……)

 あ、秘密なんだね。というか転生とか召喚とは違う感じだったし秘密のほうがいいよね。わかったよ。

 イネちゃんはそう思いながらあまり得意じゃないウインクで返す。ヨシュアさんはそれを見て不安そうな顔したけど、まぁいいよね。

「私も責めているわけじゃ……」

「いやぁ今のは責めてる言い方だったよねぇ」

 ローブの人が、フードの部分を外して茶化してきた。当然ミミルさんが睨んだけど口笛を吹きながら明後日の方向を見ている。

「ところでローブの人がフード取ってるけど……一応人間なの?」

 イネちゃんがちょっと疲れつつも聞くと、少し考えた後に。

「……雇用主から契約変更の打診が飛んできたけど、えぇ命をやりとりした子たちと共に行動しろってさぁ、嫌だよねぇ」

「イネちゃんは別に気にしないけど」

 うだうだ言ってるローブの人にイネちゃんは答えつつも、皆の顔を確認してみる。

 ウルシィさんは険しい、ミミルさんも当然険しい、キャリーさんは……あら以外ちょっと容認気味で、ヨシュアさんは当然許可。女の人だったもんね、多分ミミルさんを除けば年長さんだし。

 うーんキャリーさんを無効票にしたら半分づつ、判断に困るねぇ。

「まぁ私は傭兵だし、そこまで制約も守らないでもいいんだけど乗りかかった船だし……何より報酬がいいから、断られても傍に居させてもらうけどね。あ、名前はジャクリーン。ジャクリーン・フルール」

 苗字有り?貴族さんだったりするのかな。

「……貴族ですか」

 ほらーキャリーさんが聴いてるー。

「んー貴族の血が混ざってるって程度の認識かな、私自身は。オーサ領で女系の血統の時点で後継者争いのレースに乗ることすらできないからねぇ。あるだけ苗字。道具にされるのを嫌って傭兵になってみたらこの様ね。まぁ契約内容が変わったことだし、この広場で野営ってことでいいんじゃないかしら」

 なんだか既に行動の先導を取ろうとしてる、野営するのは確定だろうし問題ないけど。

「なんであなたがリーダーのように振舞っているのですか!」

「んーでも年長って私になりそうだし、エルフの子は例外としても」

「あなたは何歳なのよ!」

「16、これでも傭兵2年目のぺーぺーだけどね」

 なん……だと……。

「残念、それならヨシュアが16歳で同じ、更に言えばイネが17歳よ!」

 やめて、ミミルさん今はやめて。

「嘘、あの体型で……」

 ローブの……いや名前わかったしジャクリーンさんでいいか。

 やめて、その言葉はイネちゃんに効く。

 ジャクリーンさん、長身……というかヨシュアさんより背が高くて、その上ボンキュッボン。ローブの上からですらわかるってこわい。

「それは……口にしちゃうの?」

 ミミルさんやめて、それもイネちゃんに効く。

 まぁイネちゃんの場合、昔の出来事が原因で心因性の要因で成長ホルモン異常だってあっちの世界で言われたから、多少諦めてるし比較的軽傷で済むけどさ……。

 イネちゃんが無意識に乾いた笑いを漏らしていたようで、二人がバツの悪そうな顔をして。

「「ごめんなさい」」

 完全に同調シンクロした謝罪の言葉が飛んできた。

「う、うん。イネちゃんはあまり気にしてないから、うん。成長の問題も原因が概ね判明してるし……気にしてないよ?」

 うん、気にしている感じの台詞回し。これじゃあ二人の次の行動は……。

「「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」」

 あぁやっぱり……考えてることと無意識は違うんだなぁと、この手の話題で突っ込まれるといつもこの流れになってしまう。これも平たい胸族の運命さだめか。

「イネちゃんはこれでいいんだよ、これがいいんだよ。ちっちゃくてキュート。OK?」

 そう、イネちゃんは可愛いのだ。セクシーとか美人とかではなく、可愛いのだ。それで十分ではないだろうか。

「まぁ確かにイネは美人さんというより、可愛いもんな!」

 ウルシィさん、この流れでそれを言う勇気はすごいと思う。イネちゃんから表彰してあげたいところですが、今表彰状とか無いからごめんね。

 会話内容的に入ることをためらったのか、ヨシュアさんは黙々と野営準備してるし。男の人的にはそうだよね、よほど鈍いか厚顔無恥な人じゃないとなかなか入れない会話だったもんね。

「と、とにかく野営の準備をしませんか。連れ去られはしましたが、その後の応対は優しい感じでしたし」

 いやぁ、あのミミックの口に安置された時点で割と大変な事態だったとイネちゃんは思うけどね。確実に安全だっていう保証があればいいかもだけど情報はなかったわけだし。

「確かにヨシュアさんに全部任せるのはね、ジャクリーンさんも手伝って?」

「え、私まだまともに動けない……」

「手伝ってね?」

「はい……」

 イネちゃんスマイルによりジャクリーンさんは素直に頷いてくれた。よし、これで火の番は確保したよ!

「じゃあジャクリーンさんは火の番ね。できれば広場の大きさに松明設置して欲しいけど」

「いや、まだ歩けないからね?」

 うーむ、微妙に使えない。まぁイネちゃんが撃ち抜いたからそれ以上は言わないけど。とりあえず体を冷やさないポジションだしジャクリーンさんはこれでいいでしょ。

 とりあえずイネちゃんは雨は防げるように麻袋を……あれ、何か忘れているような。

「キャァァァァァァ」

 イネちゃんが何かを忘れている感覚に襲われた直後、ミミルさんの叫び声が聞こえてきた。確かミミルさんはあの後、ジャクリーンさんに変わって広場に松明を設置していたような……。

 イネちゃんが超えのした方向に顔を向けると、既に皆が戦闘態勢に入っていた。

 その理由は簡単、イネちゃんからミミルさんを挟んだ森に巨大なタコがうねっていたんだから、間違いなくそれが原因だよね。

「さっきのディメンションミミック!そういえば倒してなかった!」

 ヨシュアさん説明ありがとう。脱出最優先だったから倒すのまでは失念してたよね。

 イネちゃんは皆が陣形を整えている間、あのタコさんの罠から回収しておいたXM109の準備をする。人じゃない超巨大生命体相手なら有効だからね!

 ただ本体重量15kgってのは伊達じゃなく、あまり遠くに陣取るには時間が無い。仕方ないので広場中央にイネちゃんは陣取ることにした。

「イネ!強い光!」

 あぁそうだ、あのタコさんフラッシュバンがすごく有効だったんだ。

 ヨシュアさんに促されてマントからフラッシュバンを……バンを……。

「あれ、ここに入れてたはずなんだけどー……ってあったあった、ちょっと危ないしまい方だった」

 というか弾薬の横だったよ、本当に危なかった。まぁ今気づいたのなら問題ないし早く投げないとね。

「目と耳を防いで!」

 叫びながらピンを抜いたフラッシュバンを投げてイネちゃんも対閃光防御姿勢を取る。流石にこの範囲だとしっかりしないとね。

 フラッシュバンの炸裂音が聞こえたと同時。

「うぎゃぁぁァァァァ」

 ディメンションミミックのものじゃない叫び声が聞こえてきた。

 閃光が収まったところで目を開けて確認すると、のたうちまわっているタコさんと、ウルシィさんとジャクリーンさんが居た。あぁ防御しそこねたんだね。

 とりあえずのたうちまわっているタコさんに向けてイネちゃんが発砲。弾はとりあえず徹甲弾……貫通力で選択。

 タコさんに弾が当たると、直ぐにその後ろにあった木も倒れる。やっぱ貫通力すごいなぁ。

「ウルシィさんとジャクリーンさんを引っ張ってきて!」

 ミミルさんとキャリーさんがその言葉に合わせて二人を引っ張り、ヨシュアさんが前衛に躍り出る。あぁ、見事に前衛がフラッシュバンで落ちてしまった。

「ヨシュアさん!前衛大丈夫?」

 状況を見てイネちゃんは叫ぶように聞いてみる。万が一の時はキャリーさんかミミルさんに引き金だけ引いてもらうって手段が取れるし。

「大丈夫、イネはこのまま援護を頼む!」

 そう言って腰にマウントしてある鞘から剣を抜いて構える。銃はチート分類なのかな、イネちゃん全力で使ってるけど。

 ともあれこのまま援護……だけど徹甲弾で大丈夫かな、自然破壊はイネちゃん的にあまり楽しくないんだけど。他の弾は余計危ないしなぁ。

 そう思いつつも追加で一発、タコさんに向けて発砲するとヨシュアさんが発砲音に合わせた感じの動きで、着弾と同時にタコさんを斬った。

 いやいやいや、こうやって言葉にするだけですごい違和感なんだけど。XM109は弾の初速こそ遅い方だけど、それでも音速超えてるんだよ?なんで弾と同じ速度で動いてるの?やっぱチートなんだなぁ……。

 一応位置の関係的にヨシュアさんのほうが遅いのは確かだけど、正直ここまでチートを見せられるとイネちゃんは引いちゃうかな……。

 まぁ、タコさんはイネちゃんの狙撃とヨシュアさんの斬撃でもう虫の息、後は止めを……。

(グゥゥ……)

 やだ、イネちゃんのお腹の虫が鳴き出したわ。そういえば最近タコとか食べてなかったしなぁ……あれが食べられるのかわからないけど。

 今晩のご飯は、タコさんチャレンジかな。イネちゃんはそう思いながらも止めの引き金を引いたのだった。

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