第15話 イネちゃんと狙撃銃?

「人を撃つのかぁ……流石に許可が下りるかわからないよ?」

「相手は誘拐犯ですから、こっちでもあっちでも違法行為をしている人にしか向けないし、できるだけ即死しない場所狙いますから!このとおり!」

「でもまぁ傭兵だからある程度は仕方ないのかなぁ、わかった、ちょっと掛け合ってみるよ」

「時間的にギリギリなので、急ぎでお願いしまーす」

 正直に誘拐犯を撃ちますと言ったイネちゃんに、職員に人が難色を示したためちょっと時間かかっちゃった。

「イネ、まだ時間かかりそうか?」

 ほら、ウルシィさんも心配し始めちゃった。

 正直イネちゃんもちょっとそわそわしてる。狙撃銃とかロッカーに入ってたっけかなぁ。最悪M4A1ラインでもいいとは思うのだけど。

「えーっと、本当ならドラゴンとかそういうのを撃つための物しか、君のロッカーにはなかったよ……」

 戻ってきた職員さんがイネちゃんとウルシィさんの前に大型のケースと弾薬ケースを置いた。ってこれ見覚えあるんだけど!

「これって、ボブお父さんが使ってた銃の一つじゃないかな……確か型番はー……」

 イネちゃんはつぶやきながらもケースに書かれた型番を確認すると『XM109』という文字が確認できた。うん、これ狙撃銃分類だけど人に向けるものじゃないよね、対物銃カテゴリだった気がするもん。

「おじさんは流石にこれで人を撃つのは許可できないかなぁ」

「うん、イネちゃんもこれを人質救助には使いたくないかな……確実にトラウマ1個こしらえちゃうよね」

 音がしたら犯人さんがミンチになってたとか、人質さんは助かってもトラウマ確定だもんね。

 そんなやりとりをした直後、ロッジのほうから走ってくる人影が一つ。

「話は聞かせてもらった!それならばこれを持っていくがいい、イネよ!」

 と堂々とした感じにルースお父さんが銃のケースと弾薬箱を抱えて走ってきた。というかどこで話を聞いていたの?

「どこから話を聞いていたのかなぁ、ルースお父さん」

 イネちゃんスマイルで問い詰めてみる、時間がかかりそうなら細かいことはどうでもいいでとりあえずどっちかを持っていくけど。

「丁度イネのロッカーに銃をプレゼントとして持ってきたところに、このお兄さんがケースを持って出て行くのが見えてな。対人ならこっちのほうが軽いし問題にもなりにくいぞ!」

 そう言ってずいっと差し出してきたケースには『M24SWS』という表記があった。いや確かにベストセラーの対人狙撃銃だけどさ、最初からそっち入れててくれたらイネちゃんは嬉しかったなって。

 後プレゼントにとか言ってたよね、これ定期的に見に来ないとロッカー満杯になってるパターンだよね。

「むぅ、色々言いたいことはあるけど今時間がないし、確かに丁度いいと思うから受け取っておく……」

「嬉しくないのかイネ!」

「あぁうん、嬉しいは嬉しいかな。でもあまりにピンポイント過ぎないかなぁって。イネちゃんが今欲しいものをPONって持ってこれるって」

 イネちゃんがそう言うとルースお父さんは目をそらしながら。

「ぐ、偶然さ。次はショットガン辺りにでもするかな!」

「いや、保存食とかお薬にしてね?ショットガンの距離ならP90でいいし」

「は、ははは。わかった、皆にも伝えておくさ」

 ケースを受け取りながらイネちゃんはルースお父さんの顔をじっと見つめる。

 いつもなら可愛いなぁ!とか叫びながら抱きついてくるのに目をそらすってのは、うん多分そういうことだよね。キャリーさん助けたら服とマントを隅々まで調べないと……。

「イネ、もう時間が!」

 とここでウルシィさんが急かしてきた。流石に時間かけすぎちゃったかな。

「もう、お友達を助けられなかったらルースお父さんのせいだからね!行ってきます!」

「ちょ、イネ!嘘だろぉ!イネぇぇぇぇぇ!」

 ケースを担ぐ形、弾薬箱はお薬を入れていた場所に入れたけど……やっぱり重いね、これは走るのにもちょっと支障がでるかも。

 まぁ叫んでいるルースお父さんは別にいいとして、今はキャリーさんの元に走るだけ、走るだけなんだけど……。

「イネ、遅くなってる。それ重いのか?」

「うん、正直言うとちょっと重い」

 銃本体に弾薬箱、合計して5kgは確実にあるから流石に重い。

 P90だったら装弾状態でも3kgくらいだから余計にズシッと感じる。

 実際のところXM109を持ってきてたらもっと大変だったよね、あれ本体重量で15kgあるし。

「じゃあウルシィが持つ、速く行こう!」

 うぅ、ウルシィさんの優しさが染みる……。

 お言葉に甘えてウルシィさんに銃本体のケースを渡すと……。

「ん、本当に重いな。でも獲物の肉よりは軽い」

 あぁそれと比べたらね、狼さんは多少軽かったけどウルシィさんの言う獲物って多分熊さんとか鹿さん辺りだし。

「よし、急ごうイネ」

「うん、走らないとねウルシィさん」

 こうしてイネちゃんとウルシィさんは、到着直後戦闘があることも考えて疲れない程度に急いで走って向かったのだった。


「あ、ウルシィさんちょっと止まって」

 指定された場所まで後1kmくらいのところでウルシィさんを呼び止める。

 ここからならM24のスコープで確認できると思うから状況確認しないと。

「でもまだ到着してないぞ!」

「うん、でもイネちゃんが追加した装備……その銃ならこの辺くらいから攻撃できるから」

 イネちゃんの言葉に、ウルシィさんはケースを置くと。

「わかったけど、ウルシィは向かうよ。ウルシィはここからだと皆の援護ができないから……」

 うん、ウルシィさんは最前衛だからね。

 イネちゃんとしては観測手兼護衛が欲しいところではあるけど、流石にそこまで得意じゃない狙撃に付き合わせるわけにもいかない。

「わかった、ウルシィさんはこのまま向かって。ヨシュアさん達にはイネちゃんは置いてきた、この戦いにはついてこれないとか適当に伝えてくれればいいよ」

 イネちゃんはそう言いながらケースから銃を取り出して組立を始める。

 M24の有効射程は800mくらいだからもうちょっと近づくけど、ここからなら組み立てた状態で持ち運んでも問題にならないし。

「……わかった、でもイネは後から来るって言うから!」

 そう言ってウルシィさんも指定された場所へと走っていった。

「さぁてと、イネちゃんがあまり得意じゃない狙撃……できるかなぁ」

 一人になったところで有効射程内に入るようにイネちゃんも少し進む。

 森の中ということもあって、割と周囲への警戒が必要だとは思うけれども……今はキャリーさんを助けることに集中しないとね。

 そう思いながら少し進むと、支柱として使えそうな倒木があったのでそこに陣取ることにする。

 ひとまずウルシィさんの走っていった方向に向けてスコープを覗くと、うまい具合に気の合間を抜けて人影が確認できた。

「んー倍率上げないと本当に人影としかわからないか……」

 独り言を呟きながらスコープの倍率を1個あげて再び覗くと、表情まではわからないものの服装とかは判断できる程度にはくっきり見えるようになった。

 どうやら見えていたのはヨシュアさんみたい。だけど既に何かを叫んでいるように見える。困った、ここからだと集音器でもないとやりとりがわからない。

 流石のM24SWSっていうセット装備でも、集音器まではついていないんだよなぁ。

 ともあれ、誰か判別できる程度には見えるのだから、ヨシュアさんが叫んでいる相手を視界に捉えないと。見えてる範囲がイコールで射線だし。

 ちょっと他の人影を確認できるまで銃の向きを変えて見ると、見覚えのあるローブがスコープに飛び込んできた。

「あぁ居た、でもこれはこれで倍率下げないといけないか……」

 どうやら位置関係がヨシュアさんたちが向こうで、ローブの人がヨシュアさんとイネちゃんの間にいる形らしい。

 とりあえずはローブの人の胴体に照準をつけて顔をあげる。

「さて、これで狙撃準備はできたわけだけど……状況が動くまで待機かなぁ」

 イネちゃんはベストタイミングまでハイディングできる女の子なのである。

 でも激しい言葉のやりとりは見て取れるけど、声が届かない範囲だから判断に困るなぁ、せめてわかりやすく動きがあればいいんだけども。

 あ、今は観測手用のスコープで覗いてるのだ。一度照準をつけたのだからうっかり動かしちゃうようなのはあまり好ましくないしね。

「と、なんか皆が光だした」

 見ている範囲ではウルシィさん以外がこう、みょんみょんもやんもやんって感じに光ってる。ゲームでよくありそうな表現っていうのが一番近いかも。

 慌ててM24のスコープに切り替える形で狙撃体勢に戻ると、既に魔法による遠距離戦が始まっていた。ちょっとミミルさん、風魔法は援護できなくなるって!

 ミミルさんの風魔法で狙撃には不向きな状態になってはいるけど、イネちゃんは我慢が出来る子、もう少し状況を見守る。

 2分ほど魔法の応酬が繰り広げられたところで、ついにウルシィさんがローブの人に飛びかかった!んだけど、ローブの人が魔法を使うと地面から蔓?蔦かな?どっちでもいいけど植物っぽいものに捕まっちゃった……。

 うーん、ヨシュアさんも魔法を使ってたからか、距離があるんだよなぁ。それに現場にキャリーさんの姿が見えないし、これはいよいよヘッショ!しちゃダメな状況だろうねぇ。ビューティフォーできない問題。

 ってうわ、ヨシュアさんが剣を前に放って武装解除しちゃってる……これは所謂ピンチですね、イネちゃんは知っているんだ。

 でもピンチはチャンス。圧倒的優位と思ってるローブの人に必殺……しちゃダメだけど形勢逆転の要素はある。まさにイネちゃんがそのポジション!

 ヨシュアさんが中腰気味に腰を落として、ミミルさんを庇うように手を広げたところで、ローブの人が両手を振りかざして、今度は赤い、スコープ越しからもわかる炎を出し始めたところで、イネちゃん狙撃チャーンス!

「頭はダメ、心臓もダメ、肝臓とかの臓器や背骨もダメ……医療技術考えると肺もダメ、だったら……肩口!」

 イネちゃんは小声で声だし確認をしながら照準を合わせ、深く息を吸って……止めて、引き金を引いた。

 破裂音と共に排莢と装填をするためレバーを操作し、次弾を撃つため再び照準を合わせる。次は足!

 再び引き金を引いて破裂音がしたところで、ローブの人の左肩から鮮血がヨシュアさんたちのほうへと飛び出して、更に次のタイミングで右足の太ももから血が飛び出る。

 イネちゃんは2連射が限界、というか練習ではボルトアクションだと3連射までしかやったことない上、成功率は低かった。後は任せたヨシュアさん。

「イネちゃんは、銃をしまって現地に向かう!」

 そう独り言を漏らしたあと、放置していたケースのほうへと向かった。

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