scene12*「氷」

あつい。あつい。


まるで私は彼の唇にもてあそばれて溶けてゆく氷みたいだ。



【12:氷 】



暑くて暑くてしょうがない夜に目が覚めた。 壁にかかった時計を見ると夜中の2時半だった。

こんな中途半端な時間に目が覚めるなんて明日が休みでよかったと思う反面、なんだか勿体無いことした気分にもなる。

部屋の空調は調子が悪いはずなのに、隣を見ると恋人は涼しい顔して眠っている。


「のどが渇いた……」

私がうわごとのように呟いてみるも、起きそうな気配は無い。

こめかみあたりにじんわり汗がにじんでいるのを感じ、夜にシャワーを浴びてまた朝にシャワーを浴びる事を思うと夏はどこまでも水道代によろしくない季節だ。


恋人を起こさないように、のそのそと起き上がり冷蔵庫に向かう。

冷凍庫をあけると中で氷が転がる軽快な音がした。冷気がサァッと顔にかかり、しばらくこのままでいたいくらいに気持ちがいい。さっきは水道代ばかりかかると思ったけどこれじゃ電気代もかかってしょうがない。やっぱり夏って燃費が悪すぎる。


私は手ごろな大きさの氷をみつけて、口の中で転がした。

けれど頬の中の熱のせいで氷はあっという間に溶けてしまい、また一つほおばる。

すると背から 「どうした?」 と、声がして振り向くと恋人が起きていた。


「ごめん。起こしちゃった?」

「いーや。なにしてんの」

「氷食べてる。食べる?」

「うん」


そう答えるといかにも寝起きなおぼつかない足取りで近づいてきた。

そして冷蔵庫にもたれかかっていた私の肩をつかみ、唇を奪われた。舌ごと。


「んぅ……」

水の音がしたと思ったら、私の口の中は熱のみ残されて空っぽになった。

代わりに恋人の唇からは歯で氷を遊んでいる音が聴こえる。


「かえしてよ」

「いいよ」


そのかわり、もう溶けちゃったけど。


ひんやりした唇をはんだ後に、彼がにやりとした。

今夜はますます熱くなりそうだ。



( 声を殺す熱帯夜  )


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