第4話 イネちゃんとゴブリン被害者の扱い

「えっと、イネちゃんは何故この村に居たんだい?」

 イネちゃんが本音と建前をうっかり間違えたために気まずい空気に包まれていたのに、ヨシュア君は物怖じせずにイネちゃんが村に居た理由を聞いてきた。

「何故も何も、ここはイネちゃんの産まれ故郷ですし」

 イネちゃんが正直に言うと、さっきまで悪態までついてた3人まで驚いた表情をして明らかに同情っぽい何かを向けてきた。

 まぁここ10年間イネちゃんはお父さんたちの世界にいたわけだし、生き残りは居ないーみたいな口伝されてても仕方ないかなーと思うのだ。

「えっと、この村ってゴブリンに……」

 えーと、この人はキャリーさんだったっけかな。

「そうだよー突然ゴブリンがダーって襲ってきてねー」

 イネちゃんとしては、10年前のことであまりその時のことはもう思い出さないようになっているので軽い感じで話す。

 でもその軽さが不信感に繋がった感じなのかな、やっぱりヨシュアさん以外が怪訝な顔になってきたよ。

「貴女、本当に生き残りなの?なんでそんなに平気でいられるのよ!」

 キャリーさんがなんだか涙目で怒ってる、イネちゃん的には今のお父さんたちやステフお姉ちゃんとの暮らしが幸せだったから、辛さはあるけど多分、キャリーさんが思っているほどイネちゃんは辛くない。

「生き残りなのはギルドのお姉さんが知ってるし、イネちゃんを助けてくれた今のお父さんたちとの10年が十分幸せだったからね。確かに本当のお父さんとお母さん、友達のことを思い出すと胸が痛くなるよ。でもだからって、いくらイネちゃんが皆のことを思って悲しんでも、皆が生き返るわけじゃないじゃない。だったら、だからこそイネちゃんは笑うんだよ。イネちゃんが笑っていなかったら、今のお父さんたちも悲しんじゃう、イネちゃんはそっちのほうが嫌」

 キャリーさんが本気で言っていると思ったから、イネちゃんも思っていることを嘘偽りなく伝えた。

 そしたら今度はキャリーさんだけでなく、ウルシィさんまで泣き始めてしまった。

 ミミルさんもなんか涙目になってて、イネちゃんとしてはこれ以上どうしたらいいのかわからなくてあたふたすると、ヨシュアさんがイケメン的発言をしたの。

「それでもイネちゃん、君が辛い思いをしたことには違いないだろう。だから皆が君の境遇について同情で悲しむのまでは止めないで欲しいと思うんだ」

 流石3人もべったりくっついてるイケメンさんは伊達じゃないんだなー。

 しっかり3人のことを考えて発言してるのがわかる、けどイネちゃん的にはマイナスだよね、この発言。

 イネちゃんはそんな感想を抱きつつ、3人の様子を伺って気が済むまで好きにさせようと思った……のだけどいいことを思いついたので賢いイネちゃんは提案するのである。

「それならー……さっきイネちゃんがまだイーアってお名前だった時のお父さんとお母さんのお墓にお参りしてよ。案内するから」

 イネちゃんの提案にヨシュアさんは賛成、もうすることが当然って感じの二つ返事で。

 ヨシュアちゃんが賛成なのだから、当然他の3人も賛成した。

 イネちゃんは皆が賛成するのを確認してから、勝手知ったる村の案内を始めた。

「こっち、イネちゃんがイーアだった時のお家はもう少し奥にあるから。あ、そこはお友達だったミアちゃんのお家。恥ずかしがり屋さんだったからあまり入らないであげてね」

「あ、ここはアッシュ君のお家。ミアちゃんのことが好きだって言ってたし日記も書いてたらしいから、もし見つけても見ないであげてね」

 イネちゃんはお家に案内する途中、お友達のお家だったところも教えると、やっぱりキャリーさんたちの表情が曇る。

 多分とっても共感能力が高いんだろうね、初対面がアレだったからイネちゃんからの印象は残念なことになっていたけど、他人の境遇にここまで本気になれる人ならいい人?なのかも。

 イネちゃんがキャリーさんたちの初対面評価を変更していると、目的地であるイーアのお家に到着した。

「ここがイーアのお家、お墓はお庭に作ったんだよ」

 イネちゃんはそう言って皆をお庭に木の棒で作ったお墓の前に案内する。

 とっても簡単な作りだったから、皆はお墓だって認識するかわからなかったけどわかったみたい、よかった。

「祈らせてもらっても、いいかしら」

 驚いたことに最初に祈ってくれたのは一番消極的だったミミルさんだった。

 ミミルさんに続いて他の人たちも、イーアのお父さんとお母さんのために祈ってくれた。

 さっき一人でお参りした時にはあまり感じなかったけど、こうして祈ってくれる人がいるのはとっても嬉しいことだね。

「それじゃあ、行こうか。イネちゃんにとってはあまり長く居たくないかもしれないし」

「イネちゃんは問題ないよ、ただまた今度来るねって言ったのにすぐ戻ってきちゃったのが気まずいけど」

 やっぱり、イネちゃんが平気っていうと皆が暗い表情になる。

 確かに、こっちの世界でゴブリンに襲われるっていうのは実質的に死んだって扱われる。

 助けられてもイネちゃんみたいに元の地域で暮らすことができないほど嫌がられたり、嫌がらせもされたりする。

 ただイネちゃんはその辺の嫌な思いは、お父さんとお母さん、友達がいなくなったこと以外は今のお父さんたちのおかげで経験せずに済んだ分、本当に救われたんだと理解はしている。

 だからイネちゃんと同じようなゴブリン被害者で、ずっとこっちの世界に住んでいた人の気持ちはイネちゃんにはわからない。多分3人はイネちゃんとその人たちを同列に扱ってくれているんだと、この短い間のやりとりでなんとなくわかった。

「だから、今は町に帰ろうよ。イネちゃんはまだ傭兵さんにしかなっていないんだからギルドで冒険者さんの登録もしなきゃいけないし」

 今度はイネちゃんのその言葉で、皆がとても驚いた。

「貴女、成人していたの!?」

 イネちゃんは、10歳くらいに見られていたようです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る