第59話 『秘密の扉』と新しい家族(中)


 三階に上がっていたナルとメルが、コルナに連れられリビングへ降りてきた。


「おなかへったー!」

「パーパ、今日はなにー?」


 長いこと待たせたからか、ナルもメルも、ご飯が待ちきれないようだ。

 

「そうだね、よく我慢した二人は、とっておき『おこじゅー』のお好み焼きかな」


「「わーい!」」


 テーブルに現れたお好み焼きへ、二人がさっそく手を伸ばす。

 点収納で時間を操作しているから、小型の鉄板に載ったお好み焼きは熱々の焼きたてだ。


「ナル、メル、これを使いなさい」


 ルルが、腰のポーチから小さな銀色のヘラを取りだす。

 ちなみに、このヘラはミスリル製だ。


「あー!

 おばちゃんが、使ってるやつ!」   

「おばちゃんのー!」


 確かに、『おこじゅー』のおばさんが使っているヘラを小さくしたヤツなんだよね。

 なんか、すっごく喜んでるな、二人とも。

 お好み焼き用のヘラ、前から欲しがってたからね。


「はい、これで食べるのよ。

 手で食べちゃだめよ」

 

「「はーい、マンマ!」」


 二人が待ちきれないようだから、さっそく食事を始めよう。

  

「いただきます」

「「「いただきます」」」


 俺たちの夕食は、デロリンが作ってくれた、アリスト国南部地方の郷土料理だ。

 春巻きに似たものが、浅いスープに浮かんでいる。

 最近、デロリンは各地の郷土料理を研究している。腕は確かだから、毎日新しい美味に出会えて家族は大喜びだ。

 ただみんなが舌鼓を打っている中、「一人」だけ食べていないヤツがいる。


「あれ、チイドラちゃん、食べないの?」

「メルのオコ食べる?」


 ナルとメルが、ステーキを前にして動かない小竜を心配している。

 ヴァランドのヤツ、あんなに意気消沈してたら、二人が心配するのも当たり前だよ。


『おい、そんなことだと、二人が食事できないぞ』


 ヤツだけに通じる回線で、念話を伝える。


『す、すまぬ……』


 小竜は、メルから差しだされていたお好み焼きをパクリと食べた。

 そして、ダーッと涙を流している。

 おい、泣くなよな! 食事がまずくなるから!


「どうしたの?

 おいしくなかった?」


 心配顔のメルが小竜に話しかける。 

 それに答えるように、小竜の口から火がポポッと出た。


「おいしすぎて涙が出たんだって。

 この子は、おしゃべりできないからね」


 そう説明しておくが、この設定は、ヴァランドの方から頼みこんできたものだ。

 彼からは、実の父親だということを、ナルとメルに明かさないようにお願いされている。


「えー?

 さっきおしゃべりしてなかった?」


 ほら、ナルが気づいてるだろ。

 だから、この設定には無理があるって言ったんだよ。


「この子は、一度おしゃべりすると、しばらく話せなくなるの」


 お、ルルがナイスフォローだね。


「ふーん、チイドラちゃん、そうなんだ。

 じゃあ、またいつかおしゃべりしようね」


 小竜はナルに頭を撫でられ、また滝のように涙を流している。

 こいつ、泣き上戸か?

 もう、いっそ自分の素性をばらしちゃえばいいのに。

 俺がそんなことを考えているのに気づいたのか、こちらを見た小竜が、首をブンブン横に振っている。


「ぽっぽー」


 ほら、メルがマネをして激しく首を振ってるじゃないか。

 あの「ぽっぽー」っていうのは、火を噴く音だろうね。


「ナル、メル、パーパがせっかく用意してくれたお好み焼きよ。

 熱いうちに食べなさい」


「「はーい!」」


 ルルの言葉で、二人がお好み焼きを食べにかかる。

 ヘラを使って食べるのは初めてなので、少し苦戦しているみたいだ。 

 

「そういえば、ナルがこの子のこと『チイドラ』って呼んでるけど。

 チビドラじゃなかったの?」


「あー、さっき子供部屋に上がってたとき、そう呼ぶって二人で決めたみたいよ。

 なんでも、『ちいドラ隊』っていうのがあるらしいのね。

 そこからとった名前らしいよ」


 お好み焼きを食べている娘たちに優しい視線を送り、コルナが教えてくれた。


「へえ、俺もいくつか名前考えてたのに……」


「「「ダメ、絶対!」」」


 全員に全力で否定されました。悲しい……。


「そ、そうですか……」


「それより、シロー、食事の後に私たちからお話があります。

 三階の『階段部屋』に来てくれますか?」


 ルルが言っている『階段部屋』とは、屋上へ続く階段がある三階の部屋だ。

 客室として使っていて、普段は誰も使っていない。


「うん、分かったよ」


 きっと女王畑山が言っていた、サプライズだね。

 ちなみに、今日お城へ行ったのは、古代竜チイドラがウチで一緒に暮らすかもしれないって女王様に報告するためだったんだよね。

 古代竜は小さくしてるから大丈夫って説明したら、畑山さん呆れてたけど。 

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