第2話 イネちゃんの本当のお名前

 街道に出たときに通りかかった商人さんに驚かれたりしたけど、イネちゃんは元気です。

 まぁ今その商人さんの荷馬車に乗せてもらって、目的地である町に向かえているから結果おーらいなのである。

 何事もなく町に着くと、商人さんに乗せてもらったお礼とお駄賃を渡して、まずは最初によーへーギルドへ一直線、とにもかくにも傭兵さんとして登録しておかなきゃね。

「たーのもー」

 ギルドはお父さんたちから教えてもらった通りの外見の建物だったからすぐにわかった。

 イネちゃんは木で作られた扉を勢いよく、大きな声で突入を知らせながら入るとなかにいた人たちが皆イネちゃんのことを見てきた。

 うんうん、イネちゃんは可愛いから見たくなるのは仕方ないよね。

 さて、ギルドの受付はどこかなーと周囲を見渡すと正面の一番奥にそれっぽいカウンターを発見、これにてイネちゃんの傭兵さんとしての第一歩が始められるのだ!

「えっと、君のお父さんやお母さんは?ここは大人の人しか来ちゃダメなんだよ」

 イネちゃんがカウンターにたどり着くとほぼ同時、カウンターに座っていたおにーさんが失礼なことを言ってきた。

「失礼しちゃーうな、イネちゃんは確かに背もちっちゃいし、お胸も自分で悲しくなるくらい育ってないちんちくりんだけど、これでも17歳なのです!」

 ぷんぷん。と怒っていることを知らせるために最後に付け加えると、受付のおにーさんは慌てた様子で、だけど困惑した表情でキョロキョロしてる。

「はーやく手続きおねがーいします」

「えっと、でも……」

 イネちゃんの催促におにーさんはごねると、カウンターの奥からイネちゃん的に見覚えのあるお姉さんが近づいてきた。

「ちょっと、何事……って貴女は」

「お姉さん、お久しぶーりです!」

 イネちゃんが助けられたときに、最初に預けられたときにお世話をしてくれたお姉さんが奇跡の登場!

 でもお姉さんはもうちょっと離れた、ここより大きい町のギルドさんに居たような気がするのです、でーもそんな時は聞けば解決解決。

「でも、お姉さんがなんでここに?」

「貴女があの4人に引き取られた後、このあたりの開拓事業が持ち上がってね。私は貴女に何もしてあげられなかったから、せめてあの村の慰霊の意味も兼ねて参加させてもらったの。今じゃ開拓者唯一の第一陣で最古参とか言われてるわ」

 受付のお姉さんは苦笑した感じで説明してくれた。

「慰霊って、あの村はまだ残ってるんです?」

「まだ手がつけられてないから廃墟って感じだけどね、冒険者や傭兵の人に依頼する形で定期的に巡回してもらってるから、それほど危ない状態ではないけど……」

「そうなんだ、じゃあイネちゃんは傭兵さんの手続きと一緒に冒険者さんの手続きもして、一度帰郷って奴をしてみよう!というわけでおねーさん、手続きお願いしまーす」

 お姉さんは少し困った顔をしたけど、少し考えてから首を縦に振って手続きをしてくれた、やったね。

 でも傭兵さんと冒険者さん、どっちもーという登録は色々面倒なところが多くて、今は傭兵さんの手続きだけになっちゃった。

 お姉さんを困らせるのも良くないし、故郷の村に言ってイネちゃんを産んでくれたお父さんとお母さんに挨拶して、戻ってきてからじっくりと手続きすることにしたのだ、イネちゃん賢い。

「わーい、お姉さんありがとう。じゃあイネちゃんは早速村に行ってくるのです!いってきまーす」

「あ、ちょっと……」

 なんだかお姉さんが呼び止めていた気もするけど、イネちゃんは一刻も早くイネちゃんの産まれた村に行きたかったから振り返らなかった、お姉さんごめんなさい。

 村はこの町からゆっくり徒歩で言っても10分程度、さっきお姉さんに地図を見せてもらって縮尺も確認してたから確かな情報、イネちゃんは抜け目ないのだ。

 そのくらいの距離なら、お家を出るときに用意していた装備で十分分。

 町で準備をするにも今はお父さんたちから渡されたお金しかないから、大事に大事に使わないといけないし、直ぐに帰ってくれば買い足さなくても問題なーいない。

「それでは、イネちゃんいっきまーす」

 イネちゃんは意気揚々と、村へと向かうのであった。

 村への道は、受付のお姉さんが言っていたように定期的に人が行き来している感じで、舗装まではされていないけどとっても歩きやすい。

 イネちゃんは木漏れ日を気持ちよく感じながら歩いていると、10分がとっても短く感じるくらい早く村に到着しちゃった。

 10年ぶりに訪れたイネちゃんの産まれ故郷は、多少壊れているお家もあるけど大半のお家はドアが壊されている程度で原型を留めていた。

「でもなんだかすごく寂しい……」

 独り言なのはわかっているけど、イネちゃんは口にしないことができなかった。

 この寂しいというのは、誰かが暮らしていたことを知っているのと、その誰かを知っている、その二つが混ざっている。

 イネちゃんはそんなことを感じながらも、勝手知ったる感じでテクテクと村の中を歩いていくとひとつのお家の前に立った。

「ここが、イネちゃ……イーアのお家」

 ここでイネちゃんは、イネちゃんになる前の名前を口にする。

「たーだいま、おーかえり」

 一人で、自分のただいまにおかえりを返しながら中に入ると、とっても懐かしい思いでを思い出す。

「ここでお母さんがお料理してて、そんな時はお父さんがこっちでイーアに御本を読んでくれてた」

 10年前の、あの時まで続いていた幸せな思い出。

 でも、もう無い思い出。

 イネちゃんは元々自分の部屋だった部屋に入ると、写真とぬいぐるみさんを見つけた。

 イネちゃんがイーアだった時に、お気に入りだったうさちゃんのぬいぐるみ。

 それに大好きだったお父さんとお母さんと一緒に写った写真。

 元々イネちゃんの物だったし、持って行ってもお姉さんに怒られないよね。

 イネちゃんはそう思いながらも写真とぬいぐるみをマントのポッケに入れると、お家の庭に木の棒で簡単にだけどお墓を作った。

「お父さん、お母さん。イーアは今、イネってお名前で健康で幸せに生きています。イーアがいなくて寂しいかもしれないけれど、ミアちゃんやアッシュ君にもイーアは元気だって伝えてください。もっともっと伝えたいことはあるけれど、これからはちょくちょく村に戻ってこようと思っているので、またの機会にさせてね。それじゃあ、イーアことイネちゃん、いってきます」

 お父さんとお母さんに、イネちゃんの現在いまを報告するとイネちゃんは立ち上がり、町に戻るのである。

 お姉さんに写真とぬいぐるみのことを言わないといけないしね!

 でも、イネちゃんはこの時お父さんたちに仕込まれた気配察知能力で気づいてしまったのです。

 そして受付のお姉さんが呼び止めようとしていた理由も、多分これだったんだろうなぁと察するのであった。

「狼さん狼さん、貴方たちはとっても腹ペコなーのかしら?」

 イネちゃんの問いかけに、狼さんたちは素直に飛びかかってきて答えてきた。

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