第18話 シローへのインタビュー(中)


 後藤は、愛用のメモ帳に軸の太い木製のボールペンを走らせると、シロー君へのインタビューを続けた。

 遠藤と私はもっぱら聞き役だ。

 目の前のテーブルにジュースを満たしたグラスが載っていたが、私はそれがいつ出されたか気づかないほど、後藤とシロー君のやりとりに耳を傾けていた。 


「では、次に『獣人世界』で、猿人族の侵攻を退けた件についてですが――」


「後藤さん、それは誰から?」


「ギルドにいた獣人冒険者からですよ」


 言われてみれば、ギルドで飲めや歌えの大騒ぎしていたとき、後藤はベテランっぽい獣人冒険者と話していたような気がする。

 彼、あんなときでも、きちんと仕事してたのね。 


「獣人冒険者?

 ああ、そういえばケーナイギルドからデデノが来てたな。

 余計なことしゃべってないといいけど……」


「シロー君、『異世界通信社』はあなたの会社なんですから、その辺は融通を利かせてくださいよ」


「ま、まあいいでしょ。

 で、デデノから何を聞いたんです?」


「彼、君が獣人を三度にわたって救ったって言ってましたよ」


「三度?」


「ええ、ちょっと待ってくださいよ……」


 後藤はメモ帳を何枚かめくった。


「あった、これだ!

 一度目が猿人族の北部侵攻軍を壊滅させたこと、二度目が『学園都市世界』で奴隷として扱われていた獣人を開放したこと、そして、三度めが『神樹戦役』ですよ」


「……まいったなあ、よく調べましたね。

 しかたない、話せることは話しましょうか」


 シロー君はテーブルのグラスを手にすると、薄桃色のジュースで口を湿らせた。


「ええと、何から話そうかな。

 この国、アリスト王国ですが、前の王様がかなり問題ある人物で、加藤が勇者に覚醒したことを利用して、隣国マスケドニアに戦争をふっかけたんですよ」


「マスケドニア、マスケドニア……えっ、それってヒロが嫁入りした国じゃないですか?」


「ええ、よりにもよってアリスト国王が一方的に宣戦布告したんです」


「だけど、どうして加藤君が勇者に覚醒したからって、それが戦争のきっかけになるんですか?」


「後藤さんも、アイツの体力測定に参加したでしょ?」


「ええ、しましたが……」


「あれ、アイツ、手を抜いてたんですよ」


「ええっ!?

 あれで!?」


「そうです。

 勇者って言うのは、ドラゴンを一撃で倒すほどなんですよ。

 地球で言うと、戦略兵器ですね。

 その上、黒髪の勇者っていうのは、この世界ではヒーローなんです。

 だからこそ、戦争のきっかけになるんですよ」


「なるほど、そりゃあ加藤君も大変でしたね。

 ええと、戦争の方は結局どうなったんです?」


「ああ、ここはオフレコで。

 俺と加藤が潰しましたよ」


「……潰した?」


「ええ、詳しいことは話せませんが……。

 これは絶対に外部に洩らさないように。

 いいですね?」


「え、ええ、分かりました」


「で、始まる前に戦争がたち消えになったのはいいんですが、ある男に舞子がさらわれちゃったんです」


「えっ!?

 舞子さんというと、渡辺舞子さん?」


「そうです。

 それで、俺は彼女を追って『獣人世界』へ行ったんです」


「そんなことがあったんですか。

 彼女の救出は君が?」


「ええ、獣人たちの協力を得てね。

 コルナと知りあったのは、この時です。

 彼女、獣人会議の議長でしたから。

 で、猿人族がコルナが住む場所へ攻めてきたんです。

 それで、俺がそれに対処しました」

 

「ええと、獣人たちと一緒にですか?」


「……ここだけの話ですが、俺一人でなんとかしました」


「でも、デデノさんの話だと、凄い数の軍が攻めてきたとか」


「まあ、その辺はスキルに関することなので、ノーコメントで」


『(*'▽') ノーコメントー!』


「ああ、点ちゃんが、またやっかいな言葉を覚えちゃったよ……」


「点ちゃんは、その辺のことをご存じなんですか?」


「それも、ノーコメントで。

 だって、点ちゃんって、俺のスキルそのものだし」


『(*´ω`) えへへ』


「点ちゃん、そこ、テレるとこ?

 まあいいか。

 とにかく、猿人族は『学園都市世界』の手先となって、他の獣人種族をその世界へ送りこんでたんですよ」


「奴隷として?」


「ええ、奴隷としてです」


「じゃあ、その後、『学園都市世界』に行って獣人を奴隷から解放したんですね?」


「んー、まあ簡単に言えばそうなんですけどね」


「またそれも一人で?」


「いや、さすがに一人ではありませんよ。

 あっちの世界にちょうど加藤がいたんで、彼にも働いてもらいましたし。

 あと、コルナ、ミミ、ポルにも力を貸してもらいました」


「それでも、よくそれだけの人数で奴隷解放までもっていきましたね。

 なんでも『学園都市世界』って、地球世界より進んだ文明らしいじゃないですか」


「まあそうなんですが、現地のパルチザンとも連携しましたから。

 トップが、北海道出身の男でね。

 なんとか協力関係にもっていきました」


「えっ!?

 あなたたち四人の他にも地球から転移した人がいたんですか!?」


「ええ、そうです。

 地球世界で開いたランダムポータルによって異世界に転移した人は他にもいますよ」


「じゃ、そのことも後で詳しく訊くとして……。

 三つ目の『神樹戦役』について教えてもらえますか?」


「んー、話せないことも多いですから、つじつまが合わなくても、我慢して聞いてくださいよ」


「分かりました」


  この後、インタビューを通し、私は『神樹戦役』にまつわる驚くべき真実を知ることになる。

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