scene83*「笑顔」
好きな人が笑ってくれるのは、きっと誰だって嬉しい。
【83:笑顔 】
いつでも、近くで顔を見ていたいって思う。
笑う顔を見れたらなって思う。
私が笑わせてあげたいなって思う。
タキガワの事を、気がついたら「好き」になってた。
それを自覚したのは、7月に入り高校生になって2回目の夏休みまであとちょっとって時期。
「ちょっと、タキガワ」
「なに?」
「チャックあいてる」
「えぇ!?うっわ、ホントだ。さんきゅー」
なんだこの間抜けな会話。ちょっと白けた。
トイレから帰ってきたタキガワは、目の前でジジジ……とチャックを閉めた。 私はすかさずツッコミを入れる。
「一応あたし女の子なんだからさぁ、ちょっとは気にしようよ!」
「悪りー悪りー!」
ぎゃははは、なーんて笑って、ガタガタと2列隣の席に座る。
まわりの男子とかも「馬鹿じゃねーの!」って、ぎゃはぎゃは笑っている。
あーあ。
仲良くしてくれる事は嬉しいんだけど、あんなふうに何でもないようにされるのは、女としてみられてないって事でさ。なんか物悲しくもなるわけよ。
そんな乙女心なんか分からないタキガワはゲームの話で、すっかり盛り上がってしまっている。
タキガワとはゲームの話とか漫画の話とか、音楽の話とかケータイの話とか、たくさん話が合う。そして見るからにお調子者。
それなのに部活のテニス部では後輩の面倒見が良かったり、悪口が大嫌いで学校行事を前にすると意外と男前なとこもある。 友達も多いし、いわゆるムードメーカー?
そんなちょっとしたところにドキドキしちゃう程度なんだけれど、でもこれって確実に恋だよねぇ?
少女漫画なんかだと確かこういう展開は確実に主人公は男の子を好きになっているのだから、きっとこれが恋ってやつなんだとは思う。
だけどドキドキもするけど鈍いタキガワにモヤモヤもしている。
恋はドキドキしてもモヤモヤするって考えた事がなかったので、はたしてこれが本当に恋なのか疑わしいけれど。
そんな風にモヤモヤと考えてたら、次の授業が始まるようで先生が教室へと入ってきた。
みんなかったるそうに席について、私は頬杖ついて窓のむこうを見た。
頻繁に指名される授業じゃないからボーっとできると思い、グラウンドを見ると友達のクラスが見えて、この暑いのに数人の女子がなぜか走り込みをしていた。
でも今の時期はプールだから……あぁ、水着になりたくないorなれない理由の女子か。
その中に友達の姿を見つけた。後でからかおうと思ったときに、スカートのポッケにあるケータイが震えた。
(誰だよ。こんな時にメッセなんて。めんどくさ。)
ちょっと背もたれに寄りかかって、先生の様子を窺いつつ机下でケータイを見た。
『From タキガワ:財布忘れた。なので昼飯代貸してくれ。マジ頼む。』
見たら私と同じようにして机の下でケータイを開くタキガワが、片手で頼むポーズをしている。
私は敢えて冷ややかな目でため息をつくと、すぐ返信する。
「To タキガワ:私、余分なお金、今日は持ち合わせてなぃんだけど・・・(T_T)」
『From タキガワ:いや、マジでホント頼むから!!m(_ _)m』
「To タキガワ:高橋とか男子に頼めばいーじゃん~」
『From タキガワ:あいつらのほうが金持ってねー!!』
うぅむ。仕方ないなぁ。
先ほどからチラチラとタキガワを見ているけど、困ったような顔で必死にお願いするような表情。
ちょっといじめてやりたいかな~、なんて思ったりしながらも可哀相な気もするのでやめといた。
「To タキガワ:絶対に、返してよね。いいよ」
送信ボタンをカチと押すと、なーんかまた物悲しい気持ち。
関わり持ててそりゃ嬉しいけど……嬉しいんだけどさ……。
するとすぐ返事が来た。
『From タキガワ:マジ!?すっげありがてぇー!!絶対返す!!まじサンキュー!サービスして、明日マックかスタバ奢るから!』
なんておいしいお礼つき。
思わず口元緩みそうになっちゃったじゃない!
私は緩む口元を我慢して、隣のタキガワのほうを向いた。
そしたら、もう本当に嬉しそうな顔で「ニカッ」と笑ってくれたもんだから、
あぁ、もうどうにでもして。
結局、その笑顔さえ見れれば、なんだっていいや
大好きすぎるその笑顔さえ見れれば、なんだっていいや。
そう思ってしまって、私もつられるようにして、思わず笑ってしまった。
ちなみに、マックかスタバで悩んだ末に結局スタバでごちそうになって、
今までにない、目が眩むほどのドキドキを、彼から打ち明けられる場面がやってくるなんて、
その時の私は、まだ知らない。
( 「それとなしに、アピッてたつもりなんだけど……マジで気づいてねぇの……?」 )
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