第15話 旅の一座
点ちゃん1号で入浴を済ませた俺たちは、宿に戻って寝ることにした。寝心地だけなら、機内に置いてあるコケットの方が比べものにならないくらい良いのだが、ベッドを使っていないことが宿屋の人にバレるとまずいからね。
朝食のため、階下へ降りていくと、食堂のテーブルには、すでにみんなの姿があり、そこに一人だけ見慣れない人物が混じっていた。
目がくりっとした小柄な少年で、三角帽子に袖にひらひらがついた服、吟遊詩人っぽい格好をしている。
コリーダの隣に座り、彼女と談笑しているから、聞きこみの最中に知りあったのかもしれない。
「おはよう」
「お早う、シロー。
こちら、演奏家のロコス君。
昨日、広場で知りあったの」
「ははは、コリーダさん、ボク演奏家なんて大層なもんじゃありませんよ。
言うなれば、大道芸人ですね」
「そう?
あれだけ楽器が演奏できれば、そう言ってもいいと思うけど」
「ははは、コリーダさんの歌にくらべたら、ボクの演奏なんて――」
長くなりそうなので、口をはさむ。
「ええと、ロコス君だっけ。
こんな朝早くから、どうしてここへ?」
「あっ、それなんですけど、あなたがみなさんのリーダーなんですよね?
実は、『諸芸協会』から、コリーダさんと連絡を取ってほしいと言われて」
「そのショゲイなんとかって、何かな?」
「『諸芸協会』です。
ボクのように、人前で演奏する仕事をする人が所属してる団体で、昔あった、なんて言ったっかなあ、ああ、そうそう『ギルド』っぽいものですよ」
やはり、この国のギルドは閉鎖されていたようだ。
「それで、そこの人が、なぜ彼女に用があるのかな?」
少年は目を輝かせ、テーブルの上に身を乗りだす。
「昨日、コリーダさんが広場で歌ってた時、協会の偉い人が聴いてたそうなんです。
それで、お願いしたいことがあるからって、ボクが連絡を頼まれたんです。
これは凄いことなんですよ!」
一人興奮している少年をなだめるため、彼の肩に軽く手を置き、椅子に座らせる。
「君は、そのお願いの内容を知ってるの?」
「ええ!
それが、なんと帝都で開かれる『天女祭り』で歌ってほしいっていうんです!
演奏家の夢なんですよ、あそこで演奏するのは!」
なぜか少年自身の感想になっている気がするが、それはまあいいか。
「で、どうすればいいのかな?」
「リーヴァスさんがおっしゃるには、みなさんそれぞれ演技や演奏ができるそうじゃありませんか。
みなさんでご参加されてはいかがでしょうか?」
「うーん、でも、そのなんとか協会っていうところは、コリーダだけに来てほしいんじゃないかな?」
「そ、そんなことありませんよ!
きっとみなさんなら大丈夫です!」
うーん、何を根拠にそんなことを言ってるのか分からないし、なんの目的があるかも分からない。
これは断った方がいいな。
「あのー、それで、もしよければ……ボクに伴奏させてほしいんです!」
なるほど、それが目的で、さっきから興奮してたのね。それなら分かりやすい。
でも、やっぱり、ここは――
「シロー、ロコス君がせっかく誘ってくれてるのですし、みんなで参加してみませんかな?」
意外な事に、リーヴァスさんからの援護射撃。
「そうすれば、みんなで帝都へ行けますしな」
リーヴァスさんが、意味ありげなウィンクを送ってくる。
なるほど! その手があったか!
しかし、そうなると、この少年を巻きこむことになるのでは……。
俺の考えが分かったのか、リーヴァスさんが、食堂の中をぐるりと見わたす仕草をする。
ちょうど朝食の時間帯だから、ほぼ満席に近い。人々は、朝からハイテンションなロコス少年がいるからか、こちらのテーブルをチラチラ見ている。
なるほど、この少年、もういい加減、巻きこまれちゃってるわけか。
「分かりました。
じゃあ、ロコス君、よろしく頼むよ」
「任せといてください!」
張りきって自分の胸を叩いたのはいいが、それが強すぎたのだろう。少年は、ゲホゲホむせている。
「では、晴れ舞台の成功を祈って、
なぜか、乾杯の音頭までとる、ロコス少年。
俺たちは、苦笑いを浮かべ、冷めてしまったお茶が入ったカップを目の高さに上げた。
◇
話はとんとん拍子に進み、俺たちは、『諸芸協会』から「旅芸人一座」として、帝都への手形を出してもらった。
演目は、ルルは踊り、ミミは軽業、そして、もちろんコリーダは歌となった。協会の建物で行われたリハーサルでは、お偉いさんが、えらく難しい顔で、みんなのパフォーマンスをチェックしていたが、最後には、満面の笑みで合格を出した。
コルナは衣装や大道具、小道具の監督役で、この準備は、この街に来てすぐ知りあった『リリパラ服装店』の、顔が大きな店長も手つだってくれた。
ポルと俺は、コルナの手伝い。まあ、雑用係だね。
さて、それでは帝都へ向けて出発しますか。
『(^▽^)/ しゅっぱーつ!』
「みー!」(いこー!)
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