第8話 山脈越え
アリスト王国とモスナート帝国との国境をなすパンゲーラ山脈は、万年雪を頂く最高峰カイザル山をその中央に抱え、南北に長くつらなる。
俺たちのパーティ『ポンポコリン』が乗った点ちゃん1号は、白銀の機体でカイザル山の上空を飛んでいた。
みんなは、キューの毛を素材に組みこんだ、新型ソファーの上でくつろいだ格好だ。
「綺麗ですね」
上空からの景色は見慣れているはずのルルでも、雄大な山脈の姿には、心を動かされたようだ。彼女の肩に座る
さっきまで騒がしかったミミとポルも、透明にした舷側を通して見える白い峰々の連なりに黙って肩を寄せあっている。
『(・ω・)ノ ごしゅじんさまー!』
どうしたの、点ちゃん?
『(Pω・) あの山、でっかい生き物がいますね』
へえ、どんなやつ?
『(Pω・) これは……ドラゴンですね』
ああ、リーヴァスさんが戦ったっていうドラゴンかな?
『(Pω・) 黒いドラゴンですよ。かなり大きいです』
へえ、仕事が片づいたら、見に行こうかな。
『d(u ω・) 戦闘にならなければいいですが……』
まあ、戦闘になったとしても、竜王様ほど強くないでしょ。
『(*ω*) 戦う気、満々!?』
いや、なるべく戦いたくないよ、メンドクサイから。でも、もし古代竜ならちょっとお話しはしてみたいかな。
『(・ω・) 友好的なドラゴンだといいですね』
点ちゃんとそんなおしゃべりをしていると、いつの間にか機体は山脈地帯を越え、平原の上を飛んでいた。
山脈から続く何本かの川が、緑のキャンバスに優美な曲線を描いている。
「あそこですな。
シロー、あの林の手前に着陸を」
リーヴァスさんが指さしたのは、小さな村だった。モスナート帝国で目にした、最初の集落だ。村は木々に三方を囲まれていて、東側が草原にひらけていた。
点ちゃん1号機には、すでに透明化の魔術を施してあるが、指示通り村から見ると森を挟んだ反対側にそっと着地する。
「そうですな。
シローと私だけで行きましょう」
少し考えた後、リーヴァスさんはソファーから立ちあがり、そう言った。
「分かりました。
じゃあ、みんなは機内でゆっくりしておいて。
機体の透明化はそのままにしておくから、お腹が減ったらこの箱から好きなものを取りだして食べていいよ。
一人は見張りをすること。
人が近づいたら念話してほしい」
そう言いのこし、リーヴァスさんと二人タラップを降りる。
ハッチから出る時、ルル、コリーダ、コルナそれぞれと目を合わせたが、三人は落ちついていた。
膝より少し高い、緑の草が覆う大地に降り立つ。山脈が近いからか、気温は低く風が冷たい。俺たちと村を隔てる木々の根元には雪が積もっていた。
俺が何も言わなくても、点ちゃんが体表温度を調節してくれる。
前を歩くリーヴァスさんは、茶色い毛皮のジャケットに黒革のズボンといういでたちだ。渋くてカッコイイ。
そういえば、この国の服装について、彼に聞いとくんだったね。
『へ(u ω u)へ 相変わらず、肝心なところが抜けてますねえ』
ま、まあ、次からは気をつけるよ。
『(=ω=) ずぇ~ったい、気をつけませんよね?』
……。
◇
五分も歩けば、通りぬけてしまうほどの小さな村は、お店らしきものも見あたらず。張りだした軒先からいろんな乾物がひもで吊るされていた。
家の前で遊んでいた三人の子供たちは、こちらに気づくと、ぱっと家の中に駆けこんだ。
よく見ると、何軒かの木窓が少し開いておりその隙間から、こちらをうかがっている人たちがいる。
「神樹様のご加護を!」
リーヴァスさんは、大きな声でそう言うと、手のひらを上にして両手を広げた。
「こんな時期に、どっから来たんかの?」
声を掛けられ、背後を振りむく。
通り過ぎた家の戸口に、ロシア帽に似たものをかぶった、白いあごヒゲの小柄な老人が立っていた。
上着はリーヴァスさんのジャケットとそっくりなものを羽織っている。
右手にした棒きれは、魔術用のものではなく、ただの杖らしい。
「狩りで迷ったんじゃが」
リーヴァスさんは、現地の訛りがつかえるようだ。
「それは、また……山から歩いて来なすったのか?」
土地の言葉だろう。老人の言葉には独特のイントネーションがある。これは下手にしゃべらない方がよさそうだ。
『d(u ω u) チチチ、多言語理解の指輪』
えっ、この指輪、方言にも対応してるの?
でも、この地方の方言が聞きとれてるってことは、点ちゃんの言うとおりなんだろう。
俺がそんなことを考えているうちに、リーヴァスさんは、さっきのお爺さん、この村の村長さんから食事に招待されていた。
へえ、この国の食事ってどんなんだろう?
楽しみだなあ。
『へ(u ω u)へ ご自分が何の役にも立ってないことを、よく自覚してください』
へいへい。
『(; ・`д・´)つ 返事は「はい」一回!』
はい……。
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