ガーディアンの心臓を奪え! 中編


 出発して77時間後、宇宙嵐の影響で多少予定時間を遅らせるも、宇宙船は薄暗く光る惑星まで到達した。話の通り、恒星の光を受けずに自ら発光しているのだ。


「着いたぞ起きろ! 俺たちが一番乗りだ!!」


 いち早くコールドスリープ・カプセルから飛び出たゴルアスが、待ち切れずに咆哮を上げる。あの後相談の末、互いに目的は違えどチームを組むことになったのだ。


 宇宙船着陸後、開かれた大型の扉から一斉にモービルが飛び出す。ラオのチームもゴルアスを先頭に、べス、ガル、ラオ、クロウと相乗りしているガウが続く。


「グズグズしてる奴は見捨てるからそう思え!」

「そいつは素敵なチームシップだねぇ! でも勝手に仕切ってんじゃないよ!」

「兄貴! おせぇぞ!」

「ひぃぃぃっ! ゆ、揺れるっ!」

「ビビッてしょんべんチビんなよぉっ!」


 皆が目指すは天高く聳える山、財宝が発見されたという岩山だ。始めはモービルを快調に飛ばしていたトレジャーハンターたちだったが、すぐに入り組んだ森へと差し掛かりスピードダウンを余儀なくされる。徐々に先頭と後続の距離が離れていった。


 ここで先を走っていたゴルアスに、ラオは近づく。


「おい、後ろを走っていた奴らが来ないぞ」

「兄貴たちだ! あのあんちゃんマジで邪魔だぜ!」

「どうすんだいリーダーさんよ? ホントに見捨てるかい?」

「クソがっ!」


 ゴルアスがスピードを落とし止まると、他のメンバーもそれに習う。後続組から次々と抜かれていく中で、ようやく二人乗りのモービルが追いついて来た。見ると何やら言い争いをしている。


「言った筈だ! 私の目的は植物の採取で、君らはその護衛だと!」

「宝が先に決まってんだろうがっ!」


 どうやら珍しい植物を見つけたので、クロウが下ろせとゴネたらしい。


「ふざけるなっ!そんなもんは後回しだと決めた筈だぞ!」

「しっしかしっ! ぐぅ!?」


 怒りに据え兼ねゴルアスがクロウへ掴み掛る。

 

 と、ここで不思議なことが起こった。今まで薄暗かった森の中が、急に真っ暗になったではないか。慌てて皆、モービルの灯りを付ける。


「そ、そう言えば例の冒険家の本に書いてありました! この星は6時間周期で急に暗くなると……」


 クロウがそう言うと、突然行く手の前方から光が見え、爆音が轟く。急に暗くなったことで、先行組が相次いで事故を起こしたようだ。


「ちっ、怪我の功名って訳か。この暗さじゃ無理に進むのは止めた方がいいな」


 やむなくここで一時休息とするのだった。


 人工の明かりを中心に、皆で円を描くように腰を下ろす。交代で仮眠を取りたいところだが、ついさっきコールドスリープから目覚めたばかりで誰も眠くない。


「……そういやジャックといったな。お前も目当ては財宝か?」


 唐突にゴルアスがラオへ訪ねてきた。


「いや、俺の目的はこの星の巨人だ。俺の依頼主は、惑星が存在しているという証が欲しいらしい。巨人が現れたらチームを抜けさせて貰う」


「……それであの大掛かりな装備って訳か。しかし一人で巨人に挑む気か? お前も最後まで俺たちについて来た方がいいと思うがな」


 ゴルアスはこう言っているが、正直巨人が現れた時に戦える者が一人でも欲しいのだ。今回のツアー客たちは軽装の者が目立つ。なぜなら巨人が現れた時、戦っている者を出し抜いて宝探しに専念しようと考えている輩ばかりだからだ。


「しかし随分と無茶な依頼ですね。一体貴方の依頼主は?」


「宇宙一強欲なオークさ」


「ギャハッ! あのキャンベラんとこの仕事かぁ!?」

「おーやだやだ。あたしなら死んでも受けたくないね」


 殺伐としていたチーム内が、暫し和気藹々わきあいあいムードとなる。キャンベラの悪名もたまには役に立つものだ。


──ザッ ガサガサッ


 だが突然の物音によりムードは一変し、警戒態勢となった。皆、手に武器を取り、音のした方へ一斉に構える。


「出て来やがれ!」


 ライトに照らされ、現れたのはフードを被った少年だった。背には身の丈近い大きさの剣を背負っている。両手を上げながらこちらに近づいて来た。


「僕も仲間に入れてくれないかな。途中でモービルが故障してしまってね」


 どうやら自分たちと同じツアー客の様だ。皆が武器を下ろすと、少年は勝手に輪の中へと入って来る。


「僕の名は……そうだな『リヒト』とでも呼べばいいよ」

「仮名か? まぁいい。俺は……」


「知ってるよ。ラーザック星人のトレジャーハンター、ゴルアスだろ? ハンター歴は結構長いね。それだけ運が良かったってことか」


「……なんだと?」


「そっちのお姉さんは『賞金首』稼ぎのべス、通称『血飛沫ちしぶきのべス』だろ? その筋からは、残忍な手口で結構有名みたいだね」


「へぇ、このあたしも随分と名が知れちまったようだね」


 今度はクロウの方を向く。


「君はクロウ・マルゼン、マーサ製薬の研究員だね。仕事での失敗を返上させようとこの星へ来たってところかな。デザイナー・チャイルドで、遺伝子ランクはD区分。失敗続きも相まって、職場ではかなり見下されてたんじゃないかな」


「よ、余計なお世話だっ!! って、なんでそんなことまで!?」


 驚きと怒りで顔を真っ赤にするクロウだが、リヒトは更に続ける。


「一つ忠告するけど、雇う相手はもう少し選んだ方がいいと思うな。そっちの双子のビィデル星人、ガウとガルは懲役100000時間を食らってた務所あがりだよ?」

「ええっ!?」


 驚きクロウは、ガウとガルの方を向く。


「ギャヒッ!? あ、兄貴! なんで俺たちバレてるの!?」

「て、てめぇ何モンでぇ!?」


 皆が驚き唖然とする中で、リヒトは最後とばかりにラオの方を向いた。


「そして君は…」

「あぁそうだ。俺の名はラオ、ジャックと言うのは仮の名だ」


「……クックックッ……ハハハハハッ!!」


 自分のことも知っているのだろうとラオはこう言うも、リヒトはそれが可笑しくて堪らないとばかりに声を上げる。


「違うだろぉっ!? 君に名前なんか無いだろぉ! 本当の君は地方星間連邦政府からお尋ね者扱いを受けている、元殺人ギルドのメンバー『グレイ・ビー』だ!!」


「貴様っ!!」


 ラオはハンドガンをリヒトへと向けていた。同時に他のメンバーもリヒトへ銃口を向ける。あのクロウですら顔を真っ赤にし、今にも引き金を引かんと睨む。


「おっとっと。血の気が荒い人たちばかりなんだね」

「随分と物知りじゃねぇか気に入らねぇ、てめぇ一体何モンだ!?」


 ゴルアスの問いに対し、リヒトは被っていたフードをとる。


「見てわからないかな。僕もとある分野では結構有名人なんだよ」


 そこに現れたのは、銀色の髪を逆立てた、青い目の少年の顔だった。背負っていた巨大な剣といい、まるで空想小説の中から飛び出した主人公の様である。


「あれ……君はどこかで……」

 と、ここでクロウが反応する。


「んん? なんだぁあんちゃん、知り合いかぁ?」


「い、いや……そうじゃなくて、スペースネットの広告か何かでチラッと見たことがあったような……。でも漫画だかアニメだかの広告だった筈……」


「はっ! 大方、バーチャルアイドルか何かのコスプレイヤーだろ!」


 誰もリヒトの存在を知らない。この状況に本人はやれやれといった様子。


「……君たちの僕に対する認識はそんなもんか、残念だよ。帰ったらネットで調べてみるといい。と言ってもの話だけどね」


 皮肉気味にそう言い放つリヒトに、皆は怪訝そうに睨むのだった。



 それから数分後、次第に辺りが明るくなってきた。


「よし、出発だ! 皆乗り込め!」

「ちょっと待ってくれ! 小便だ!」


 意気込んだゴルアスに対し、ガルが水を差す。


「チッ! 早くしてきやがれっ!」

「今まで暗かったから、怖くて行けなかったんじゃないだろうね?」

「そこのあんちゃんのチビリ癖がうつっちまったんだよっ!」

「な、なんだと! 僕がそんなことするかっ!!」


 ガルは飛び跳ねるように、茂みの中へと消えていった。


 ──と、その直後。


『ぎやぁぁぁぁぁぁ────!!!』


「ガルの声だ!?」


 突然の悲鳴に、皆でガルの向かった方へ走った。すると黄色い液体の沼に、ガルが浸かって溺れているではないか。その姿にベスが腹を抱えて笑った。


「ハハハハハッ! いくらなんでも出し過ぎじゃないのかい!?」

「おいガル、おめぇ何遊んでんだ?」


 兄のガウも呆れ顔だ。

 この様子を。ラオだけは冷静に見ていた。


「もしかしたら底なし沼に落ち、足をくじいているかもしれん」

「世話掛けさせやがって! ホレッ!」


 ゴルアスがカウ・ボーイのように縄を投げる。寄越された縄をガルは捕まえるも、そのまま沼の中へと沈んで行ってしまった。


「ガ、ガル!?」

「お、おい……なんだこいつは」


 手繰り寄せた縄の先を見ると、熱でとろかされたように途中で切れている。


「この沼、何かおかしいぞ」

「下がっていて下さい!」


 クロウがいつの間にかマスクと白手袋を装着しており、木の枝に試験紙を付けて沼に近づけていた。すると試験紙はたちまち変色し、しなり始めたではないか。


「……成分はわかりませんが、この沼は恐ろしい濃度の強酸です!」


『あーあ、犠牲者が出ちゃったみたいだね』


 皆が振り向くと、リヒトがのこのこ現れる。


「この星は危険な場所が沢山あるのさ。安易に変な所へ行かない方がいいよ」

「うぉぉぉー! ガルぅぅぅぅ!!」


 沼を目の前にして、ガウは膝を付いて声を上げた。長年悪事を重ね、牢獄まで共にした兄弟。それを目の前で失ってしまい、万感の思いに涙を流す。


「弟の分まで宝を持って帰ってやれ」


 皆が沼を後にする中で、ゴルアスがそう声を掛ける。

 戻るとリヒトが既にモービルへとまたがっていた。


「1台空いたね。使わせて貰うよ」


 今度はラオ、ゴルアス、ベス、ガウとクロウに続いてリヒトという順でモービルを走らせる。


「おいジャック! 一人で出過ぎだぞ!」


 正体を知られた腹いせか、ラオは単独で先を突っ走っている。ようやくゴルアスが横へと付いた。


「おめぇ、あのリヒトとかいう奴をどう思う? あんな奴、船の客の中にいたか?」

「……さてな。俺は自分のすること以外に興味の無い男だ」


「互いに用心を怠らない事だ。ああいうのを『得体が知れない』というんだ」


 そう言ってチラリとミラーに目をやると、殿しんがりをリヒトが走っている。


(もう一つ忠告してやる。すぐ後ろにいるあの女、お前を見る目が変わったぜ)


 ラオがミラーを覗くと、賞金首稼ぎの女が不敵な笑みを見せているのだった。

 


 少し先に行くと事故で散乱したモービル数台を発見する。かなり爆音が轟いてきたはずだが、不思議なことに死体はおろか肉片すら見当たらない。死人は一人も出ず、モービルを相乗りして先に行ったのだろうと、この時は何も思わなかった。


 どこまでも奇妙な形の木が生える森を走ること暫く、ようやく他の客の最後尾が見え始めた。大分山へは近づいたが、もしかすると先頭は既に山を登り始めているかもしれない。


 皆に焦りの顔が見え始めた時、またしても闇!


「またかよ! いい加減にしろっ!」

「6時間周期と書いてあった筈なのに……!」


 各々がモービルを降りるとまた輪になって座る。前方を見ると、やはり他の者たちも休息に入っているようだ。今度は皆警戒していたためか、事故が起きることは無かった。


「それにしても、おかしいとは思いませんか?」


 意外にもクロウが皆へと話を切り出す。


「この星、植物は生えているのに他の生き物は見当たらない。鳥すら飛んでる気配が無いんです。こんな星、聞いたこともありません」


「宇宙は広いからね。こういう星だってあるんだよ」

「お前は以前にも来たことがあるのか?」


 知った風な口を聞くリヒトに、ゴルアスが食いつく。


「まさか、来たのは初めてだよ。そもそもこの星に興味なんか無かったし」

「それなら何故ここにいる?」

「暇つぶしさ。財宝自体にも興味は無い、僕は楽しめればそれでいいのさ」


 リヒトがどういうつもりでこんなことを言ったかはわからない。しかしこの場にいる者たちは、ますますこの少年に疑念を抱くのだった。


 闇が一向に晴れず、一同は荷物を取り出し食事をとり始める。ラオも持ってきたキャロリーメイドの封を開ける、プレーン味だ。フルーツ味が好みのラオだったが贅沢は言っていられない。口に入れると甘い風味が広がった。


 皆食事が終わり、明るくなるのを待つ。しかしまだ闇が明ける気配がない。


「ふぁぁ……なんだか気疲れしちまったね」

「俺は、眠れる気がしねぇ……」


 背伸びをしているベスに対し、ガウは元気無さ気にそう言った。余程のショックを受けたのだろう、食もどことなく細い。それらを見てゴルアスが声を上げる。


「皆、聞いてくれ。この通りいつ明るくなるかわからねぇ。そこで交代で周囲を見張りながら仮眠を取ろう、どうだ?」


 これに他の者は皆、賛同した。見張りに手を挙げたのはガウだった。それに続いてクロウも手を挙げる。ラオも手を挙げようとしたが、先を越されてしまった。


 余り散らばらない場所で、各々は仮眠を取り始める。ラオも一本の木の根元に寄り掛かると、目を閉じた。最近ではかなり浅い眠りでも『アリス』の声が聞こえるようになり、ラオは眠りが怖くなっていた。それでも休まなければ体がもたない。


(……俺はこのまま、あのアンドロイドの呪いで死ぬ定めなのか……)


 それが贖罪になるならば構わないという考えと、最後の最後まで人間として足掻こうとする思いが、自分の中でせめぎ合う。せめぎ合いながら、いつも眠りへと落ちていくのだ……。


──ヒトゴロシ……


(……)



──コロシテヤルッ!



「ぐあっ!!」

「っ!」

 

 ラオが夢から飛び起きると、自分の体にまたがっている女の姿!

  賞金首稼ぎのベス!


 自分の顔目掛けて突き立ててくるナイフを寸でで抑え、力比べとなる。


「何のつもりだ!?」

「かわいい寝顔だから殺したくなっちまったのさっ!」


 上手くナイフをいなし、木に突き刺させる。その後はゴロゴロと取っ組み合いになった。流石にラオの方が力は上、うまく距離をとるとハンドガンを構えた。

 しかしその手にサンダーウィップが絡みつき、40万ボルトの電圧が襲い掛かる。常人なら死んでしまってもおかしくない電圧に、ラオは思わずうずくまった。ベスはハンドガンを拾い上げると、ラオの頭へと突きつける。


「まだ息があるとはね。流石はホワイト・ローズの片腕だっただけはあるよ」

「……き……さ…ま……殺人ギルドの……」

「そうさ! あたしもあの組織に居たんだよ! 先輩さん!」


 動けないラオのあごを掴むと、悲痛に歪んだ顔を愛でるベス。


「あたしはね、そのホワイト・ローズの妹とかいう奴に散々煮え湯を飲まされてきたのさ。最後は姉同様、任務の途中で死んじまったみたいだけどさ! ここであんたを殺して連邦政府へ突き出せば、少しはあたしの気も晴れるってもんだ!」


 そう、ベスはかつて元殺人ギルドのメンバーで、ロゼと同期だった。数少ない女性メンバー同士、ベスはロゼに対抗心を燃やしていた。


 あくる日模擬戦を行った際に、ベスはあっけなくロゼに負けてしまい恥をかかされてしまう。裕福な家庭に生まれ幼少期から合気道を心得ていたロゼに、スラム街育ちのベスが敵う筈が無かったのである。後にホワイト・ローズの妹という事が発覚し、一目置かれるロゼとは対照的に、ベスの心はねじれ、孤立していった。


 その後、組織の衰退化は止まらずに消滅。ベスは放浪の賞金稼ぎとなる。


「…逃げる水を追い掛ける程、哀れなものはない。組織に関わった者は、誰一人報われない……俺も、お前も、ホワイト・ローズの妹も」


「なんだと?」


「……どうした、早く引き金を引け。ギルドの掟を忘れた訳ではないだろう?」


 この言葉に逆上したベスは、容赦なく鞭を叩きこむ。


「命乞いの言葉が出ないのは残念だよ! そんなに死にたきゃ死ねっ!」


──ズバンッ!


 凄い音がして、ベスの動きが一時止まる。そして次の瞬間、左右真っ二つに体が割れる。その向こうに現れたのは大剣を持つ少年、リヒトの姿だった。


「ごめんごめん。素振りの修練してたら何か斬っちゃったみたいだ」


 血糊を振り払いながら、軽々と大剣を担ぎラオを見る。


「……なんのつもりだ?」

「おっと、礼には及ばないよ。フェアじゃなかったからね」

「フェアじゃなかった、だと?」


 聞かれリヒトはニコリと笑う。


「だって君の正体を公言しちゃったのは僕だろ? だから君はこの通り襲われた訳だし、うっかり殺されでもしたら流石に寝覚めが悪いよ」


「……」


 この少年、何者なのだろうか。逆立った銀の髪に、幼げな少女にも見える無邪気な笑顔。それに近くにいる気配が全くしなかった。大剣の扱いといい、素人ではない。


 そこへゴルアスが駆けつけた。


「お、おい! どういうことだこいつは!?」

「おはよう、リーダーさん。この通りチームの中から裏切り者が出た。うっかり殺しちゃったけど、別にいいよね」


「ぐ……」


 武器を握る真っ二つとなった死体、傷つき膝を付いているラオ。ゴルアスは一目

で何かあったのか理解する。


「そ、そうだ! 見張りをしてた奴らはどこいきやがった!?」

「知らないよ。皆で探しに行こうか? ……立てる?」

「…無用だ」


 差し出された手を振り払い、ラオは自力で立ち上がるのだった。


『おおーい! た、大変だー!!』


 声がした方を見ると、ライトを持ったガウが走ってくるところだった。


「おめぇら! どこほっつき歩いてた!?」

「そ、それどころじゃねぇ! 依頼主のあんちゃんが連れてかれた!!」


 ガウの案内で、三人はクロウが連れ去られた場所へと走る。


「あの野郎また植物がどうたらとか、勝手に行っちまいやがってこのザマだ!」

「連れてかれたってのは誰にだ? 他のツアー客の奴らか?」


 すると、ガウは立ち止まり振り返る。


「3人……だったと思う。背は俺より少し高いくらいで、素っ裸で、頭に角生やして目ん玉が一つで……とにかく気持ち悪ぃ奴らだったぜ!」


「なんだそりゃ? そんな奴ら船には居なかったぜ?」


「リヒト、と言ったか。お前なら何か知ってるんじゃないか?」


 ラオが訪ねると、リヒトは一考する。


「……この星に先住民は居ない筈なんだ。となると、星のガーディアンだろうね」


「なんだそりゃ? 先住民と、宝を守るガーディアンと、どう違うんだ?」

「ガーディアンと言うのはロボットか何かなのか?」


 ゴルアスとラオの問いに、リヒトは首を振る。


「ガーディアンはガーディアンさ。生命体でありながら、自ら意思を持たぬ奴らだ。この星に生えている植物と同様にね」


 リヒトの謎の言葉に、二人は首を傾げる。


 ここでガウが何かを見つけた。


「あった、あれだ! あの光る白い花を見つけて連れ去られたんだ!」


 それは30センチほどの、大きな蕾を下げた草だった。蕾は膨れ、まるでランプのように発光している。


「おかしいな……この花さっきはもっと小さく……」


 ガウが更に近づいた、その時だった。


「ギャフヴッ!?」

「ガウッ!?」


 あっという間の出来事であった。花は一瞬で巨大化し、ガウを飲み込んでしまったのだ。慌ててゴルアスとラオが近づくが、蔦が伸びてきて二人を捕まえてしまった。


「うおっ!?」

「人食い花か!?」


 リヒトが剣で蔦を切り裂く。二人は宙釣りの状態から地面に叩きつけられた。


「っつう! ……はっ! ガウはどうした!?」


 辺りを見回すが、さっきの光る花はどこにも見当たらなかった。


「彼なら多分、もう助からない。あの研究員も恐らくね」


 そして、森はまた明るくなり始める。


「とにかくここに居ても仕方が無い。一旦元の場所に戻ろうよ」

「……くそっ! 忌々しい星だ!」

「……」


 短時間でメンバーの大半を失ってしまった、チームはほぼ壊滅状態である。3人で先へ進めるだろうか。それとも他のチームに加えて貰ったほうがいいのだろうか。


ゴゴゴゴゴ……


「何の音だ…?」


 ゴルアスは、遠くから地響きのような音が聞こえてくるのを察知した。モービルがあった場所まで戻ると様子がおかしい。他のトレジャーハンターたちが、山に向かわず慌てて引き返してくるではないか。


「……まさかこの音はっ!!」


 嫌な予感がする!

 急いで空が見える場所まで戻り、上を見上げた!


「あああっ!!?」


 案の定、着陸していた筈の宇宙船が飛び立っているではないか!!

 

「船の連中は何やってんだ!? まさか俺たちを置き去りにする気か!?」


 ここは銀河の果て。それに付け加え、宇宙嵐の影響で電波の全く届かない場所。


 この星へ置き去りにされるという事は、間違いなく死を意味している。トレジャーハントに来たツアー客たちは、口々に何か喚きながら必死に宇宙船の後を追った。


 ここでまた、信じられないことが起きた。地上から巨大な腕のようなものが伸び、飛んでいた宇宙船を握り潰したのだ。凄まじい爆音がこちらまで伝わってくる頃には、宇宙船は無残にもバラバラになって落ちていくところだった。

 やがて空に向かって伸びていた巨大な腕は、地鳴りとともに地上へ沈んでいった。その様子を大勢のツアー客は足を止め、ただ見ているしかなかったのだ。


『……どうすんだよ……俺たち帰れなくなっちまったぞ』


 見上げていた一人がそう呟いた。

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