第60話 『秘密の扉』と新しい家族(下) 


 

 食事の後、みんなで三階に上がった。ナルとメルはチイドラを連れ、彼女たちの部屋にへ入っていった。

 ルル、コルナ、コリーダ、リーヴァスさんを追い『階段部屋』へ入ると、部屋の隅に見慣れないものがあるのに気づいた。

 廊下側の壁際に空色のカーテンが掛かっていたのだ。

 

「シロー、カーテンを開けてみてください」


 ルルに言われ、カーテンを引く。

 

「えっ!

 これって!」


 部屋の隅、床に置かれていたのは、赤い額縁だった。額縁の中には黒いポータルが渦巻いている。俺たちが、『秘密の扉』と名づけた移動式のポータルだ。

 ルルに二つ渡しておいたものの片方だね。


「点殿、用意はいいですぞ」


『(^▽^)/ はいはーい!』

 

 あれ? 点ちゃんとリーヴァスさんが、なにか話してる?

 ……うーん、だけど、待ってても、なにも起きないぞ?

 

 カーテンを閉め振りかえると、ルル、コルナ、コリーダだけでなく、リーヴァスさんまで微笑んで黙ったままだ。

 

「ルル、このポータルがサプライズかな?」


 そう尋ねたのに、なぜか四人とも意味ありげに笑っている。

 背後でカーテンが開く音がする。

 あれ? 誰もいないのに?

 再びカーテンのほうを向こうとすると、後ろから回された手で両目をふさがれた。


「だ、だれ?」


 ルルたちが、クスクス笑うのが聞こえる。

 

「私です」


 えっ!?


「舞子!

 どうして?

 君は獣人世界にいるはずだろ?」


 手が解かれたので振りむくと、そこにはやはり舞子がいた。

 白いドレスを着て微笑む彼女は、聖女そのものだった。

 

「このポータル『秘密の扉』は、もう片方が現地にないと使えないはずだよね。

 ……あっ、ミミとポルか!」


 帝国の一件が終わって、ミミとポルは獣人世界にあるケーナイの街に帰っている。彼らがもう片方のポータルを持ってケーナイへ帰り、それを舞子へ渡したにちがいない。

 そうなると、さっき点ちゃんとリーヴァスさんが何かしてたのは、ケーナイギルドへの連絡か。 

 ギルド間の通信を使って舞子がこちらへ来るタイミングを決めたんだね。  


「……まいったな。

 やられたよ。

 これは、驚いた」


「やった、サプライズ大成功!」

「うまくいったわね!」

「ホントね!

 マイコ、こちらに」


 コルナ、コリーダ、ルルが、それぞれ舞子と手を取りあう。

 

「マイコ、これからは、お兄ちゃんに頼まなくてもいつでもここへ来られるよね。

 ねえ、お兄ちゃん、マイコがこの部屋使ってもいいでしょ?」


 コルナが俺の手を引っぱる。

 

「シロー、実はギルド本部からの依頼で、大聖女マイコ様の護衛を頼まれましたぞ」


 リーヴァスさんが、そんなことを言った。


「えっ?

 護衛って、どういうことですか?」


「ギルドはこの度の事件を重くみて、マイコ様の護衛を『ポンポコリン』に依頼したんですな。

 期間は設けず、ずっと大聖女様を護衛することになります」


「……つまり?」


「マイコは、普段この家に住むってことですよ」


 笑顔のルルがマイコの背中に手を置き、俺の方へ押しだした。


「し、史郎君は、私がここに住むと嫌かな?」


 俺より頭一つ分は背が低い舞子が、上目づかいにこちらを見る。

 

「あー!

 マイコねえだ!」

「マイコ姉ー!」


 俺たちが隣の部屋で騒いでいたから、それを聞きつけたのだろう。ナルとメルが部屋へ跳びこんできた。

 舞子に抱きつこうとしたメルが、抱いていた小竜チイドラをぽんと放りなげたので、俺があわてて彼を受けとめる。

 ぬいぐるみ扱いされたチイドラは、よほど悲しかったのだろう。俺に抱かれると涙を流している。

 まあ、ナルとメルにしてみれば、以前から懐いているマイコとくらべると、チイドラはついさっき知りあったばかりだからね。

 だけど、やたらと涙もろい古代竜ってどうよ?


 再会を喜びあっている舞子たちを横に、俺はため息をつくのだった。



―――――――――――――――――― 

ポータルズ第15章『狙われた聖女編』終了、第16章『異世界通信社編』に続く。

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