第5話 イネちゃんと皆とお話
「えっと、イネさん……怒っていらっしゃる?」
イネちゃんが17歳だっていうことがわかった直後から、キャリーさんの態度がなんだか気持ち悪いくらいに下手になった。
「別に、イネちゃんはよーく見た目で年齢を下に間違われるし。受付のお兄さんにも間違われたからねー」
イネちゃんはそう言いながら、お墓から町に戻る前にふと思い出して、倒した狼さんの血抜き作業を行っているのだ。
狼さんは毛皮にお肉に……場合によっては骨もお金になるからって、コーイチお父さんに血抜きや解体の技術を教えてもらったのが早速役に立ってる。
狼さんの血抜き作業を見て、ミミルさんとウルシィさんは「あぁなるほど」と言って他の狼さんの血抜きをやってくれている。
「でも、私年上の方に……とっても失礼なことを……」
あぁそういうことか。
キャリーさんはきっと、ねんこーじょれつっていう価値観を大切にしている教育を受けてたんだね。
「さっきも言ったけど、イネちゃんは別に気にしてないよー。イネちゃんがちんちくりんな身長なのは確かだしねー」
イネちゃんがそう言ってもキャリーさんはやっぱり暗い表情のまま。
信賞必罰っていう価値観なのかもと思うけど、イネちゃんは本当に気にしていないのだからどうしていいのかわからない。
「その上、私はその……獣の解体とかはできませんし、力もないから運ぶことも……」
なーんだ、そういうことで後ろめたさがあったんだね。
「それこそ適材適所って奴じゃないかなー、イネちゃんのお父さんたちだってそれで役割をしっかり決めてこっちで活動していたってよく聞かされたし、キャリーさんはキャリーさんのできることをやればいいんだよ」
「私の、できること……」
イネちゃんがいいこと言った!と思ったらキャリーさんはもっと暗い顔になっちゃった……何がいけなかったんだろう。
そんな感じの会話をしている間に、合計6匹の狼さんの血抜きがかんりょー、でも町まで運ぶのに引きずらないといけないかなーと考えていると、ヨシュアさんがイケメンっぷりをまた発揮しちゃった。
「運搬も僕たちにも手伝わせてもらっていいかな、さっきまで年齢を間違えていたお詫びってことで」
ミミルさんを除くとイネちゃんが最年長だったことには驚いたけど、正直なところここまでしてもらうほどのことでもないんだよねぇ、とっても助かるけど。
「うーん、ならイネちゃんは1匹分の素材の売上でいいや。イネちゃんだけだったら無傷っていうのは難しかっただろうし、倒せても運搬できて2・3匹だったろうから」
「もしかして、貴女力も凄いのかしら……」
「そうだねぇ……今のイネちゃんの装備は全部で10kgは超えてると思うけど……あ、10kgっていうのはこっちの単位で10クロギースくらいで、1匹くらいなら引きずらないで町まではいけると思うよー」
イネちゃんが、実際に狼さんを持つことを考えて、血抜きをしていたときの重さも考慮してそう言うと、キャリーさんはまた暗い顔になる。
普通なら当然、ちょっと大きいイネちゃんを襲ってきた狼さんは概ね8kgくらいだと思う。
大体米俵だと考えるとかなり重く感じるけど、1歳くらいの赤ちゃんくらいと言えばまだ大丈夫かなーと思える気がするくらいの重さ。
まぁイネちゃんが装備重量で10kgって言ったのに対して、そこに狼さんを持って移動できるって点でキャリーさんは引け目を感じたんだろうけども、それだったら間違いなくウルシィさんのほうが凄い気がする。
現に今、キャリーさんの後ろで狼さんを3匹ほど持ち上げてまだ余裕そうな顔をしているのだから、人狼族の人はとっても力持ちなんだろうね。
結局、ヨシュアさんが2匹、イネちゃんが2匹、ミミルさんが1匹でウルシィさんが3匹、これで狼さんは全部なので、キャリーさんには軽めの保存食やあまりお水が入っていない水筒を持ってもらうことになった。
狼さんを縄で括って持ちやすくしているとは言っても、流石に外套を身につけていないウルシィさんとミミルさんの場合、水筒とか食料袋を持ったままだと狼さんを持ちにくいこともあって、イネちゃんはこれこそ適材適所、キャリーさんがいなかったら多分1匹置いていくことになったと思うのだ。
というかウルシィさん3匹って凄いよね、ボブお父さんならもっと持てそうだとは思うけど、多分コーイチお父さんは3匹も持てないと思うから素直に凄いと思う。
そんな感じで私の産まれた村から、ギルドのある町に向かっているとヨシュアさんが話しかけてきた。
「ところでイネちゃんは、町に戻って冒険者登録を済ませた後の予定は決まっていたりするのかな」
凄い、流石ハーレム系主人公属性のヨシュアさん。女の子を増やすチャンスは抜け目なく掴みにいく肉食系って感じだね。
「えーそれってナンパです?」
「えぇ!決してそんなつもりじゃぁ……ほら、女の子一人旅だと何かと危険……というか一人旅自体が危ないし……」
うんうん、これぞハーレム物の王道って感じの答弁だねー。
「確かに一人だと、今回みたいに数が相手だと切り抜けるのが厳しい気もするけど……そこはまぁ、想像以上に弾を使っちゃったし、イネちゃんは一度帰る予定なのですよ」
正直、出発から半日くらいでP90のマガジン1個分消耗するとは想定していなかったから、一度帰ってもうちょっと弾を増やしてこようと思ったのである。
「帰るって……イネちゃんの住んでいた場所はこの近くなのかい?」
「んー近くて遠い……かな?」
こっちの世界ではないけど、お家に近いところがあっちとこっちのゲートだし、あの森までは町から徒歩でも30分くらいだから近いよね。
でも具体的な距離はわからないからイネちゃんはそう言ったのだけど、皆にはやっぱり伝わらなかったみたい。
そりゃイネちゃんだってよくわからないんだから仕方ないない。
「じゃあ……イネちゃんのお家まで送っていくよ」
うわ、送り狼ですよ皆さん。
まぁ純粋に言葉の意味そのままなんだろうけど、正直男の子をお父さんたちのところに連れていった場合凄いことになりそう。
「んーでもお父さんたちが多分怖いよ、男の子とか連れて行ったら」
これは牽制でもなんでもなく、単純にお父さんたちがヨシュアさんを全力でイネちゃんから遠ざけようとするアレコレをしそうって意味。
でもヨシュアさんは別の意味で捉えたようで……。
「いや、やましい気持ちとかこれっぽっちもないからね!」
むしろやましい気持ちがあったのなら、イネちゃんとしては心が痛むことなく連れて行ったと思う。そっちのほうが噂が広がってお断りする手間とかなくなりそうだし。
でもまぁ、本人たっての希望なんだから……何か起きても許してくれるかなー?
「そこまで言うなら、イネちゃんはもう何もないよ。でも殴られたりとかは覚悟してね?」
イネちゃんが許可を出す返事をしたら、ヨシュアさんはなんだか複雑そうな顔をして笑った。
まぁ、実際合わないとわからないしね、チート型ハーレム系主人公属性にとってお父さんたちはきっと新鮮に感じると思うしいい経験になるよね、うん。
会話が終わったタイミングで丁度町のギルドについたイネちゃんたちは、受付のお姉さんを呼んで狼さんを渡し、ヨシュアさんたちは依頼の報酬を含めた素材売却のお金の8割を、イネちゃんは自分で言った分をもらってお父さんたちが使っていた、今はこっちとあっちの行き来を管理する検問所に向かって出発したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます