第19話 シローへのインタビュー(下)
シロー君へのインタビューは、佳境を迎えた。
彼が、いよいよ『神樹戦役』について話しはじめたのだ。
「地球世界をはじめ、ポータルで繋がっている世界をまとめて、『ポータルズ世界群』と呼んでいます」
シロー君の口調はいつになく真面目なものだった。
「その繋がりに大きな役割を果たしているのが、『神樹』です」
「この家の庭をとり囲んでいる巨木のことですね」
「ええ、そうです。
神樹はお互いに目に見えない繋がりをもっていて、それぞれに特別な役割があります」
「特別な役割とは?」
「神樹同士の繋がりを強める働きだったり、普通の木々と神樹との関係をまとめる力だったり、まあ、いろいろです。
ところが、この千年ほどで各世界で神樹の数が減ってきたのです。
特にこの二、三百年は、各世界で多くの神樹が伐採されました」
「なんでそんなことに?」
「この世界には魔道具があるでしょ?
神樹は魔道具の素材として、最上位のものなんです」
「なるほど。
それがなにか問題を引きおこしたんですね?」
「ん、さすがピュリッツァー賞を取ったジャーナリストですね。
神樹は互いに結びつくことで、先ほど話した『ポータルズ世界群』を維持する働きがあったんです」
「へえ、そうですか……えっ!?
そんなものの数が減ったら、大変なことになるんじゃないですか?」
「ええ、そうなんです。
世界群のバランスは、残り少ない神樹によってやっと保たれている状態だったんです」
「……それって、危なくないですか?」
「危険ですよ。
バランスが崩れたら、世界群が崩壊しますから。
もちろん、地球世界もそれに含まれます」
「……じょ、冗談でしょ?」
「いえ、本当のことです」
「……」
「一年ほど前のことになりますが、『ポータルズ世界群』の一つ『スレッジ』という世界で、二つの強大な国により神樹の群生が狙われたんです」
「……」
「放置しておけば、間違いなく世界群の崩壊をまねいたんです」
「ど、どうなったんです?」
「幸い、アリスト王国、マスケドニア王国の協力を取りつけることができ、神樹保護のため、その世界へ軍を送りこみました」
「そ、それで?」
「さっき話した軍に加え、ポポという魔獣、天竜、神獣、巨人族、『おばば様』という偉大な方の協力を得て、なんとか勝利することができました」
「ポポというのは?」
「ああ、ポポラたちには、もう会いましたよね。
あれがポポという魔獣です」
「……ピンクのカバですか?
いったい、彼らがどうやって協力を?」
「その辺はノーコメントで」
「ええと、テンリュウというのは?」
「天下無双の天にドラゴンと書いて天竜です。
ドラゴンですよ。
彼らは、はるばる『ドラゴニア世界』からポータルを通ってスレッジ世界まで来てくれました」
「ド、ドラゴン……本当にいるんですね」
「ええ、いますよ」
「シンジュウというのは?」
「神様の神に獣(けもの)と書いて神獣です。
お城で会ったでしょ。
あの大きなウサギがそうですよ」
「えっ!?
ウサ子ちゃん?」
「ええ、ウサ子が神獣です」
「……キョジンゾクとは?
「とても大きな人たちの一族です。
彼らが神樹の群生を守っていました」
「おばば様というのは?」
「巨人族の中心的存在です。
詳しいことはノーコメントで」
「そ、そうですか。
それじゃあ、余裕で勝利したんですね」
「いえ、それほど余裕があったとは言えません。
なんせ敵は百万、こちらは一万、数の上では圧倒的な劣勢でしたから」
「ひゃ、百万対一万……!
でも、味方にはドラゴンがいたんでしょ?」
「ええ、でも、敵にはドラゴンへの備えもあったんですよ」
「いったい、どんな?」
「そこはノーコメントで」
「デデノさんの話だと、翔太君や『初めの四人』、シローさんの家族も活躍したという話でしたが……」
「まあそうなんですが、その辺は話せませんよ」
「分かりました。
そうすると、その『神樹戦役』に勝利することで、『地球世界』を含む『ポータルズ世界群』は崩壊をまぬがれたんですね?」
「ええ、そうなります」
「崩壊の危機が去ったと、どうして分かるんですか?」
「それは、『神聖神樹様』が教えてくれました」
「シンセイシンジュ?」
「神様の神に聖者の聖で神聖です。
聖樹様ともいわれる、神樹のお母さま的存在です」
「神樹のお母さんですか」
「ええ、ウチに神樹があるから神樹の大きさは知っていますよね」
「ええ、もの凄く大きいですよね」
「聖樹様は、あの何百倍も大きいと思ってください」
「……」
「実際目にしても、その大きさが信じられない。
それが聖樹様です。
それは外見だけではありません」
「知性のようなものがあるんですか?」
「ええ、我々をはるかに超えた知性があります」
「……話を聞いてもちょっと信じられませんね」
「まあ、そうでしょうね」
「聖樹様は、どの世界にいらっしゃるんですか?」
「んー、そうですね。
知っている人は知っていることなんですが、たとえ知っても絶対それに関しては公開しないように」
「わ、わ、分かりましたから、マジ顔にならないでくださいよ……」
「あ、やっちゃいましたか」
『(*'▽') やってたやってた』
「点ちゃんも、その戦いには参加したのですか?」
『(*'▽') うん、いっぱい遊んだのー!』
「あ、遊んだ?」
「あー、後藤さん、点ちゃんはいつもそんな感じだから、そこは突っこまないでね」
「は、はい、そうします」
「シロー君、長いことご苦労様でした。
今日のインタビューは、ここまでで終わりにします」
まだまだ訊きたいことはあったが、昼食のこともあるのでインタビューはここでうち切ることにする。
「後藤と遠藤もご苦労様。
シロー君、私たちが知らなかった、大切なことを教えてくれてありがとう。
必ず地球の人たちにも伝えるわ」
「お願いします。
地球の神樹様は、すでに各国政府が保護に乗りだしていますが、木々を伐採することで世界群崩壊が起こりかけたという事実は、全ての人に知ってもらいたいですね」
ふと気づくと、ガラス戸の向こうにルルさん、コルナさん、コリーダさんが立っていた。
シロー君が手を振ると、三人がラウンジに入ってくる。
「お兄ちゃん、インタブー終わった?」
「インタビューよ、コルナ」
美人のコリーダさんが指摘する。
彼女っていつ見ても優雅よね。
「みなさんお疲れさま。
シロー、食事の用意ができてるわ」
「ありがとう、ルル。
じゃ、母屋の方へ行きましょうか」
飾らない普段着でも、美しさが隠しきれない三人の女性に囲まれ、シロー君の表情が緩んでいる。
「あれ、社長、どうしてそんなに仏頂面なんですか?」
後藤が言わなくていいことを言う。
「ん、インタビューで少し疲れちゃったかな」
「でも、社長は聞いてただけでしたよ」
「内容が内容でしょ。
ちょっとショックを受けたのよ」
「それはそうですが……」
「さあ、急ぎましょう。
ランチが冷めちゃうわ」
緑の庭を母屋へ向かうシロー君たちを追って外へ出る。
暗いところから外に出たせいか、異世界の太陽がやけにまぶしかった。
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