第56話 もらいもの


 その日、俺は都にある帝国の城に来ていた。

 玉座の間に集まった貴族たちの前で、横一列に並んだ仲間が皇帝に頭を下げている。

 俺たちは、膝ざまづかず立ったままだ。

 新皇帝からそうしろって言われてるんだよね。

 本当は、膝を着いた方が気が楽なんだけど……。 


「軍部の暴走に対するこの度の働き、まことに大儀であった」


 三十になったばかりの若い皇帝が、威厳ある声でそう告げた。

 カーライル領への侵攻は、「軍部の暴走」ということでカタがついた。

 太った将軍一人が罪を背負わされ投獄された。

 あの人、踏んだり蹴ったりだったな。ちょっと可哀そう。

 

「ミミ殿、ポルナレフ殿、両名に名誉男爵位を授ける」


 緊張してガチガチになったミミとポルが、新しい宰相から勲章を受けとる。

 ざわつく貴族から、まばらな拍手が起こった。

 彼らは、『天女』の件でも、カーライル領の件でも蚊帳の外だったから、この式典の意味も理解していないのだろう。


「ルル殿、コルナ殿、コリーダ殿には、こちらのものを授ける」


 侍従が運んできたワゴンには、山盛りの金貨が載せられていた。

 コルナの目がキラリと光る。あれは、そのお金でなにか美味しいものを食べようって目だな。

 

「リーヴァス殿には、重ねての功績により子爵位を授ける」


 居並ぶ貴族たちから驚きの声が上がる。

 そこには、他国の冒険者が貴族に列せられたことへの不満も聞きとれた。

 

「『救国の英雄』として領地を治めてほしい。

 また、冒険者ギルドの再建にも助言してほしい」


 新皇帝が毅然とした態度でそう言うと、不満の声はかき消えた。

 貴族たちは、おそらく、かつてアンデッドの暴走から国を守ってもらったことを思いだしたのかもしれない。

 リーヴァスさんがもらった領地は、カーライル卿の息子エルメが代理で治めることがすでに決まっている。


「そして、シロー殿、この度はことで我が国を助けてもらった。

 名誉騎士に任ずる」

 

 またまた来たよ、名誉騎士!

 あれって、ホント名前だけなんだよね。

 こりゃ、またアリストギルドの冒険者にからかわれるなあ。

 

「また、アーティファクトのいくつかをシロー殿に譲ろう。

 これからも、この国が困難に陥ったとき助けてくだされ」


 貴族たちが、かなり驚いている。なにがもらえるか知っているこっちにしては、それほど嬉しくないんだけどね。


 ◇


 城の中庭に集まった俺たちは、点ちゃん1号に乗りこむ。

 突然現れた白銀の機体に、お城の人たちが慌てて外へ跳びだしてきた。

 騎士や侍従がこちらを指さして、なにか騒いでるね。

 俺たちは、すでに1号の中だから、なにを言ってるか聞こえないんだけどね。 

   

 1号の高度を上げ、中央山脈へと向かう。

 みんなは、仕事が成功裏に終わたっこともあり、くつろいだ表情で眼下に広がる景色をながめながらお気に入りの飲み物、軽食を楽しんでいる。

 

「リーダー、アーティファクトってなにもらったの?」


 さっきまで地球産ワインでポルと乾杯していたミミが、ソファーから立ちあがり、新作の『コケットチェアー』に座る俺のところに来た。

 やけに期待した顔をしてる。さすが、お宝好きのミミだね。 


「そうだね、じゃあ、ここでお披露目するかな」


 指を鳴らし、みんなのカップやグラス、軽食が載ったお皿をローテーブルの上から消す。

 再び指を鳴らすと、唐草模様の風呂敷包みが掛けられた、四角いものがそこへ現れた。


「「「?」」」


 まあ、そんな反応だよね。

 風呂敷包を解くと、そこには赤い「額縁」に囲まれた黒いもやがあった。


「変な額縁ね。

 なにこれ?」


 ミミはキラキラしたお宝を期待していたのだろう、地味なアーティファクトを見て、ちょっとガッカリしている。

 

「シローさん、これって!?」


 ルルは、それがなにか気づいたみたいだね。


「ほほう、『鳥の巣』ですか。

 よく皇帝陛下が手放しましたね」


 珍しくリーヴァスさんが、目を丸くしている。 

 

「ええ、カーライルでなにが起こったか説明したら、快く下さいましたよ」


「お兄ちゃん、それって脅迫じゃない?」


 コルナが、ジト目でこちらを見てる。


「今回の事件では、舞子の誘拐も含めて、このアーティファクトが関わってたんだ。

 古代魔道王国時代の遺物らしいよ」


「シロー、それで、これってなに?」


 コリーダの質問に、俺は黙って「額縁」の中にある黒いモヤモヤを指さした。


「ま、まさか……」


 ポルの声が震えている。


「「「ポータル!?」」」


 みんなの声が揃ったね。


「そう、これ、持ちはこびできるポータルだよ」


「「「ええーっ!」」」


 残念顔のミミは、この「報酬」に、まだ納得していないようだ。 


「でも、これ潜ったらどこへ行くの?

 転移先から帰ってこられないんじゃない?

 リーダーの『セルフポータル』の方が便利じゃない?」


「ミミ、これ、実は二つついになっててね。

 その二つの間で行き来できるんだよ」


「もしかして、異世界旅行し放題ってこと!?」


「まあ、実際は、目的の場所にあらかじめこれを設置しておく必要があるんだけどね」


「すごーい!

 これって、すっごいお宝だね!」


 お、ミミの尻尾がピンと立った。

 このアーティファクトの価値に、やっと気づいたか。


「……シロー、これ私がもらってもいいですか?」


 コルナ、コリーダと視線を交わしたルルが、珍しくおねだりした。

 いや、ルルのおねだりって、確かこれが初めてだと思う。

 

「うん、いいよ。

 何に使うの?」


「もう決めてます。

 楽しみにしておいてください」


「あ、うん」


 なんかちょっと怖いんだけど。


「シロー、このようなものをあっさり渡していいのですかな?」


 リーヴァスさんが心配してくれてる。


「ええ、ルルなら大丈夫ですよ。

 でも、一応、どう使われていたか話してあげてください」


 リーヴァスさんは、『鳥の巣』を使った経験があるからね。


「だけど、このポータル、なんで『鳥の巣』って名前なの?

 なんか、ダサいよね」


 コルナが、舞子から聞いたであろう言葉をつかった。


「じゃあ、俺が名前をつけるかな。

 好きなところへ行けるドアみたいなものだから、『どこでもド――」』 


「「「待ってーっ!」」」


 ん? なんで止めるの?


「お兄ちゃんは、名前つけちゃダメって言ってるでしょ!」


 なんでみんな頷いてるんだ?


『(・ω・)ノ ご主人様、ダサーい!』


 ほら! コルナのせいで、また点ちゃんがいけない言葉を覚えちゃったじゃないか!


 世界間転移のアーティファクトは、コリーダによって『秘密の扉』と名づけられた。

 でも、あれってやっぱり『どこでもド――』


『(; ・`д・´)つ ストーップ! いい加減にしろー!』

「みゃ~みゃ」(それ、つかっちゃダメな名前!)


 ぐはっ! ブランちゃんまで、そんなことを……。


『d(u ω u) ご主人様のせいで、誰かの寿命が十年くらい縮んだね』

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