第26話 南へ


 御者に聞かれたくないから、城から宿へ帰る客車の中では、リーヴァスさんの件には触れずにおいた。

 宿泊していた『南風亭』で清算を済ませると、帝都を出る。

 ロコス少年とは門の所で分かれたが、その姿があまりに悲しそうで心を締めつけられた。

 彼には点がつけてあるから、何かあれば、またいつでも会えるだろう。


 帝都に入る前、野営した場所から荒れ地を少し進み、周囲に人がいないのを確認して点ちゃん1号を出す。

 機体を上昇させ、進路を南に定める。

 みんなでくつろぎ空間に集まり、ミーティングを始める。


「シロー、おじい様は大丈夫でしょうか?」


 リーヴァスさんは黒鉄の冒険者だが、それでもルルは彼のことが心配なようだ。

 

「うん、点ちゃんをつけてあるから、安心して」


「そうでした。

 でも、女帝はなぜおじい様を引きとめたのでしょうか?」


 俺にはその理由がなんとなく想像できたが、口には出さなかった。

 女帝がリーヴァスさんにご執心かも、なんて言われてもねえ……。


「リーダー、南へ行くっていうのは聞いてるけど、どこに行くの?」


 ミミの質問は、みんなが知りたかったことのようだ。全員が、こちらに注目したからね。


「リーヴァスさんからは、カーライルっていう場所に行くよう言われてる。

 昔の冒険者仲間から聞いたそうだよ。

 コルナ、カーライルって場所、地図にあるかい?」


 コルナは、テーブルの上に広げられた地図を指でたどっていたが、やがてある場所を指さした。 


「ここね」


 見ると、そこはモスナート帝国の南端とでもいうべき場所で、この国と西部諸国とを隔てている長大なパンゲーラ山脈が海際まで迫った場所だった。

 そこにアリスト国の文字で『カーライル』と書きこんである。


「おじい様の字です。

 新しく書きこんだもののようです」


 ルルが言うとおり、その文字は青いインクが少しにじんでいた。

 帝都に着いてから、リーヴァスさんが書きこんだのだろう。


 点ちゃん、どこか分かる?


『(・ω・)ノ 自分で作った地図だから、当然分かりますよー』


 そういえば、この地図って、点ちゃんが上空から撮った映像を加工したものだった。

 じゃあ、カーライルへ向けて出発だね。


『(*'▽') しゅっぱーつ!』


 南部には獣人が多いって話だけど、どんな所かな?


 ◇


 点ちゃん1号が南へ向け飛行しているころ、リーヴァスは城の中を「散策」していた。

 騎士が見張りに立ち、入れないところもあったが、そういう場所を確認するためにも、城内を隈なく歩く必要があった。

 かつて何度か訪れた場所でもあったので、ほんの二日ほどで、巨大な城の大まかな見取り図ができていた。もちろん、描きのこすと万一の時に都合が悪いので、全て頭の中にだが。

 

 そして、場内には二か所、通行が制限されている区画があった。これまで多くの城を見てきたリーヴァスは、その片方を女帝の居室、もう一方を宝物庫だと判断した。

 気になるのは、城の北側へ通じる出入口が全て通れなくなっていたことだ。騎士が見張っているのではなく、通路が石の壁で塞がれていた。


 城のいくつかの場所からは、北にそびえる尖塔が見えるから、そちらに何かの施設があるのは確かだ。

 リーヴァスの記憶では、そちらに宗教的な施設があったはずだ。

 彼は北側の塔を調べると決めた。


 ◇


 南部へ飛行中、以前点ちゃんが大きなドラゴンを見つけた山の近くを通った。

 ドラゴンには、ぜひ会ってみたかったのだが、さすがに今は調査を優先すべきだろう。

 

『(・ω・)ノ ドラゴンに会えないからって、お風呂に入るのはどうかと思いますよ』


 いやあ、山を見ながら入る温泉風呂ってたまらないんだよね。


『へ(u ω u)へ やれやれ、あいかわらずですねえ』

「みゃう」(ほんと)


 そんなこと言って、ブランちゃんもお風呂でぷかぷかしてるでしょ。

 こうしている内にも、カーライル領上空に着いてしまい、俺は泣く泣く風呂から出ることになった。


 透明化の闇魔術をかけた点ちゃん1号を降ろしたのは、街をぐるりと囲む古びた石壁から少し離れたところだった。

 廃墟が二棟並んでいたので、その裏に着陸する。点ちゃん1号から出る所を見られたくないからね。


「みんなゆっくり休めたかな。

 じゃあ、カーライルの街へ入ろう」


「一番ゆっくりしてたのは、リーダーだけどね」


 冒険者服の腰に手を当てたミミが、そんなことを言った。


「シロー、あそこでお風呂はナイと思います」


 えーっ、ルルが味方になってくれない……。


「ホント、シローはのんびりし過ぎよね」


 コリーダ、お前もか!


「しっかりしてよ、お兄ちゃん!」


 コルナまで……。


「でも、シローさんは、1号を飛ばしてたんだから――」


 おお、ポル! 君は分かってくれると思ってたよ!


『つ(・ω・) ポル君、1号を操縦してたの私ですよ』


「え、じゃあ、じゃあ……」


 くっ、ポルよ、頑張って反論してくれ。


「カーライルの街では、リーダーに頑張ってもらおうよ」


 ミミ、それはどうかと思うよ。みんなでがんばろうよ。

 そして、なぜみんな首を縦に振ってるんだろう?


「ということで、門番さんとは俺が話しますよ。

 話せばいいんでしょ!」


『(・ω・)ノ あっ、こういうの逆ギレって言うんでしょ?』


「「「そうそう」」」


 これって、俺、立つ瀬ないよね。 

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