第14話 イネちゃんとキャリーさんの行方

 着替えを終えたイネちゃんは、昨晩リロードしたマガジンをマントに差して先ほど一旦見なかったことにした手紙を持って部屋を出る。

 丁度ケイティお姉さんによる聴取が終わったのか、丁度ヨシュアさんたちが裏口から戻ってくるところだった。

「クソッ、僕がもっと上手く出来ていれば……」

「魔法でも追えなかったのは私の修行不足よ……」

 意気消沈気味のヨシュアさんとミミルさん。

「ん?あいつの匂いがするぞ!」

 うん、ウルシィさんお鼻すごいね。

 絶対この立派な封蝋のお手紙からなんだろうなぁ……。

「あそこ!……ってイネから匂いがするぞ!」

 はいけってー。このお手紙はあのローブの人が残していったもので確定しましたー。

 とりあえずイネちゃんは1階に降りて皆の前に立つ。立つまではよかったのだけど……。

「キャリーを返せー!」

 とウルシィさんが飛びかかってきたから仕方ない、イネちゃんは飛びかかってきたウルシィさんの腕を掴んで、投げた。

 ムツキお父さんに叩き込まれた柔道や合気道がこんなところで役立つのはいささか不本意だけど、説明機会無しで襲いかかられたら反応しちゃうって。ちなみに柔道と合気道は実践的な術のほうもやってるよ。

「とと……つい反応しちゃったけど大丈夫ウルシィさん。後多分その匂いってこのお手紙のこと、開けた覚えの無い窓のところに置いてあったんだよ」

 反射ではあったけど一応受身は取れる感じにしたから大丈夫とは思う。思うけどウルシィさんは仰向けに倒れたままお手紙をくんくんして気まずそうな顔をして。

「う、本当だ……ごめんイネ」

「ううん、イネちゃんのほうも投げちゃってごめんね」

 お互いが謝りながら、イネちゃんの伸ばした手を取ってウルシィさんが立ち上がる。そのやりとりを見ていたヨシュアさんが近寄ってきて。

「二人共、大丈夫かい」

 まずは女の子の心配、主人公的な行動をさらっとできちゃうのは流石だなぁ。

「ウルシィは大丈夫、受身取ったから」

「イネちゃんも大丈夫。とりあえずこの封蝋の押印がどの王侯貴族のものとかわからないかな」

 無事であることを示しつつ、さっきのやりとりで少し折り目がついたお手紙を見せる。

「……ごめん、僕はちょっとわからない。見覚えはあるのだけど」

 ヨシュアさんの目が少し光った気がするけど、わからないという答えが返ってきた。目が光ったのは何かの能力が発揮されたのかな。

「ちょっとごめんなさい……」

 今度はケイティお姉さんが、ヨシュアさんの肩ごしにお手紙の封蝋を確認する。ヨシュアさんの顔が微妙に赤くなったのはきっと、ケイティお姉さんのお胸のぽよぽよが背中に当たっているからだね。

「これは……この町があるトーカ領の隣にあるオーサ領の地方領主のものじゃないかしら、名前は確か……」

 ケイティお姉さんがそこまで言うと、ヨシュアさんが苦々しい顔になって。

「キリー、キリー・アニムス……そうだ、キャリーの家を没落させた奴の名前です」

「没落って……キャリーさん、ヴェルニア家の子だったの?」

 ケイティお姉さんの驚きの声にヨシュアさんが首を縦に振る。

 没落したってのは昨日聞いたけど、ケイティお姉さんが驚くくらいには有名な貴族さんだったのかな。

「でもなんで今更……もう半年も前の出来事なのに」

 あ、半年って最近だったんだね。ケイティお姉さんが驚いたのは記憶に新しかったからか。

「オーサ領にはあまりギルドは無いのだけれど、それでも情報は入ってくるわ。先日オーサ領当主であるシード様が半年前の領民による決起は扇動されたもので、統治に穴を開けることを行った現領主であるアニムス家を糾弾しているわ。でもヴェルニア家で生き残っているのが、既にトーカ領の辺境貴族に嫁いでいる長女を除けば行方不明になっている次女と三女だけで、どちらかでも見つけられなければ弾劾して追い出せない状態らしいわ」

 つまりキャリーさんはどちらからも重要人物ってことだね。

 あれ、でもおかしいな……。

「でも封蝋の押印はアニムス家のものだったんだよね、それならさくっと消しちゃったほうがキリーって貴族さんには都合よくない?」

 イネちゃんの疑問にケイティお姉さんが。

「いいえ、この半年でヨシュアさんと共に冒険者で活躍した結果、シード様がその生存を知ることになったらしいのよ。だからこそ糾弾し始めたのだから……つまり今彼女を殺してしまうことは自白することも同じなのよ」

 あぁ、当主が生存を確認した上で糾弾し始めたから今キャリーさんが暗殺とかされちゃうとそれを理由に弾劾されちゃうってことか。

「だから誘拐?」

「だと思うわ、だから少なくとも今日明日殺されることは無いとは思うけど……」

 当主からの糾弾が優しくなったり、領内の治安問題に発展したりしてキャリーさんが必要なくなった場合、その限りではない。と。

「とりあえず、中身を確認しよう」

 ヨシュアさんがそう言ってお手紙の封を切る。

 ペーパーナイフが無いのに素手で綺麗に開けるなぁとイネちゃんが関心している間に、一枚の便箋を広げて内容を確認していた。

「簡潔に場所と時間だけが指定されています。今日の夕方、郊外の森にある小屋……これだけです」

 ヨシュアさんはそう言ってテーブルの上にその便箋をみんなに見せるように置いたので確認するとなるほど、確かにそれだけしか書いてない。

「僕はキャリーを助けに行きます。皆は……」

「おっとそこまで。この内容なら大人数で向かっても文句は言われないはずだよ」

 ヨシュアさんが一人で行くみたいなことを言い出しかけたところで、イネちゃんは割り込んで言った。今イネちゃんカッコイイよね!

「でも危険だ、何が起こるかわからない」

「危険じゃない冒険者家業って何かな……いやこの町なら安全が保証されたお仕事も多いけど」

 冒険者登録の書類には『有事の際、地域の治安維持が義務として課されます』とも書いてあった以上は、危険じゃないお仕事ばかりではないことは冒険者なら常識だとイネちゃんは思うのです。

「そうだよ!イネの言うとおりで、キャリーは仲間だ!」

「そうね、流石にここで置いていくっていうのは思いやりじゃないわね」

 ウルシィさんとミミルさんもイネちゃんに賛同した、これで問答は勝ったね。

 ヨシュアさんは押される感じでため息をして。

「でも、危なくなったら直ぐに逃げるんだよ」

 ヨシュアさんがすごくいい笑顔で皆に向かって言う。

 ウルシィさんとミミルさんは笑顔で頷いてるけど、それはそれでヨシュアさん一人と変わらないよねぇ。

 まぁチート的な力が使いにくいからーとかそんな理由だろうけど、これが素だとしたら天然だよ、天然ジゴロって奴だよ。

「ともあれ、指定場所はちょっと遠いから余裕を見て出発したほうがいいよね」

 イネちゃんは時間厳守できるように余裕を持った行動を心がける子なのです。

 そんなイネちゃんの提案に皆も頷いて、部屋に戻っていった。

 イネちゃんは既に準備できてるので、まだ開店していない飲食店のテーブル椅子に座って待つ。待つけどちょっと気になったことがあるからケイティお姉さんに話しかける。

「ケイティお姉さん、持ち物に関してはある程度持っていくけど、その……」

「キャリーさんのお荷物も合わせて、ギルドが責任を持って預かるわよ。その辺りは心配せずに助けることに集中して。相手は貴族に雇われた相手なんでしょうけど、それは同時に貴族を敵に回すことでもあるから……」

 気を抜いてたら危ないってことだね、あぁでもそれなら寄り道お願いしようかな……P90とファイブセブンさんじゃちょっと取り回しが心もとないし。

 近距離はまぁ最悪体術とナイフで何とかできるけど、長距離に不安があるのは確かだから、ボルトアクションでも構わないから長射程の銃を持ちたいかなぁ、スコープも望遠鏡変わりに使えるし。

 装備の重さに関しては……この際食料とお薬の一部はヨシュアさんかミミルさんにお願いしようかな、ウルシィさんは食べちゃいそうだし、最前衛だから不適切だから任せるのは申し訳ないからね。

「えっと、イネちゃん?」

 と、考え事してたからケイティお姉さんにお返事忘れてた。

「あぁ、ごめんなさい、ちょっと考え事をしてて。装備のこととか色々と」

「もう、その調子じゃ本当に心配だわ……」

 むぅ、心配させちゃった。

 でも安心させるために考えていたことだし、ちゃんと伝えればいいだけの話だよね。

「なるべく安全にと思って、新しい装備を考えてたんだよ。例えば肉眼で確認できない場所から狙撃できる武器とかがあればいいかなーとか」

 できれば相手の認知外からの狙撃でへっしょ一発ドーンで終われば楽なんだけどねぇ。

「遠見の魔法の使い手だった場合、それでも不安が残ると思うけど……でも多少はマシ、なのかしら?」

 ケイティお姉さん心配性だなぁ……と思ったところでヨシュアさん達が部屋から出てロビーに降りてきた。

「じゃあ行こう、今からだと少し早めに着くと思うけど何が起こるかわからないし」

「あ、ヨシュアさん余裕があるなら昨日の検問所に寄っていいかな、装備を少し追加したくって」

 30分かかるから拒否される可能性は高いけど、イネちゃんはダメ元で提案してみる。ダメでもお薬とかは持ってもらえるし。

「……往復で1時間だよね、結構ギリギリになるかな」

 うん、それはそうだよね。イネちゃんが装備の追加に少し手間取っただけで指定時間に遅れる可能性あるから危険だもん。でもこういう時はイネちゃんだけ単独行動を取るという選択肢を提示する。イネちゃん賢い!

「じゃあイネちゃんだけでもいいよ、その代わりなんだけど……イネちゃんの装備の一部をお願いできないかな。飲み薬はー……処方がわからないと危険だからやめとくとして、塗り薬や貼るだけの、後は消毒薬。それと非常食をお願いしたいんだけど」

「それは冒険者……いやそうでなくても高価で重要な品じゃないか。それだとイネに何かあった時が心配に……」

「ウルシィがイネと一緒に行く」

 ヨシュアさんの心配性が発揮されそうなところで、ウルシィさんが割り込んだ。

「さっきのお詫びも兼ねてる。だから……」

 ウルシィさんがそこまで言ったところで、今度はヨシュアさんがウルシィさんの肩に手を置いて。

「……わかった、ウルシィの目をみたら真剣だというのはよくわかるから、イネのことを任せてもいいかな」

 あぁうん。一緒にいた時間の長さ的にそういう言い方になるよね。イネちゃんはピンチな状態しか見せてないし。

「わかった!必ず追いつくから、イネのことはウルシィに任せて!」

 こうして当初の予定とは違ったけど、イネちゃんのマントからいくつか医薬品と非常食をヨシュアさんに渡してから、イネちゃんとウルシィさんは検問所へと向かったのであった。

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