scene82*「鍵」
ロッカーの鍵を無くした私。親切なお隣さん。
【82:鍵 】
「大したもんいれてねーから、オレのロッカー、一緒に使えば?」
廊下でおろおろしていた私に、シラオカがそう言った。
そう、ワタクシ、ロッカーの鍵を失くしました。
マジで最悪。
教科書とか体育着とか入ってんのに……。
有り難い申し出だけど、何となく気が引けた私は断った。
「あ……ありがと……でも入れるものないから大丈夫だよ」
「そう?」
普段あんまり会話をする事はないけど、私とシラオカのロッカーは隣接している。
にしてもロッカーの鍵、ホントどこいったんだろう。って自分の管理能力の無さが原因なんだけど。
体育があるのは金曜日だし、幸いにも今日は火曜日だ。
数学とか主な教科書は引き出しに入ってるけど、家庭科とか地学とか移動教室で使う教科書は大概ロッカーの中に入れてしまっていた。
他クラスの友達に事情話して借りればいいけど、なんだか面倒くさい気もする。
そうも言ってもられない状況ではあるんだけど。
私はため息をつき軽く落ち込みながら、でもどうせ金曜までには見つかるだろうと思っていた。
しかし……
ない。
みつからない。
もう木曜日の放課後まで来ていた。
金曜日の体育は5限。ラストチャンスは明日の昼休み。だからなるべくなら、今日中に見つけたいと思っていたのに。
けど……ペンケースとか鞄とか部屋で探してもなかった。
一体どうすればいいんだと、ロッカーの前で肩をガックリ落とし途方に暮れていると……。
「鍵は見つかったんか?」
横から現れたシラオカに声をかけられたので、私は落とした肩をすくめて「全然」と答えた。
「これ、もう先生に言ったほうがいいかなぁ……」
ダイヤル式にしておけばよかった、と今更後悔をしていた。
ダイヤルだと絶対数字忘れる!なんて思ってたぶんに余計だ。
鍵だって失くしちゃえば、開かないものは開かないのに私は一体何をやっているんだろう。
浅はか過ぎる自分にため息しかでてこない。
すると、そんな私の横で「ちょっといいか?」と、シラオカは鍵を出して私の錠をいじりはじめた。
「え、人ので開くわけないじゃん!!」
カチッ
え?
目を疑った。
何故ならシラオカの鍵で私のロッカーのカギが開いたからだ。
「……教室の後ろの黒板のとこに置いてあった。 多分誰かが拾ってそこに置いたんだとは思うけど。ひょっとしたらって思ったら当たりだな」
驚いてる私の手にシラオカが鍵を落とした。
何にも飾りをつけていないシンプルすぎる鍵はもちろん紛れもなく見覚えのあるものだった。
「女だから、ディズニーのキーホルダーとかつけてんのかと思った」
「……ありがと……」
「見つけたら教えんのが当たり前だろ。もう失くすなよ」
これで明日の体育は免れそうだ。
だけれど、それ以上に親切なシラオカに、ちょっと驚いていた。
きっとこれは男の子の優しさに慣れていないせいだ。そう思った。
「今度からキーホルダー、つけるようにする」
「そうしとけ。じゃあまた明日な」
「うん」
私は半ば呆然としながら、シラオカの後姿を見送った。
翌日。
体育の授業前の昼休みに、体操着をとりにロッカーに行くとシラオカがいた。
「昨日はホントありがと」
「おう」
お礼を言った私はロッカーから体操着を取り出し更衣室に行こうとすると「おい」と呼び止められた。
私は、なんだろうと思って振り向くと……。
シラオカの手にはとっても不釣合いなほど可愛い、ミニーちゃんのキーホルダー。
「お前って感じじゃねーけど、とりあえずこれでもつけとけ」
ぶっきらぼうな物言い。おまけに私って感じじゃないって何よ。
って確かに私のイメージじゃないけど……。それにこんな可愛いの、一体何でシラオカが持ってんのかもわけわかんない。
「あ、ありがと」
とりあえず手のひらに受け取ったキーホルダー。
何てことのないやりとりなのに、私の中で何かの鍵がカチッと開いた瞬間だった。
( ミニーちゃんのキーホルダーが、初めての宝物になりました。 )
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