scene11*「お帰り」

今日は週末お泊りの日。

この言葉を言うのが楽しみで仕方が無いのだ。



【11:お帰り 】



私と彼との約束事、というかもはや習慣になっているのは、週末の土曜日は彼の家にお泊りすることだ。


私も彼も基本土日休みだけれど、彼のほうが土曜日だけ隔週出勤になる。


今週の土曜日は隔週出勤の日で、たいてい私は金曜日の夜から泊まりに来て掃除したり洗濯したり、まあ主婦と変わらないけれどそんなことをしている。

週末だけだからか私も気楽にできている分、私にとってはその週末の家事がささやかな楽しみだったりする。


あれだ。擬似結婚生活みたいな。


この間、結婚してしばらくたった友人と食事をしてきた。

結婚生活どう?ってありきたりな質問に、「まわりの既婚者が言うように男の人は手がかかる説は本当だよ」と困ったように笑ったけれど、すぐに恥ずかしそうに微笑んで「でもね、好きな人と生活するのは思ったよりもめちゃくちゃ楽しいよ」と友人はアイスティーをそそくさと飲んだ姿を思い出す。

そうだよね。大変な事たくさんあるかもしれないけれど、周りの既婚者は「大変!」ってことばかり言うけれど、楽しくなければ誰だってみんなすぐに離婚しちゃうよね。

隠すことを美徳とせずに、素直に良い事を教えてくれる友人は本当に素敵な女の子だ。


そんなことを思いながら皮に詰めた餃子を包む作業が終わった。

そろそろ寒くなってきたし、餃子鍋が食べたいなぁって思っていたところだったからちょうどいい。葱と生姜をたっぷり刻んで、すりおろしたニンニクもまぜた餃子は彼も大好きに違いない。


ビールも冷えてるし、ご飯ももうすぐ炊けるから、あとは準備した鍋に出来上がった餃子を放り込むだけだ。

今から餃子鍋を美味しそうに食べる彼を想像しては、なんとなくにやけてしまう。

土曜日は仕事が早く終わるからそろそろ帰って来るだろう。

そんなとき。


『ピンポーン』


ほらきた。


私がいるときは、何故か自分の家のクセに律儀にインターホン。

思わず実家で飼っているコーギーが頭に浮かんだ。御主人様が帰ってきたのが分かったとたん、わんこが耳をピッと立てて玄関のほうを振り向く瞬間だ。きっと今の私もそれにちがいない。

私は可笑しさの笑いをこらえて、スリッパをならしてわざと 「はいはーい」なんて言っていそいそと玄関に向かう。


ドアを開けるとやっぱり彼がいた。

私の顔を見ると彼が笑った。私もこの顔につられて笑顔で言った。


「お帰りなさい」

「ただいま」


このやりとりが今は物凄く大切でいとおしい。

ケンカもするけど、でも大きなケンカは昔よりへった。

譲れない事やムッとくることもあるけれど

そこをどうにか許したり譲ったりする事もおぼえた。

そして、大事な部分は尊重してあげる事も。


まだまだ小さい壁とか衝突はあるけれど、でも近いうちにでも一緒に暮らせたらいいなぁって私は思うんだ。


ねぇ?あなたはどう思ってる?


今すぐ聞きたいけれど、でも「今日の」時間はまだあるから。

そんなことを思いながら、彼のスーツの袖をちょっとだけつまんだ。


( Sweet Home  )

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