scene84*「特別」


「愛してますよ」


女の子は何だかんだ言っても、好きな人に贔屓してもらいたい。



【84:特別 】



「ねぇ、あたしのこと好き?」

「はいはい、そーですよ」


私は一日に一回は絶対に聞く。 それに対して彼のテッちゃんは「やれやれ」と言った顔。

だって……特別だけど、もっともっと特別になりたいの。

私は子供でわがままだ。


「俺の事好きですか?」

「愛してますよ」


最近は真似して言ってくれるようになった。

私があんまりにも聞くもんだからすっかり慣れっこになって、逆にコミュニケーションの合言葉みたいになっている。

どっちかが聞くたびにハイハイと言った感じで答えるのが常だ。


テッちゃんは高校1年生の頃から知っていて、ちょっといいなって思ってた。

違うクラスで接点あんまりなかったから、友達に紹介してもらってとにかく押せ押せでアタックして付き合うことができた。

2年生になっておんなじクラスってだけでも幸せなうえに、片思いが叶うなんて生まれて初めてで、とにかく全部が嬉しくてまさに人生バラ色!

学校が毎日楽しくて最高なんですけどー!って叫びたい気分だ。


そして告白してから、テッちゃんもだんだんと私の事を知って好きになってくれて、私はますますテッちゃんが好きで好きでしょうがないのだ。

だからつい、しつこいかもしれないけれどその愛情とやらを伝えたくなるし確かめたくなっちゃう。

それってやっぱりまだ子供なのかなぁ、私。

彼氏のいる友達たちのように大人っぽくふるまえない。


今日もテッちゃんとランチは一緒。

もちろん、男女混合の仲良しグループでおしゃべりしながら食べるけど、私はテッちゃんの隣にぴったりくっついて食べる。

もう何と言われたっていいの。

青春を謳歌したいのだ。


「そう言えばメグが好きな俳優の人、破局したって朝のニュースで出てたね」


お昼を食べ終わって、それぞれしゃべったりケータイいじったりゆっくりしてる時に、親友のアヤミが言った。

そうそう。私もそれ朝見てビックリしちゃった。

モデル出身で、今人気のドラマにも引っ張りダコのイケメン俳優の人。


「私、朝からびっくりしちゃった!あの女優さんとすごくイイ感じだったのにショック~。絶対にあの2人の間に子供とかできたら超可愛いよね」

「イケメンと女優だからねぇ」


私が言うと、アヤミは話題を振った割にはたいして興味なさそうだ。

アヤミは綺麗な見た目のまんま性格もかっこいい。

これがきっと大人っぽい……いや、年相応なのかも。

芸能人の恋愛につい一喜一憂しちゃう私はやっぱり子供っぽいか。

するとアヤミの隣で話を聞いてたクラスメートのアキト君がケータイを見ながら言った。


「あ、何か午後のニュース速報でその俳優の新たな熱愛になってるっぽい」

「えー!!じゃあ二股ってこと!?」思わず絶叫。


元カノである女優さんと交際宣言とかあんなに堂々としてたのに……。

アキト君の読みあげるゴシップ速報の内容を聞いて、前の女優さんと全然違うタイプの交際相手なうえに、時期的にめっちゃ二股してるじゃん!っていきついて何だかガッカリしてしまった。

……イケメンすぎるゆえに、恋のチャンスがじゃんじゃん降りてくるってことなんだから、なんだか羨ましい半面、それが彼氏とか片思い相手だったらたまったもんじゃないなぁと思った。


私は何となく、隣でみんなの話を聞いているテッちゃんの顔を見た。

テッちゃんは私のほうを見て……いや、見つめてくれて……やっぱりテッちゃんカッコいいなぁ。好きだなぁ。


「……テッちゃん、あたしのこと、ずっと一番にしてね」

「急にどうした?」

「だって、カッコいい人の二股話聞いちゃったからさ。なんとなく」

「それ俳優の話だろ」

「そうだけど!でもカッコいい人には可愛い子が寄ってくるんだなぁって……」

「俺カッコよくないって」

「カッコいいよ!イケメンだよ!」

「さすがに彼女にイケメンって言われるとリアクションどうしていいもんやら…」

「いいの!だからテッちゃん。モテてもいいから、あたしのことはずっと一番にしてね」

「しょうがないなぁ。俺はいつだってメグちゃんが特別ですから心配しなくていいってば」

「本当?」


女の子は何だかんだ言っても、好きな人に贔屓してもらいたい。

そんな嬉しい言葉聞いただけでテンションあがっちゃうんだから、やっぱり大人っぽくおしとやかにしてるなんて、私はできなさそうだ。


「なんなら、特別席もご用意してありますが?」

「座る!!」


彼がぽんぽん、と叩いたところに私は座った。

特別席、それは彼の膝の上。

ここに座れるのは、テッちゃんちで飼ってる犬のショコラと私だけ。

だけど「特別」な言葉を言ってもらえるのは私一人だけ。

私は大好きなテッちゃんの膝の上に座って、顔をニコニコと見つめて言った。


「あたしがこんなことするのは、テッちゃんが特別だからだよ?」

「ハイハイ、わかってますよ」



それを毎日見てる親友のアヤミはあきれ顔だけど、うちらは今日もラブラブなのでした。





「つーかここ教室なんですけどー」

「まぁまぁ。もうこれ日常茶飯事だから仕方ないだろー」

「バカップルめ……」

「もしかしてニシムラ、羨ましい?」

「バカアキトうるさい。膝に座るとかホント勘弁してよ」

「どうせなら“ひざまくら”がいいなぁ。なぁなぁ、俺らもやってみる?」

「だからやらないってば!」


それはまた、別のお話。



( いつだってどこだって、ひっつきたいんだもん。 )

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