第16話 イネちゃんと事件解決?

「おまたせー、ローブの人はどうなった?」

 イネちゃんは明るい感じに、銃のケースを担いで皆のいる広場に状況を聞きながら歩いて出て行く。

「さっきのは、イネだったのか……ありがとう、助かったよ」

 まぁヨシュアさんならまずお礼だよね、イネちゃんとしては聞きたいことではないけど。

「それよりも、ローブの人とキャリーさん。最初の目的を完遂しなきゃ」

「あぁそれなら大丈夫、目を覚ました時に聞かせてもらうから」

 ローブのお腹の辺りに硬いものをぶつけたような跡をつけて、左肩と右足は包帯で止血処置が施された人が、縛られて気絶していた。当身かな?

「イネは雷撃杖の使い手だったのね……ごめんなさい、いつまで経っても姿を現さないから私、あなたのことを少し疑ってた」

 雷撃杖って、狙撃銃のことかな?破裂音と武器の形状でそう考えられなくもないし。そして狙撃の件に関しては伏せてたからミミルさんの考えも仕方ないよね。

「イネちゃんのほうも、狙撃に関しては伏せてたから仕方ないよ。遅くなっちゃってごめんなさい」

「ウルシィは信じてたぞ!イネは絶対に来るって!」

「うん、ありがとうねウルシィさん」

 イネちゃんが皆に囲まれた時、突然ローブの人の目が開いて。

「異世界の傭兵が居たのか……そういえば確かに、ヴェルニアの小娘を連れ去る時、確かにそれらしき武器を構えていたものがいた、失念していたぞ……」

 あれ、ローブの人ってこんな喋り方だっけ、なんだかイネちゃんの記憶と違うぞ。

 というかあれだけ負傷した上縛られているのに立ち上がったし……。

「お前は誰だ、さっきまでの女性じゃないな」

 ヨシュアさんがそんな問いをするってことは、間違いなく別人っぽいね。

「私はこの女の雇い主、ヴェルニアの小娘を助けたいか?」

「あの子は僕たちの仲間だ、答えは決まっている」

 うん、それどうとでも捉えられるから次からやめたほうがいいと、イネちゃんは思うなヨシュアさん。

「だが貴様達にヴェルニアの小娘を守りきれるのか?この程度の女に拐われるというのに」

 あぁ、それを言われると反論できない。ヨシュアさんはなんていうかな。

「確かに今回、拐われてしまった。それは言い訳のしようもないし、僕たちには防ぐ手段も思いつかない……だから、何度でも助けてみせる!」

 啖呵切るのはいいけど、あちらさんのお眼鏡からするとイネちゃんありきで考えられそうな予感がするぞぉ……。

「だが今回ですら、そこの異世界の小娘がいなければ勝ちを拾えなかったのではないのかな」

「確かに今回はね。だけど忘れないで欲しいな、奴隷にされそうになっていたキャリーを助けた時は僕一人だったんだよ」

 イネちゃんの予想通りにローブの人を操ってると思う人の言葉に、ヨシュアさんが自信満々に言い切った。やっぱチート系能力は隠してるっぽいよなぁ。

「その自信の出処には些か疑問を呈するが、良いだろう。今は小僧、貴様にあの小娘を預けるとしよう。ヴェルニアの小娘はこの先の小屋におる、連れて行くが良い。……そして我の監視のためこの女も連れて行くがよいさらばだ」

 そう発言したと思ったらローブの人がドサっと音を立てて地面に落ちた。え、今の言い草だとむしろキャリーさんを守るみたいな流れだったよね、今の人。

「ヨシュアさん、今の人に覚えがあるの?」

 とついイネちゃんはストレートに聞いてしまう。

 ヨシュアさんは何やら考えてから、イネちゃんのほうを見ないで。

「……いや、心当たりになりそうなのはあるけど、出会ったことは間違いなく無いから」

 つまり断定できないから迂闊なことを口走って混乱させたくないってことかな。

 まぁそれならそれで話せるようになるまで待つかなぁ、どうせもう引き返せない段階だと思うし、のんびりのんびり。

「とりあえずあれだ、キャリーさんの安全を確認しないと……ローブの人はイネちゃんが見張ってるから、ヨシュアさん行ってあげて」

 イネちゃんがそう促すと、ウルシィさんとミミルさんも同意見だったのかイネちゃんの後ろに立って首を縦に振っているのがわかる。これは圧迫面接に近いものがあるね。

 その流れでヨシュアさんは苦笑いをしてから。

「……わかったよ、じゃあ行ってくる!」

 はーい、行ってらっしゃいだよー。

 じゃあイネちゃん達はしっかりとこのローブの人を治療しながら二人が戻ってくるのを待ってようかな。

「とりあえず包帯でも変えようか……弾は抜けてるよね?」

「弾って……?」

 あ、ミミルさんの反応でわかった、ヨシュアさんがやってない場合弾が残ってる可能性ある。

 イネちゃんはまず綺麗な水をマントから取り出して横に置いて、次に包帯を地面直置きではなくハンカチを敷いてその上に置く。清潔、大事。

 次に止血はしてあるものの出血で汚れた包帯をローブの人から外して……んーこれ一応確認してあるなぁ、少し広げた痕がある。なら綺麗な水をこれまた綺麗な布に染みこませてから傷口を拭く。気を失っている相手なら軽めの反応だけだからそこまで気にする必要が無い分ちょっと楽になるね。

 消毒薬は……ノンアルコールのが丁度ないんだよなぁ、消毒にアルコールは定番ではあるんだけど、体質次第では悪化しちゃうから今回は我慢してもらおう。傷口に新しいガーゼを添えて上から包帯で固定していく。

「……消毒しなくてよかったの?」

 うん、多分お酒とかを塗布してとかだろうね。ミミルさんは知識ありそうだし。

「人によっては体質でアルコールで悪化しちゃうから、ひとまず綺麗な水でね」

 あ、ミミルさんが不思議そうな顔してる。多分アルコールがわからないんだろうなとは思うけど、今は処置優先。

 もう一箇所も同じように処置してー……うん、どっちも神経や骨に当たってない。素晴らしく偶然ではあるけれども、イネちゃんの狙撃も大したものだね!

 急所を外した理由と、外してよかった理由がまるで違うけど、結果的に些細なことなのだ。

「本当なら止血薬も塗りたかったけど、実のところヨシュアさんに預けたままなんだよね、今見た限りだと最初の処置の時にヨシュアさんが塗布してくれたみたいだったけど」

「私、薬草の知識はあるけどこういう薬とか、布をいっぱい使って傷口を隠す治療法は知らなかったわ……」

 エルフさんは薬草と魔法でなんとかなりそうだし、医療技術の進歩が止まってても不思議じゃないからね、仕方ないね。

「うぅ、ウルシィはこういうことに役立てない。人狼族は基本的に食べて寝て治すから」

 人狼族って、もう完全に野生動物と同じ治療術なんだね、うん。

「まぁイネちゃんはあっちの世界の知識でやってるから、こっちの世界だと人間でもこういう治療じゃなくて、薬草や魔法を使うとは思うかな。あっちの世界は魔法が無い分、こういった感じの治療法が発達していたわけだし」

 イネちゃんの治療術はお父さんたちに徹底的に叩き込まれたから、まごうことなくあっちの世界の技術だしね。イーアだったときは……あまりそういう怪我しなかったから覚えてないや。

 でも正直なところ鍼治療とかお灸は使いどころさんが無いと思う。整体に関しては使うかもだけど。

 イネちゃんが包帯を変え終えたところで、ヨシュアさんがキャリーさんをお姫様抱っこで連れてくるところだったみたい。後ろに居たウルシィさんとミミルさんが固まっちゃってるし。

「じ、自分で歩けますから……」

「でも、足を怪我しているんだから。事前に防げなかった分罪滅ぼしをさせて欲しいな」

 狙って言ってなかったら天然だよねー、キャリーさん顔真っ赤。ウルシィさんとミミルさんはすっごい表情しててちょっと怖い感じになったけど、助けれたのなら問題ないない。

「はいはい、とりあえずこのローブの人を運ぶ手段を作らないと……担架でいいかな」

 とイネちゃんが提案するも、ウルシィさんとミミルさんはキョトンとした表情でイネちゃんを見てきた。よもや担架の概念も無いってことはないよね……。

「それなら2つ作ろうか、キャリーの分も合わせてってことで」

 よかった、ヨシュアさんは……知ってて当然かな、色々あっちの世界の価値観に精通しすぎてるし。キャリーさんが担架って単語にバツが悪そうな顔をしたのが見えたし、人間は運搬器具として知識があるってことだね。

「頑丈な木材と布があればいいんだけど、最悪頑丈っぽい葉っぱを複数探さないといけなく……」

「あぁそれならキャリーが捕らえられていた場所に使えそうな資材があった、持ってくるよ」

「んーじゃあイネちゃんはキャリーさんの手当てしておくね、すぐ終わるだろうからロープとかも出してくよ」

 イネちゃんとヨシュアさんが話し合って準備の手際を決めると、ヨシュアさんはゆっくりとキャリーさんを降ろして、また森の奥の方へと入っていった。

 イネちゃんも降ろされたキャリーさんの怪我の具合を確かめる。

「これは痛む?」

 イネちゃんはキャリーさんに聞きながら、いくつかの箇所を触っていく。

「だいじょう……んっ!」

 うん、ちょっと無理できないかな。触った感じだと骨折はしてないと思う……けどヒビが入ってるか、捻挫の可能性は高いかな。それに浅いけど切り傷もあるから痛いのは仕方ないね。

「骨折は無いと思うけど、確かに自力で歩くのは少し厳しいかもね。これに関してはー……」

 言葉を続けながらイネちゃんはミミルさんのほうを見ると。

「捻挫とかに効く薬草とか、ないかな。塗布した布を当てて包帯を巻いておきたいから」

「え、あ、わかったわ」

 ミミルさんはそう言って森に薬草取りに、ウルシィさんはローブの人の前で体育座りしてヨシュアさんの帰りと、イネちゃんの処置が終わるのを待っていた。

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