第6話 仲間の到着


 リーヴァスさんが仕入れてきた情報をみんなで分析した翌日、これから昼食という時間に、待ち人が到着した。 


「「こんにちはー!」」


 聞きおぼえある声に『くつろぎの家』の玄関扉を開けると、若い男女が立っている。


「えっと、誰?」


「いやいや、どうして忘れてるんです!

 ポルナレフですよ、ポルです!」


 かつてかわいかった狸人の少年は、小柄な人族ほども背が伸びていた。

 肩まで伸ばしたさらりとした髪が、美男子ぶりを強調している。

 

「見違えたよ、ポル。

 よく来たね。

 で、あなたは?」


「もー、リーダー!

 分かっててやってるでしょ!

 ミミですよ、ミミちゃん!」


 ごめん、分かっててやりました。

 でも、ミミもずい分感じが変わったねえ。猫娘が美猫って感じになってる。

 身長、百六十センチはあるよね。

 ちょっと、モデルっぽい感じになってる。モデル猫、モデニャン、ぷぷぷ。


「あー、リーダー、今、悪いこと考えてたよね。

 顔を見れば、すぐ分かるんだから」


『つ( ̄▽ ̄) こんな感じ』 


「あっ、点ちゃん、こんにちは!」

「お久しぶりー!」


『(^ω^)ノ ポル君、ミミちゃん、お久しぶりです。ご主人様が、ご迷惑かけます』


「気にしないで、慣れてるから」


 口が悪いのは相変わらずだね、ミミは。


「今回は、どんな依頼なんですか?」


「ポル、アリストギルドに寄ってきた?」


「ええ、到着の報告に寄りました」


「風呂は?」


「入ってません」


「じゃあ、まずお風呂にお入り。

 話はそれからだね」


「わーい!

 お風呂だー!」


 ミミって、モデニャンになっても、その辺は変わらないんだね。


 ◇


「ぷはーっ!

 うまいーっ!」


 風呂上がりのミミが、リビングのソファーでおじさんのようなセリフを吐いている。

 まあ、飲んでるのは、ビールじゃなくてエルファリアの発泡ジュースなんだけどね。


「あー、そうだ。

 ミミもポルも、まだこれ飲んでなかったでしょ?」


 テーブルに着いた二人の前に、薄桃色のジュースが満たされた長いグラスを出す。

 グラスはよく冷えていて、出したとたん、表面がさっと白く曇った。

 それを一口飲んだポルが、目を見ひらく。


「おいしい!」


「だろう。

 ポルが好きな味だと思ったよ」


「ホント、美味しいね!

 リーダー、これ、なんのジュース?」


 ミミもジュースが気に入ったようだね。


「それ『マラアク』って果物のジュースだよ。

 その果物、新世界の『ボナンザリア』ってとこで採れるんだけど、ほぼ『ポンポコ商会』で独占してるんだ」


 俺は、友達となったデカゴリンのことを思いうかべた。

 今頃、森のみんなは、どうしてるかな。


「独占販売ってことは、売値は言い値でいけるね、うふふふ」


 ミミが、さっそく悪い顔になってる。

 彼女って、儲け話に目が無いからね。


「ああ、これ、一杯金貨一枚で売る予定」


 日本円だと百万円くらいかな。


「高っ!」


 ポルが、飲みかけのジュースを噴きだしかける。


「今、計画していることがあるから、本腰入れて儲けることにしたからね」


「リーダーが本腰入れるって、どんだけ儲けるつもりなのよ!

 今でも十分儲けてるでしょ!」


 おや、ミミは喜ぶと思ってたんだけどね。


『(*'▽') ボロ儲けー!』 


 また、点ちゃんが変な言葉覚えたな。ミミから習ったんじゃないか?


『(@ω@) なんてことを! ご主人様から習いましたよ』


 えーっと、そうだっけ?


 ◇


 ポルとミミの毛が乾いたころ、学校からナルとメルが帰ってきた。

 

「あっ、ポルだー!」

「ミミちゃん!」


 容姿がずいぶん変わっているポルとミミだが、娘たちには、すぐ誰か分かったみたいだね。


「ナルちゃん、メルちゃん、こんにちは」

「こ、こんにちは……」


 ミミは娘たちの頭を撫でているが、ポルは俺の後ろに隠れビクビクしている。

 彼、せっかく『魔剣士』って強そうな職業クラスに再覚醒したのに、これじゃあねえ。


「「ぽるっぽー!」」


 ナルとメルは、さっそくポルの尻尾しっぽにじゃれつく遊びに取りかかったようだ。

 庭に飛びだしたポルを二人が追いかけ、走りまわっている。

 再覚醒しても、ナルとメルには敵わないようだ。それほどせずに捕まって、尻尾をモフられている。

 外に出ていったミミが、情けない顔で芝生に横たわっているポルを見て笑っている。

 しかし、彼女が余裕を見せていられるのも、そこまでだった。


「「ミミっぽー!」」


「きゃー!

 二人とも、尻尾はやめてーっ!」


 ナルとメルに追いかけられ、ミミが、広い庭をぐるぐる駆けまわる。

 さすがに『軽業師』であるミミだ。ポルほど簡単には捕まりそうにない。

 

「「ミミっぽー!」」


「きゃーっ!」


 こういう遊びを始めると、ナルとメルのスタミナは無尽蔵だからね。

 のどかな午後の追いかけっこは、まだしばらく続きそうだ。 


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