ガーディアンの心臓を奪え! 後編


 一体何故こんな事になってしまったのか……。トレジャーハント目的だったツアー客たちは途方に暮れる。助けを呼ぶにも通信機器が一切使えず、例え何かの間違いで繋がったとしても、宇宙船が辿り着くまでどれだけの時間が掛かるのかわからない。皆、絶望に打ちひしがれ、中には気が狂い、叫びを上げだす者まで出始めた。


 しかし、この場でラオだけは全く別の事を考えていた。あの宇宙船を握りつぶした腕、恐らくは今回の任務の目的である可能性が高い。


(俺はあんな巨大な化け物を狩らねばならんのか……)


 腕だけであの大きさ、本体はどのくらいの大きさになるか。考えたくないし、想像すらしたくないが、やらねばならない。意を決する、と一人モービルへと乗り込む。


「おいジャック! どこへ行く気だ!?」

「決まっている。俺の目的はあの化け物だ」

「無駄骨だ! 俺たちはもう生きて帰れねぇんだぞ!」

「いずれにせよ、あれを狩らねば俺に帰る場所は無い」


 呼び止めるゴルアスだが、ラオは一貫して巨人の腕が現れた場所へ向かおうとする。


 ここで、リヒトがまた口を挟んで来た。


「ゴルアスの言う通り、あそこに向かうのは無駄だよ。もう奴はあそこにはいないだろうしね。奴らは自由にこの星の地上へと、現れたり消えたりできるんだ」


「ならどうすれば奴をおびき出せる?」


 もう一々リヒトの言う事に疑問を持っていてはキリが無い。そう思いラオは、単刀直入に尋ねる。


「まぁ慌てるなよ、一から話そうか。ここにいる他のみんなも、今から僕の言う事を聞いて置いた方がいいんじゃないかな」


 勿体ぶりながら、リヒトは周りにも聞こえる声でそう話す。自然と皆の視線が彼に集中するのだった。


「ここに来るくらいだ、冒険家フライヤの話は誰もが知ってると思う。彼は最終的にペテン師扱いされたけど、その理由はイビル・ニード星が見つからなかったからだけじゃない。問題は彼の発見した財宝にあったんだ」


 フライヤが持ち帰り、博物館に展示した財宝。研究家が調べたところ、その財宝はとある惑星に存在した王朝のものと酷似していることがわかった。つまり、フライヤはどこか別の星で財宝を入手し、イビル・ニードを捏造ねつぞうしたのでは?と疑惑を受けたのである。


「逆を考えてみよう。フライヤがこの星へ本当に降り立ち、財宝を持ち帰って来たケースだ。可能性として考えられるのは、財宝を輸送していたどこかの宇宙船がこの星で難破し、それをフライヤが見つけた……これなら辻褄が合う。実際に財宝を輸送していた宇宙船が行方不明になった事故は、過去に数多く存在するしね」


『だからなんだっつうんだ! 今の俺たちとどう関係があんだよ!!』


 堪り兼ねた一人を皮切りに、辺りが騒がしくなる。


「やれやれ鈍い人たちだな。いいかい、財宝が存在するってことは、それを輸送していた宇宙船も近くに残ってる可能性があるってことだよ? 勿論壊れている可能性が高いけど、これだけ居れば一人くらい宇宙船に詳しい人間が居たっていいよね」


 この言葉に皆は、辺りを見回し始めた。そしてリヒトは尚も続ける。


「お客様の中に、宇宙船を直せる方は居ませんか~ってね。もう一つ言っておくと、宇宙船が大人数乗れるとは限らない。最悪は早い者勝ちになるんじゃないかな。喧嘩にならないよう複数見つかることを祈るよ」


 すると話を聞いていた連中は、一人、また一人とモービルへ乗り込み、財宝の山へと向かい始めたのだ。恐らく宇宙船の整備に心得のある者たちだろう。それに誘われるかのように、他の者たちも後を追う。


 その様子を見ながら、リヒトはラオたちに近づき小声で囁いた。


「さ、彼らがある程度この場を離れたら、僕らも後に続こう。ガーディアンは財宝へ近づく人間に誘われ、また現れる筈だ」


「そのためにあんな出鱈目でたらめを吹き込んだのか」


「人聞きが悪いな、僕は行き場を失った彼らに可能性を提示しただけだよ」


 薄ら笑いを浮かべながら、自らもモービルへまたがるのだった。



 木々の間から見える山は、大分大きくなり始めていた。先頭集団から離れ、ラオたち三人は最後尾を走る。


「財宝探しが、とんでもねぇことになっちまったな。おいリヒト、この星の秘密とガーディアンとの関係について、そろそろ教えてくれてもいいだろう?」


「確かに不可解だ。財宝が元々この星の物でなかったのなら、何故奴らはそれを守ろうとする? そもそも奴らは何のために存在している?」


 ゴルアスとラオがリヒトを挟むようにして尋ねる。


「確かに僕は『ガーディアン』と呼んだけど、そもそも奴らは財宝なんか守っちゃいないのさ。強いて守っていると言うなら、この星そのものだね」


「この星を守っている、だと?」


「この星はね、生きているのさ。いわばこの惑星全体が一つの巨大な生命体。そこら辺に生えている植物やガーディアンは、彼の体の器官の一つに過ぎない。この場所を訪れた人間を捕食して、自ら生成できない僅かな養分を摂取するためのね」


 リヒトが説明した直後、行く手を塞ぐように巨大な姿が現れた。始めは高さ30mほどの塊だったが、次第に角と目が生えた人の形を作り始める。


「出たぞ! ガーディアンだ!」

「思った程大きくはないな」

「そりゃさっきみたいに巨大な腕を作るには、それなりのコストが必要だからね」


 見れば先頭集団は、巨人に立ち塞がれ立ち往生。中には恐れをなしてこちらへ逃げてくる者もいる。何人かは既に捕まり、口の中へと収められ始めていた。


「奴は俺一人でやる」


 ラオはモービルから降りると、無反動砲や狙撃銃の準備を始める。


「僕も手伝ってやるよ、その方が楽しいだろ。リーダーはどうするんだい?」

「仕方ねぇ、やるさ。例え宇宙船が見つかっても、また潰されたら敵わんしな」


 リヒトやゴルアスもモービルを止め、得物を取り出すのだった。


 トレジャーハンターを蹴散らした巨人は、次の獲物を見定めながらゆっくりと進む。


「ここだ化け物! 喰らいやがれっ!!」


 前方から現れたゴルアスが、巨人の体目掛けて機関銃をぶっ放す。しかし弾は巨人の体に飲まれるかのように吸い込まれていくではないか。それでも構わずに撃ち続けるゴルアスに、巨体はゆっくり歩みを進めた。

 ここでバランスを崩し、巨人は轟音を立てて四つん這いになった。密かに近づいていたリヒトがかかとを斬り落としたのである。


「そら! デザートをくれてやる!」


 すかさずゴルアスが手榴弾を投げ、慌ててその場から離れ身を隠す。手榴弾は巨人の口の中に入り、頭ごと木っ端微塵に吹き飛んだ。残った体はその場に倒れるも、頭を失って尚も動こうとする。


「ジャーック!」


(この体勢なら!)


 隠れ無反動砲を構えていたラオ、上空へと弾を発射した。弾道はゆっくりと上昇していき、一定の高さまで来ると網が広がって巨人の体を包み込む。大型生物捕獲用の兵器『ブラズマネット・ボム』である。網に絡まりもがく巨人へ、強烈なプラズマが走る。そして次の瞬間、網の各所についてる小型爆弾が一斉に爆発した。


「やったか!」


 頭を失い、黒焦げになった巨人へ人間が集まってくる。


「巨人の丸焼きか。味は元より食えるかどうかわからんが」


 冗談を言いつつ巨人の体に近づくゴルアス。その時、巨人の腕が僅かに動いた。


「離れろ! まだこいつは生きてるぞ!」

「な! うおっ!!」


 突然巨人から細い触手が生えて伸び、ゴルアスは捕えられてしまった。そして巨体は再び起き上がり出したではないか!

 触手から逃れようともがくゴルアス。しかし、もがけばもがくほど触手は絡みつき、巨人の体へと埋まっていくではないか。助けようと周りが銃弾を撃ち込むも、やはり弾は体へと吸い込まれていくだけだ。ゴルアスは巨人の体へと埋まりながら、必死に叫んだ。


「ジャック!! 俺を撃て! 俺の心臓が止まれば爆弾が爆発する!」


「──っ!!」


「早くしろ! こいつに喰われて死ぬのだけは御免だ!」


 言われラオは、狙撃銃をゴルアスへと向けた。



──ヒトゴロシ


(あぁそうだ、これは人殺しだ! 人として死なせてやるためのな!)


「ゴルアースッ!!」


 聞こえてきた声を一喝し、ゴルアスの心臓目掛け引き金を引く。

 次の瞬間、再び巨人は大爆発に見舞われる。立ち上がっていた巨人の体に穴が空き、フラフラとバランスを崩し始めた。

 と、ここでリヒトが巨人の体に飛び乗り、更に上へと高く舞い上がっていた。そこから大剣を巨体目掛け、振り下ろす。30mはあろうかと思われた巨人の体が真っ二つとなり、大きな音を立てて大地へと崩れた。


「ゴルアス、どうやら君は思っていた以上の戦士だったようだね。僕にも君のような仲間がいれば、どんなに心強かったことだろう」


 着地して立ち上がると大剣を振り払い、背中へと担ぐのだった。


 二つに割れた巨人の死体を、ラオは確かめるように観察する。切り口を見ると簡単な器官が見られるが、どれがどの器官だか判別が付かない。ゴルアスの爆弾が空けた穴付近を探すと、奇妙な物体が脈打っているのを発見する。


「それがガーディアンの『核』だよ。本体と言ってもいい」


 気が付くとリヒトが傍に来ていた。


「ならこれが心臓と見ていいわけだな」


 早速レーザーナイフで取り出しにかかるラオ。絡まっていた管を斬り落とし、核を持参した容器の中へと入れた。


 ここで、かなり大きな揺れが大地を襲い始める。


「どうやらタイムリミットみたいだね。もう少しゆっくりしたかったけど、そうはいかないみたいだ。ここで君とはお別れだ、中々楽しめたよ」


「タイムリミット?」


「この星は『惑い星』なのさ。もうすぐ亜空間へと飲まれ、別のどこかへ移動する」


 見るとリヒトは、丸い球を出して頭上へ投げたではないか。球は3つに分かれると線で結ばれ、三角柱の光を作ってリヒトを包み込む。


「楽しませて貰ったお礼に、いいことを教えてあげるよ。君をある組織が狙ってる。僕もその組織の一員なんだ。今回は勝手に偵察に来ただけで、次に会う時はお互い敵になるだろう」


「……その組織とは何だ?」


「時期に分かるさ、ここから君が無事に帰れたらね。じゃ、そういうことで」


 リヒトの姿は消えた、単独ワープだろうか。こんな限定的に生命体をワープさせる技術はまだこの銀河系に存在してはいない。

 いや、それよりも今は何とか助かる方法を考えねば。この星は亜空間へと突入するらしい。もし本当なら生きて帰れる保証は全く無い。足元を見ると地面からゲル状の液体が沸き出て来た。


(ここまで来て、ただで死んでなるものか!)

 

 モービルを飛ばし、とにかく高い山岳を目指す。ゲル状の液体は徐々にかさを増し、星の大地全体を覆っていく。ラオは途中でモービルを乗り捨て、山岳の岩肌へしがみ付くように登り出した。見ると他の生き残ったトレジャーハンターたちも、大地から逃れるように登山している。


(通信は……くそっ駄目か!)


 腕の小型通信機を確かめるも、ノイズが走り反応が無い。この付近の宙域をもしかしたらどこかの宇宙船が、とも考えたが流石に甘いようだ。せめてもっと平らな地形までと、急な斜面を登り続けるのだった。


 山の中腹に辿り着いたラオは、小休止のために岩肌へと腰掛けた。見下ろすと、今まで自分がいた森が液体で満たされ、緑色の海が広がっていた。


『ちくしょう! なんだよこれ! 宇宙船は見つかったか!?』

『フライヤの本に書かれてた洞窟すら見つからねぇぞ!』


 同じように登ってきた連中が口々に騒いでいる。ある者は右往左往し、ある者はもっと山頂へ逃れようと登山を続けるのだった。自分もボヤボヤしてはいられない、ゲル状の海は今もそのかさを増やし、上昇し続けているのだ。


──ザー……も……し…だ……


 ラオは耳を疑い、急いで通信機を確認した。

 確かに今、一瞬だけ音声が入ったのだ!


「応答してくれ! この宙域の付近にいるのか!? 助けてくれ!」


──ザー…………あ……が、合った、これでよし。もしもし、ラオって人っすか?


 聞いたことの無い声だ、しかし自分を知っている? とにかく今はこの星から脱出したい。ラオは無我夢中でボタンを押し、叫び続ける。


「そうだ! 宇宙船に乗ってるのか!? 今、このイビル・ニードの山岳にいる! 至急助けに来てくれ!!」


──了解でやんす! 今そっち向かうんで待っててくだせ!


 ラオは立ち上がり、空を見上げる。やがて黒い雲間から、巨大な輸送用の宇宙船が現れ始めた。黒い上着を脱ぎ、宇宙船から確認できるように大きく振る。この状況に他の者たちも気が付き始め、ラオの回りに寄ってきて同じように手を振り始めた。


「ここだここだっ!」


──着陸は無理っすね。アンカー下ろしますんで、うまいこと掴まってくだせ。


 徐々に高度を落とし、山へと近づいてくる宇宙船。アンカーが下げられると、そのロープへ人間が我先へとしがみ付く。ラオはこれを冷静に見極め、しがみ付いた人間たちを踏み台にすると、一番上の場所を掴った。


 宇宙船は山岳を離れ始める。下を向くと、緑色の海が渦を巻き始めていた。


「まずい状況だ。急いで上昇し、この星を離れてくれ」


──了解っす! ちょっと揺れますがしっかり掴まっててくだせ!


 宇宙船は角度を変え、急上昇を始める。と、海の渦から何本もの触手が突き出し、こちらに向かって伸びて来たではないか。

 宇宙船側もこれに気付いたか、海に向かってレーザー砲を放つ。触手たちは怯むも数が多く、アンカーにしがみ付いていた人間たちを襲い始めた。


「アンカーの引き上げ速度を上げてくれ!」


 こう叫んだのも束の間、先端に刃の付けられた一本の触手が、ラオ目掛けて襲って来た。これを辛うじてかわすも、アンカーが途中で切れ、ラオ以外の人間たちは緑の海へと落ちていってしまった。尚も触手はラオに向かって襲い挑んでくる。


「しつこい星だ! 巨人を倒されたのがそんなに憎いか!」


 何本もの触手が一斉に襲い掛かって来た。体をねじり避け続けるも、遂にラオは背中を大きく切り裂かれてしまった!


「ああっ!」


 幸い傷を負うことは無かったが、背負っていたリュックが切り裂かれ海へと落ちていく。それに群がるかのように触手たちは纏まり始め、やがて海へと帰っていった。


「しまった……!」


 死ぬ思いで手に入れた巨人の核、手を伸ばすがもう届かない。

 諦めロープへしがみ付いている他無かった……。



 宇宙船内部へと侵入したラオは、エレベーターに乗り操縦室へと向かう。冷静に見れば宇宙船は中型の輸送船で、大分手入れが行き届いているように思えた。

 操縦室へ着くと、一人誰か椅子に座って作業をしていた。ここまで誰にも会わなかった。もしかすると、一人でこの宇宙船を動かしているのだろうか。


「誰かは知らんが助かった」

「いやぁ、間一髪でやんしたね。失礼ですが『ラオさん』で宜しいので?」

「そうだ。何故俺を知っている」


 念のため、ラオは胸元のハンドガンに手を掛ける。すると椅子がくるりと回転し、作業者はこちらを向いた。


「あっしは『パーカー・ウイングキャット』ってケチなもんで、ラオの旦那同様、キャンベラ親分に雇われてる身でやんすよ。マシンの整備から操縦まで、何でもござれの便利屋でやんす」


「お前は……!」

 

 一見翼の生えた猫のようなその姿、顔には3つの目玉が付いていた。間違いない、ウイングキャット族である。

 彼らは特定の惑星を持たない種族で、様々な星に移住して暮らしている。出生も定かではなく、噂によれば外の銀河からやって来たのではないかという説もある。


「いやぁしかし旦那は運がいい。丁度取引から戻る途中、ロゼ姉さんから通信が来たんでやんすよ。姉さんには色々借りがありますんで。……あぁ、今回もちょいと発注をミスっちまいやして、うまく帳尻合わせて貰ったばかりでして、へへへ…」


「ロゼが……」


 結局、また自分はロゼの世話になってしまったのだ。落胆し腰を下ろすラオだが、それに構わずこのパーカーという男、ベラベラとよく喋る。


「今度やらかしたらトイレ掃除じゃ済まないとこでやんしたよ。あぁ遠回りしたんで大分燃料を食いやしたが、なぁに心配はいりやせん。ロゼ姉さんがなんとかしてくれやすよ。……それより旦那、外を見てくだせ」


 言われた通り窓を覗くと、緑色に発光するイビル・ニードが暗黒へと飲まれていく所だった。


「あれはあっしら一族の中で『蠅取り星』とか『人食い星』とか言われてた星でやんす。とは言ってもそう悪い連中じゃなくて、移住した人間とうまいこと共存する奴も中にはいるんでやんすよ」


 パーカーの話によると、イビル・ニードのような生命は広い宇宙にたくさんおり、今回ラオが降り立った星は、亜空間移動しながら獲物を探し続けるタイプなのだという。本来そう狂暴ではない筈なのだが、管理する者がいないので野生化し、無作為に人間を誘い込んでは捕食していたという訳だ。

 驚くべきことに、彼らは信じられない程に高い知能を持っているのだという。

 もしかすると、イビル・ニードは人間が財宝を求め、集まってくる習性を知っていたのではなかろうか。その中で敢えて、冒険家フライヤは生かされ戻されたのではなかろうか。


 次にこの宙域を訪れた時、新たな人間を大勢誘い込むために……。


「暫く戻ってくることは無いと思いやんすが、念のために破壊しときやすか? 丁度いいマイクロミサイルが手に入ったんで、試射してみたかったんすよね~」


 そう言って手元のボタンを押そうとする手を、ラオは止めた。


「いや、止めておけ。言葉は話せなくても、奴も奴で必死に生きてるんだ」

「ですかい?」


「あんな星へ誘われちまうのは、欲深い人間たちだけさ」

 

 遠巻きに見えるイビル・ニードは、徐々にその姿を消しつつあった。


「……しかし参ったな。せっかく奪取したガーディアンの核を、あの星に奪い返されてしまった……。任務は失敗、俺も命運尽きたという事か……」


「あらら……そうだったんでやんすか」


 するとパーカーは突然手を叩き、にやけた顔で話し始める。


「旦那旦那、それならいい方法がありますぜ」



 キャンベラの執務室では、ラオの撮って来たイビル・ニードの様子が映し出されていた。しかしキャンベラ本人は顔を真っ赤にして怒り狂っている。それはラオの持ち帰った巨人の心臓に原因があった。


「これのどこが心臓なんだい!! どう見てもただの石っころじゃないかっ!!」


 この言葉に、ラオは静かにまくし立てる。


「輸送途中にこの通り変化してしまったのだろう。あの星の生命体は、あの星でしか存在することができないようだ」


 映像には、確かにラオが巨人から核を取り出す映像が流れている。しかしこの石が本当に巨人の核かどうか、証明するものがない。


「嘘だと思うなら自分で行って確かめてみるんだな。俺はこの通り任務は果たした。約束通り、80億バカラはきっちり差し引いて置け」

 

 もう話すことは無い、とラオは部屋を後にする。キャンベラは悔しさの余り、石を掴むと床へ放り投げた。この石が只の隕石だと勘付いていたからである。

 イビル・ニードへ行って確かめようにも、既に星は移動してしまっているだろう。敢えてラオが失敗するように、イビル・ニード星が移動タイプの大型生命体であることを教えなかったのだ。しかしラオはこの通り生還している上に、映像もあるので難癖のしようがない。

 彼女の今回の目論見は大失敗に終わったようだ。悔しくて何度も机を叩きつけるキャンベラに、横で見ていたロゼは笑いを殺すのに必死だ。


「憎らしいったらありゃしない!! 暫く出かけるよ! 支度しなっ!」

畏まりましたイエス・マム


 腹いせにキャンベラは、ロゼを引き連れ星間食べ歩きのバカンスへと出かけるのだった。


デプターラオ 「ガーディアンの心臓を奪え!」 END



次回予告


ラオの数少ない知人であるスノオから、突如助けを求める通信が入った。雨のスラム街でラオは、余命幾ばも無い少年と出会う。何とか助ける方法を画策しようと、惑星ネヴァ=ディディアへ向かうラオ。しかしまたここで、キャンベラからの緊急任務が下るのであった!


次回、デプターラオ「ダブル・インポッシブル!」

宇宙は常に広がり続けている……。

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