第17話 シローへのインタビュー(上)


 昨日は、アリストの『ポンポコ商会』で働く三人、そして一流冒険者五人へのインタビューをおこなった。

 彼らとインタビューをしてみて、肝心のシロー君のことを自分たちがほとんど知らないことに気づいた。

 彼とはそれなりに親しくしてもらってるつもりだったので、それが私にはショックでもあり、悔しくもあった。

 そのため、今日は予定を変更して、シロー君に話を訊くことになった。


 母屋で彼の家族と一緒に朝食をとった後、私たち『異世界通信社の三人とシロー君は離れ一階のラウンジに集まった。

 入り口に近いほうから遠藤、後藤、私の順にソファーに座り、テーブルをはさんでその対面にシロー君が座った。


「俺にインタビューしたいってことでしたけど、なにか尋ねたいことがあるんですか?」


 開口一番、シロー君はそう言った。


「ボスさんや、『ハピィフェロー』の人たちと話してて、どうしても君にインタビューしたくなったの」


「……やれやれ、俺のことは、あまり話さないよう言っておいたんですけどね」


「じゃあ、後藤、インタビューの方よろしくね」


 聞き役に徹するため、インタビュワーは後藤に任すことにしたのだ。

 彼はメモ帳をとり出すと、さっそく質問を始めた。


「まず、冒険者としてのあなたのランクを教えてください」


「……そ、そこから来ますか。

 黒鉄くらがねです」 


 シロー君は答えたが、それはしぶしぶだった。


「ギルドのランクは、ええと、鉄、銅、銀、金の四つだと聞いてたのですが。

 黒鉄ランクってなんですか?」


 後藤がメモ帳の上から真剣な目でシロー君を見つめている。

 さっきまでためらっていたシロー君だが、今はいつものぼうっとした表情にもどっていた。


「金ランクの上に、もう一つランクがあるんですよ」


「つまり、最上級のランクってことですね?」


「そうなりますね」


「ナルニスさんの話だと、めったにいない存在だとか?」


「まあ、たくさんはいないみたいですよ」

 

「この国ではリーヴァスさんとあなたが黒鉄ランクなんですね?」


「ええ、そうです」


「リーヴァスさんは、伝説のパーティに入っていたんですか?」


「『セイレン』ですね。

 この国の初代国王陛下がリーダーをしていた、まさに伝説のパーティです」


「なんでも、二つ名をお持ちだとか?」


「ええ、『雷神』リーヴァス。

 おそらく、稲妻の速さで敵を制圧するところから来た名前でしょう」


「シロー君は、実際にそれを目にしたことがありますか?」


「ええ、何度も。

 まさに『雷神』の二つ名にふさわしい方ですよ、あの方は」  


「いったいどんな戦い方をするのですか?」


「うーん、冒険者にとって戦い方はおおっぴらにすべきものじゃないから、詳しくは話せませんが、そこはご理解ください。

 ええと、あれはいつだったかな?

 エルファリアの街道で、盗賊の待ちぶせに遭ったことがありましてね」


「ええと『エルファリア』って、エルフが住むっていうあの世界ですか?」


「はい、そうです。

 俺は点ちゃん2号、ああ、バス型の乗り物なんですが、その中からリーヴァスさんが盗賊と戦うのを見てたんです。

 三方に分かれた三十人ほどの敵が、あっという間にいなくなりましたよ」


「いなくなったというのは、殺したっていうことですか?」


「ええ、まあそうですね」


「生かして捕らえることはできなかったんですか?」


「まあ、できてもしませんね」


「なぜでしょう?」


「いいですか。

 三十人の敵がこちらを殺すために襲ってくるんです。

 気を緩めたら、こちらが危ないですからね」


「なるほど、そんなものですか」


「ええ、そうですよ。

 平和な日本に住んでいる方には、なかなか理解できないことでしょうけど」


「ところで、昨日のインタビューで、シローさんが、『ハピィフェロー』の方々と一緒にゴブリンキングですか、でっかいモンスターを倒したそうですね」


「ああ、そういえば、そんなこともありました」


「なんでも、たくさん報酬をもらったとか」


「その報酬で、ルルと母屋が建っている土地を買ったんですよ。

 あそこ、元は別の家があってたんです。

 それは北海道に移築してあります」


「家を移築ですか?

 でも、北海道なんかに、どうやって運んだんです?」


「あー、そこはスキルに関係するところので、ノーコメントで」


「そういえば、冒険者は、各自のスキルについては詮索しないという不文律があるそうですね」


「ええ、スキルは俺たちの命綱ですから」


「命綱ですか」


「ええ、時には冒険者同士が敵対することもありますからね」


「うーん、その辺、よく理解できないんですが……」


「アリストギルドでは、これまでのところそういった冒険者を知りませんが、中には他の冒険者を襲うなんていうケースがあるみたいです」


「襲う、ですか……いったいなんのために?」


「例えば、洞窟型のダンジョンでは、内部でなにかあっても、まず目撃者はいません。

 いわば無法地帯のようなものです。

 冒険者は高価な武具や魔道具を身に着けていることも多いですから、それを狙うヤツがいるんですよ」


「……まさに命がけの仕事ですね」


「ええ、冒険者ってのは、そういうい仕事です」


「アリストギルドで馬鹿騒ぎしてた人たちからは、ちょっとイメージしにくいですね」


「ははは、羽目をはずすときは思いっきりっていうのも、冒険者ですから」


 シロー君がそれほど危険な仕事をしているなんて、思ってもいなかったわ。

 私、彼のこと、なんにも知らなかったのね。

 インタビューを聞いていて、なんだか自分が迷子になったような気持になっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る