隣人愛③

 短い草の生い茂る草原の真ん中にある、掘っ立て小屋のような建物の近くに、ルシフェルの姿をしたキャラクターが立っている。

 西には大きな森、東には小さな街が見える。草原ははるか地平線の彼方まで広がっており、画面を通して見てもその広大さを感じることができるようだった。


 草原の中に、そよ風が吹く。空を仰げば雲がゆっくりと流れ、草木は風にそよいでいる。草原に立つルシフェルも、その風の流れを受けて、髪の毛を揺らしていた。

 不思議な感覚であった。自分はここにいると言うのに、まるで同時にゲームの世界にも存在しているかのようだ。それはおそらくルシフェルが作ったキャラクターが自分をコピーしたような姿だからと言うこともあるだろうが、その世界が緻密に作りこまれているのが何よりの理由なのだろう。


 ――――そうでなかったら、人間たちが自力で新しい世界を作り出したことを純粋に喜んでおられるのか。


 ルシフェルは昨夜のミカエルの言葉を思い出していた。

 これはそう、確かにひとつの世界だ。虚構であるとか、作り物であるとか、そういう言葉で一蹴するのは簡単だが、それならば、ここが現実の世界とどう違うと言うのだろう。

 現実の世界もまた、創造主たる神がわずか7日のうちに作り出したものにすぎない。それのどこが作り物でないと言うのか。ルシフェルら天使たちから見て、下界の人間たちのすむ世界のどこが、虚構でないというのだろう。


 馬鹿馬鹿しい。大いなる神の御業と、人間が戯れのうちに作り出したものを同列に見るなどと。


 ルシフェルはかぶりを振った。

 こんなものは、所詮お遊びにすぎない。そして、それに必死になってすがりついている者もまた、その精巧な作りに騙されているに過ぎないのだ。


 ルシフェルがこのゲームを始めた理由はひとつだ。神とどうにか接触して、ここがいかに虚しい世界であるかを知らしめるだけである。

 とは言っても、具体的方法なぞまるで分からない。そもそもルシフェルは、この世界でどう振る舞えばいいのかもわからないのだ。

 ゲーム初心者もいいところで、ルシフェルは戦い方も、それはおろかどこに向かえばいいのかも分からないのだ。当面の目標は、この世界での身の振り方を知ることと、そしてどこかにいる神と接触することになりそうだ。


 と、そのときに、ルシフェルに話しかける者があった。

「ども、初心者の方ですか?」

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