第16話 野営 


「あわわわわ!

 は、速い!

 な、な、なんですか、これ!」


 ロコス少年は、土煙を上げ街道を爆走する、バイク型点ちゃん4号のサイドカーに収まり、目を丸くしている。

 今回は彼がいるので、俺たちお互いの姿が見えるよう、透明化の魔術を工夫しておいた。

 他から見れば、風に巻きあげられた土煙が、街道上を動いているようにしか見えないだろう。


「こんな乗り物、今まで見たことないですよ!

 金属製の馬みたいですけど、いったいなんなんです、これ?」


 少年が重ねて尋ねるが、俺は運転に専念しているフリをして、ずっと進行方向を見ている。


 朝方ノンコラの街を出発し、途中小さな街で休憩しただけで、後は走りつづけている。

 街道は、荒れ地の中をまっ直ぐ続く一本道だ。

 やがて、前方に延々と続く城壁が見えてきた。

 かなり大きな都市だな。


「えっ!?

 なんで?

 あれ、帝都に見えるんだけど?

 まさか、こんなに早く着くはずないし……」


 ロコスが目をこすっている。

 時速三百キロ以上出してたから、さすがに馬車よりは早いだろう。  

 どうやら、暗くなるまでには帝都に着けそうだ。


 ◇


 帝都の少し手前で点ちゃん4号を消し、透明化を解いた。いきなり消えた4号に、ロコス少年が驚いていたが、特に説明はしなかった。

 そして、今、俺たちは、門の近くにあるキャンプ場で野営の準備をしているところだ。

 そこには、すでにいくつかテントが張られている。

 帝都の門が開いているのは、日の出から日没までだから、夕方以降到着した旅人は、このキャンプ場で野営するか、街道の反対側にある宿場で夜を明かすことになる。


「まったく、お兄ちゃんは行き当たりたりばったりなんだから!」 


 コルナが呆れたように言う。彼女は焚火を前に、土魔術で人数分作った椅子の一つに座っている。

 

「まさか、早く着きすぎて野営する事になるなんてね」


 そう言うミミは、俺が点収納から出した炭を焚火にくべている。


「許可証に日付が書いてなかったらよかったのに」


 ポルが言っているのは、『諸芸協会』が発行した、帝都への通行許可証だ。

 今日の内に帝都に入れたのだが、そうすると、なぜそんなに早く着いたのかということで疑われる恐れがあった。


「ただでさえ、十分目立つからね。

 今日のところは、野営で我慢してよ」


「シロー、もし明日帝都に入るとしても、やっぱり早すぎると疑われませんか?」


 ルルが言うのも、至極もっともだ。


「明日は、宿場町の方で聞きこみをして、夕方帝都に入りますかな」


 リーヴァスさんの意見が妥当だろう。

 キャンプ地の周囲は荒れ地で、コリンやキューは、さっきからその辺を走りまわって遊んでいるから、ここで一日過ごせば、魔獣たちにとっても、いい気晴らしになるかもね。


 焚火で鍋をかけ、カレーを温める。ご飯は炊きたてが点収納に入っていたので、それを使う。

 

「「「いただきまーす!」」」


「へえ、不思議な味ですね。

 辛いけど、一口食べると次が食べたくなる。

 初めてですよ、こんな料理は。

 それに、この白い穀物、初めて食べますけど甘くて美味しいです」


 ロコス少年は、カレーライスが気に入ったようだ。


「ナルとメルも連れてきてあげたかったなあ」


 コルナが、少し寂しそうにそう言った。

 この国の様子がもう少し分かれば、瞬間移動で二人をこちらに呼ぶこともできるんだけどね。

 

 そうしている間にも、キャンプ地には次々とテントが増えている。

 楽器の音色ねいろが聞こえてくるから、もしかすると『天女祭り』の催しで演奏する人たちかもしれない。


「おいしい!

 なんですか、これ!」


 ロコスが食べているのは、食後に出したプリンだ。

 

「こんな旨いもの食べたことないです!

 母さんに食べさせてあげたいなあ」


「ロコス、君はどこの出身なんだい?」


「ボクは、ノンコラの南東にあるベルテンってところから来ました。

 漁業で有名な街ですね」


「へえ、海沿い街なの?」


「ええ、『ガランガ海』に面した漁港ですね」 


 確か、『ガランガ海』というのは、大陸東方に広がる大洋の名だ。


「そういえば、君の街でも『天女』って有名なの?」


「それはもう!

 ウチの街でも、毎年候補は出してるんですが、今まで一人も選ばれてません」


「選ばれるって、どうやって?」


「うーん、その辺はよく分からないんです。

 でも、帝都から派遣されてきた『選び』っていう人が、魔道具を使って選ぶって聞いたことがあります」  


「選ばれる基準は分からないんだね?」


「ええ。

 ただ、男性経験がない美しい娘だけが候補に選ばれるらしいですよ」


「ふうん。

 もし誰か『天女』に選ばれると、街が栄えるんだよね?」


「ええ、様々な税の免除があったり、莫大な報奨金がもらえるそうですから」


「……いったい、『天女』ってなんなのかな?」


「えっ?

 そんなの考えたことないなあ。

 尊く、ありがたい存在ですかね」


「参考になったよ、ありがとう」


「あっ、そうだ、言い忘れてましたけど、『天女』に選ばれる基準、もう一つありましたよ」


「なんだい?」


「魔力が高いものが選ばれるそうですよ」


「魔力が高い……か」


 それを聞いて、理由はないが、なんとなく嫌な感じがした。

 

「ところで、シローさん、テーブルや椅子はありますが、テントは立てなくていいんですか?」


「ああ、実はいいモノがあってね」


 腰のポーチから、『ポチボンハウス』の玉を取りだす。

 そのボタンを押そうとしたら、いきなりリーヴァスさんに腕をつかまれた。


「シロー、それは目立ちますな」


「そ、そうですね……。

 テントにしときます」


『(*'▽') ご主人様、やりすぎー!』


 いや、点ちゃんにそんなこと言われるなんて、なんか納得できないんですけど。

 

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