scene74*「放課後」


「待ってる」

そう言って、穏やかに微笑んで返してくれた彼が好きだと思った。



【74:放課後 】



別に初めから、彼の事を好きだとかは思っていなかった。

ただクラスメートの一人としては、とても良い人だなって思っていた。

でも多分……というか絶対に、そう感じた瞬間には既に気持ちは向いてたんだと思う。それもお互いに。

自意識過剰だろうか。

だってそっちも、私のこと結構好きなのかもしれないって分かっちゃったんだもの。


あんまりクラスでは話さないけど、ふとした瞬間に、さっきだって目を合わせたら笑ってくれた。

私はそのときの彼の顔が、たまらなく好きでつい同じようにニコっと返す。

周りに悟られないように、お互いほんの一瞬の挨拶。

教室ではつかず離れず、普通の友達の距離。

そんなに話すほうではないけれど、全く話さないわけでもない普通のクラスメート。


そんな彼と偶然、物理の授業で同じ班になった。


「よろしく」

「こちらこそ」


ごく当たり前の会話を交わして、ただ一緒に実験をする。

実験をしてデータをとって、黙々と作業。

必要最低限以外の会話はせずに、お互い手を動かしてメモをして、それだけ。

作業している時は言葉少なのせいか、時間の進みがゆっくり感じたのに、4限目の終了チャイムが鳴ってから何だかあっという間な時間だったかもしれないと思った。


ご飯激戦区に立ち向かっていく購買組は、片付けもおろそかに教室から出てってしまう。

のんびりお弁当組の私と彼は、片付け組として残った。

お互いわざとゆっくり片づけをしたからか、必然的に教室には二人だけになっていた。

誰もいなくなると、彼が私にようやく話しかけてくれた。


「ミムラさん。俺の事よく見てるよね。目がよく合うからさ」

「うん。そっちこそ、あたしのことよく見てない?」

「うん。見てるよ」

「私も」

「俺たちって同じかもね」


うん、そうだね。という気持ちと、何が?と今ここで確かめて聞いてしまいたい想いが同時に浮かんだ。

でもそれは少し野暮な気がしたから、頷いておいた。


「ミムラさん、今日の帰り、時間ある?ずっと話したかったことがあるんだけど」


彼は教科書とノート、無印のプラスチックペンケースを持ってドアのほうへと向かう。

遠くのにぎやかな廊下とは違って、静かな教室で二人の会話がやけに響く。


「うん。あたしも。ずっと言いたかったことがあるから」

「よかった」

「そしたら先に下駄箱で待っててもらっていい?」

「分かった。待ってる」


そう言って、穏やかに微笑み返してくれた彼が、やっぱり誰よりも一番好きな男の子だと思った。


先に彼が下駄箱に向かっている時に、お気に入りのリップをつけて鏡で自分が変じゃないように確認しなくちゃ。

ちゃんと可愛く思われたいから。

そしてきっとお互いこう言うのだろう。


……―― 僕と、私と、

「「付き合ってくれませんか?」」



( 恋の始まりは必然 )

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