提案①
「なあルシフェルよ。人間というのはかわいそうな生き物だとは思わんか」
ある時、神はいつものようにネットゲームにいそしみながら、そんなことをルシフェルにつぶやいた。
「ええ、分かっております。彼らは不完全な生き物ですから。そのために、我々が導き、正しい道を示す必要があるのでしょう」
「でな、考えたんじゃが」
ルシフェルは嫌な予感がしていた。このところ、神の提案する話というのは、大抵ろくな話ではない。
「ルシフェルよ、経験値というのはどうじゃろうか」
ルシフェルはろこつに嫌な顔をしながら、その言葉を聞いていた。
まちがいない。これはろくでもない話だ。
「ひとつの行為をするごとにな、その努力に応じて数字が分配されるんじゃ。それで、その数字がある程度になると、レベルが一段階上がって、能力があがる、と。おまけに、レベルが上がればその職種に応じた新しい
「……お言葉ですが」
ルシフェルは、後ろからモニターをのぞき込んだ。ゲームの中では、使用しているキャラクターが、レベルをアップさせるためにひたすらモンスターを狩りまわっているところだった。
「神様がそのゲームに大変おハマりになっておられるのは分かりますが、人間が作った虚構の世界と、現実の世界とをごっちゃにされるのは、どうかおやめになってもらえはしませんか。先日は、人間に魔法を使えるようにしようなどとおっしゃっていましたし、このところあまりにも度が過ぎているのではないかと」
「何を言うか。わしとてちゃんと考えて言っておるのだぞ。
下界というのは理不尽なものじゃ。いくら善行を積んでも、報われない者は多い。長い間修業を積んでも、花開かない者もいるじゃろう。
そういった哀れな者たちを、救済しようと言っておるのじゃ。
数字は正直じゃぞ。努力をすれば、努力をしたぶんだけ確かに結果としてかえってくるのじゃ。これのどこがいけない」
「お考えは立派かと思いますが……。そういうことは、できればそのゲームをおやめになってから提案していただけませんか」
「それとこれとは話が別だのう」
「それでは賛同いたしかねます」
神は、むうう、と不満そうにうなった。
「なら、こういうのはどうじゃ。街の外に、こう、獰猛なモンスターを配置してな、それを倒すと装備を強化させるアイテムが手に入ったり、お金を落としていったりという……」
「却下です」
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