scene77*「宝物」
宝物は、もちろん君。
そんなん言えるはずないじゃない。
今更こっ恥ずかしすぎて。
【77:宝物 】
「そういや小さい頃とか宝物集めてたなー」
「道端で拾った綺麗な石とかビー玉とか集めてたかも」
「子供って集めんの好きだよな」
「好きだねぇ。うちらもそうだったもんねぇ」
休みの日に二人してスーパーへ買い出しに行った帰りに、公園を通りかかった私たち。
遊具で遊んでる子供たちを眺めながら、買ったばかりのアイスを食べて歩いていた。
私が選んだのはバニラアイスで、彼はチョコバナナだ。
5月の陽気はとてもあたたかで、バニラビーンズの香りに酔いしれる間もなくアイスが柔らかくなるのが早くて、私はそれにちょっと慌ててしまう。
子供の時はアイスバーなんてしょっちゅう好きで食べていたのに、大人になってからカップアイスばかり食べていたからか子供の頃の私よりもアイスの食べ方が下手になっているような気がした。
先ほどの子供の頃の宝物の話でふと考える。
今の小さい子とかって、道端で綺麗な小石なんか見つけるだろうか?
ビー玉なんかじゃなくて、ゲームで遊ぶんじゃないだろうか。
そんなことが少しだけよぎった。
私たちが小さい頃はまだゲーム機なんて全員が持ってなかったけど、時代って思ったよりもずっと早い勢いで流れるのかもしれないなって事も。
今ではゲーム機を大体の子が持ってる事が当たり前なんてすごすぎる。
……そう考えたら、たとえば綺麗な小石を見つけても、それをわざわざ宝物にするだろうか。
それでも、子供は子供なのかな。
自分たちが親になって子供と接しないと分からないだけで、意外と今の子供たちもくだらなくて美しいものを宝物として大事にしているのかもしれないな。
子供の頃に大事にしていたもの。
記憶の中の箱を開けるというよりも、むしろ勝手に開いてくる思い出。
外国のお土産の紅茶の缶とお菓子の缶。
友達から貰った綺麗な色の小さなメモ帳。
ラメの入ったオーロラ色した薄い淡いオーガンジーのリボン。
お菓子のおまけについてた星や月がモチーフの小物入れ。
親戚のおばちゃんからお誕生日祝いにもらったポストカードが沢山入るミニアルバム。
植物と妖精の絵が描かれた可愛いイラストのカード。
宝物ではないけれど、そんな中に内緒で混じってる、小さく折り畳まれた点数の良くないテスト用紙。
ちょっと思い出し笑いしてしまいそうになってこらえる。
あのテスト用紙ってどうしたっけ。結局残ったまんまなのかな。
今度実家に帰った時に押入れの中からあの缶を捜してみようと思った。
あれやこれや、どんなものでも大事にしまってた。
じゃあ、今はどうだろう。
……今の私の宝物って、なんだろう。
ハッとするような気持ちになり、思わず彼を見たらアイスを食べ終わったばかりらしくちょうど目が合った。
「どうかした?」とちょっとだけ訝しそうに、だけどそっと微笑んだ彼に聞いてみることにした。
「宝物って、ある?」
「……今の?」
「そう」
すると彼はちょっとだけ考え込んでから「内緒」と、いじわるそうな顔で言った。
そのひょうきんな様子が彼らしくて「何その表情」と笑ってしまった。
それにしても内緒だなんてどういうことかしら、と思ったら彼がそっくりそのまま返してきた。
「そっちは?」
「じゃあ私も内緒」
「なんだよ」
「そっちこそなによ。おかえし」
やっとわかった。
……今の私には君が一番大切だよ。
それってきっと宝物と同じくらいに。
この何気ない時間が一番愛おしいって、宝物ってことだよね。
本当はそう言いたかったけど、やっぱり照れくさくて、誤魔化すみたいにアイスの最後の一口をパクついた。
( 宝物は隠しとくから宝物なの。だから言えないの。 )
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