scene10*「不安」
彼氏ができたらね、もっとワクワクとか期待してたのに……感じるのはどうして不安ばっかりなのかな。
「どっかいっちゃうのが怖い」なんて思いもしなかった。
それもこれも、君を好きになってから全部分かった自分。
【10:不安 】
まさか自分がしょうもない恋愛相談をする日がくるだなんて思わなかった。
「ショウ結構モテるんよ?知っとるやろ?余計に不安……なんか」
「せやけど、そのショウ君のほうから告白してきてくれたんやろ?」
「そうやけど……」
学校帰り、駅まで一緒に歩く一番の親友にため息をつきながら昨日と同じことを言っている私は、よっぽど脳内が暇なんだなと我ながら呆れそうになった。
そんな私の気持ちを見透かして優しく聞いてくれる親友がどこまでも神様のように思える。
そう、話題に上がった私の彼氏のショウはそれなりにモテる。多分本人も自覚してるんじゃないだろうか。
顔もいいし人あたりだって気さくで優しい。スポーツも得意だから交友関係も広い。友達が多い分、それなりに可愛い女の子友達だって多い。そんな人たらしな彼だけれどそれで調子に乗らない性格なところがますます魅力で……それなのに「並」である私で手を打つ理由なんて分かんない。
私はただでさえ馬鹿な頭なのだから、いくら考えてもショウの本当の気持ちなんて分かんないに決まってる。
そのくらい、ショウからの交際の申し出は突然だった。
たしかに1年生の時にクラスも一緒で、体育委員になったときだって逆にどんくさい私は迷惑をたくさんかけたはずなのに、ショウは一体私のどこが良かったんだろうと思う。
こうして帰り道に友達に相談ばっかりしてる私は、本当はショウを信じてないのかもしれない。
そんなのは本人に聞けばいい事なのに、友達に相談する時点でお門違いだ。
こんな調子で愛想つかされて他の女の子にいかれたら、多分悲しすぎて同じ日本にいたくなくなる。
不安が育って「でも」ばかりをつかってしまう不安な自分。
恋を知る前……付き合う前には思いもしなかった。
自分に彼氏ができたら毎日キラキラで、安心で、しあわせいっぱいでずっと楽しいかと思ってた。
ショウから告白された夜は嬉しくて信じられなさすぎて眠れなかったぐらい。
けれど段々と分かってきた。現実は日増しに「彼が人気者」なんだというのを改めて自覚して、しまいにはつまらない焼きもちが湧いて黒くて悲しい気持ちが育つなんて……「どっかいっちゃうのが怖い」なんて思いもしなかった。
かといってそれをショウにあてつけられない自分。
彼女っていったいなんだろう。どこまで我儘言えばいいんだろう?どこまで本音を言うのを許される存在なんだろう。
改札で別方向の友達と別れてホームについたころに、ブブッと制服のポッケが震えた。ショウからのメッセージ着信だった。ちょうどタイミングで電車がすべりこんできて、車内に入ってからメッセを開いた。
『今から家遊び行ってもええ?』
シンプルな文面だけど、とってもとっても嬉しい内容に頬がゆるんだ。
実はショウの家から私の家までは自転車で15分くらいのところだったりする。
不安でもやもやするくせに、何だかんだこの着信とこの言葉だけですっごく嬉しくて安心して、ホッとしてる自分がいる。
『ええよ。でもまだウチ着いとらんのよ。あとなぁ……15分くらいかかるかもしれん。ヘーキ?』
『わかった。銀だことくくるどっちがええ?』
手土産にたこやき。ショウはちょっと会う時でもジュースだったりガムだったり、毎回何かを手土産にくれる。そういうところが何だか可愛いし、カッコいいイメージだっただけに付き合い始めて意外だった部分だ。
『銀だこがええ。梅マヨが食べたい』
『了解☆』
こんなに優しいのだから不安なんて感じる事ないのかもしれない。
だから、こんなに優しくされているのに不安になる私は贅沢病。もっともっとって、ショウの心が欲しくなってしまう。
電車は地元駅につき、私はいつもより足早に駐輪場へと向かう。
家に着く頃には、ショウは玄関先にいるかもしれないな。銀だこの袋を提げて。そんでニカッて笑ってくれるんだろうな。
好きすぎて不安、寂しくて不安。
抱きしめられたってちょっと不安。
まるで異常だ。でも恋は異常にさせるのかもしれない。
でもね、抱きしめられた瞬間だけは限りなく幸せで。
もっともっと、ショウの気持ちを聞きたい。こんなめんどくさい私だけど、ショウの言葉で知りたい。
まっすぐに大好きって私も伝えたくなった。やっぱりあたしは贅沢病だ。
そんな自分に笑いながら、ペダルを一心にこいだ。
( 早く、君に会いたい。 )
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