第7話 アリストギルド(上)
お城で楽しい時間を過ごした後、やけに貫禄ある騎士にお城の大門まで案内された。
シロー君の瞬間移動を使えばどこでも一瞬で行けるんだけど、それだと土地勘がつかないから、次の目的地まで歩くことにしたのだ。
巨大な城門は見上げるほど高く、これが人の力で開くなど、ちょっと想像できなかった。
案内してくれた、ブロンドの髪をなびかせた騎士が、なにか呪文のようなものを唱えると、その門が音もなく開いた。どうやら、魔術的な力が働いたらしい。
「では、お気をつけて。
なにかあればお城までお知らせください。
街にもいくつか騎士の詰め所がありますから」
「レダさん、ありがとう。
またお酒でも渡すよ」
「シロー殿、お気づかいなく
では、私はここで失礼します」
かつかつと鎧のかかとを鳴らしながら、白銀の騎士が去っていく。
「シローさん、あれはどなたですか?」
私が思っていたことを後藤が訊いてくれた。
「あれはレダーマン騎士長。
この国に所属する騎士の頂点だね」
「へえ、やけに貫禄があると思いましたよ。
すごく強そうだし」
「強いと思うよ。
戦ったところ見たことないけど」
後藤とシロー君のそんな会話を聞きながら街を歩く。
アリストの城下町は、オレンジ色の屋根瓦が並ぶ街並みがヨーロッパの古都を思わせた。街路には隙間なく石畳が敷きつめられており、石材加工や土木工事の技術が一定以上のものであると見てとれた。
ガラスはほとんど使われていないから、ショーウインドーの類は見られない。
軒先からぶら下がる看板には、様々な絵が描いてあり、そこがなんの店か分かるようになっている。
「くう~」
遠藤のお腹が鳴ったので、突っこんでおく。
「遠藤、さっき食べたばかりじゃない。
みっともないわよ」
「社長、あんなキラキラした部屋では食べた気がしませんよ。
それにこんな匂いをかいだら、お腹が鳴ってもしょうがないじゃないですか」
お昼時なのか、街には料理の匂いが漂っていた。
おそらくパンを焼いているのだろう香ばしい匂いから、煮込み料理だろう複雑で食欲をそそる匂いまで、様々な匂いが胃袋を刺激する。
「くう~」
とうとう私のお腹も鳴ってしまった。
「社長」
「いや、後藤、今の私じゃないから。
シロー君、私じゃないから!」
「はははは、少しがまんしてください。
今日の夕食は、とっておきの店を予約してありますから」
ごまかしきれてない!?
「あ、ありがとう」
そんなことでニ十分ほど歩き、目的地のアリストギルドまでやって来た。
そこは三階建てのどっしりした建物で、三角屋根の上には、鳥のようなものが翼を広げた風見鶏が載っていた。
「ちょっとギルマスに知らせてきますから、少しここで待っててください。
あ、みなさん、謁見の前に貸しだされた多言語理解の指輪は外さないでくださいね」
シロー君はそう言うと、両開きの扉を押し開け、建物の中へ入ってしまった。
通行人から注目され、急に心細くなる。
後藤と遠藤は、背広、シャツ、スラックスという一般的なサラリーマン姿だし、私はネクタイを除き、ほぼ二人と同じかっこうだから、ヨーロッパの昔風衣装を身に着けた現地の人から見ると、かなり変わった格好だろう。
「へえ、これが冒険者ギルドかー。
なんか思ってた通りだなあ」
後藤はそんなことを言っている。緊張の欠片もないわね。
「いやあ、こりゃ、絵になりますねえ」
遠藤もカメラを構え、色んな角度から建物を撮影している。
「おい、お
荒々しい声がした方を見ると、斜めに二本、顔を横切る古傷がある男が、私たちをにらみつけていた。
「おい、あんたら、よそ
頭のてっぺんでトサカのように髪をまとめた小男が、男の後ろからしゃしゃり出てきた。
もう一人、一番大柄な男が前に出てくる。
「この街での礼儀を教えてやろう」
うなるような声で言った男が、のしかかるように私に近づいてきた。
悲鳴も上げられないでいると、私の前に跳びだした後藤の背中が見えた。
「あぎゃ!?」
大柄な男の頭が、巨大な手によって上からつかまれる。
信じられないくらい大きな、ハゲ頭の男がその後ろに立っていた。
彼の黒いランニングシャツからは、鋼のような筋肉の束がはみ出している。
「げっ!
マック……さん!?」
とさか髪の小男が、そんな声を上げた。
「三バカトリオ!
お前ら、冒険者を首になっても、まだ悪さしてんのか?」
「ぐがががが!」
頭をつかまれた大男の足が宙に浮く。
「マックさん、こんちは」
ギルドの扉が開き、シロー君が顔を出す。
「柳井さんたち、どうしたの?」
シロー君が私たちに声をかけると、彼の姿を目にした「三バカトリオ」がまっ青になった。
かわいそうなほど震えていている三人の、ズボンの前が濡れていく。
この人たち、洩らしてる!?
「ガハハハ!
シローの友人と知らねえで脅したのか?
かわいそうだなあ、お前ら。
ま、観念しな」
シロー君が指を鳴らすと、私たちに声を掛けてきた、ガラの悪い三人がぱっと消えた。
ただ、その後には彼らの着衣が残されていた。
「あー、このズボンはいらないか」
シロー君はしゃがみこみ、三人が残したズボン以外の着衣や荷物を手にすると、大きなおじさんの後ろについてギルドへ入っていく。
「柳井さんたちも入ってね」
緊張から解放され、ぼうっとしていた私たちがその言葉に従う。
両開きの扉から入るとき、振りかえると、石畳に残されていたズボンも消えていた。
◇
騎士詰め所に配属された若い騎士が牢の前を横切ると、誰もいなかったはずの牢内に、全裸の男が三人、肩を寄せあうようにうずくまっていた。
「な、なんだお前たち!?
いったいどっから入った!?」
「「「……」」」
新米騎士は、不可解な出来事を報告するため、先輩騎士のところへ走った。
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