第3話 久々の再会(下)
「ボー、頼むから『神樹戦役』の時みたいに、世界崩壊の危機だ、とか言わないでくれよ」
加藤は、前回の事がトラウマになったらしい。
「ああ、あそこまで深刻なことじゃないが、だからといって軽視もできないんだ。
特に、舞子、エミリー、君たちには、直接関係するかもしれないことだからね」
視界の隅に、緊張で背筋がピンと伸びた翔太の姿が映った。
彼は、エミリーの『守り手』だからね。
「お兄ちゃん、マイコとエミリーが関係するって、もしかして『聖女』に関すること?」
こういうことに頭が回るコルナが、すぐ気づいたようだ。
「そうだよ、コルナ。
みんな、東の隣国『モスナート帝国』の事は知ってるね?」
「それはもちろん知ってるけど、本当の意味で知ってるとはとても言えないわね。
あそこの国は、ガチガチの鎖国政策をしいているでしょ?
国レベルでも、ほとんど情報が入ってこないのよ」
女王畑山は為政者の視点から発言した。
「今日、みんなに集まってもらったのは、その『モスナート帝国』についてなんだ。
どうやら、帝国が『聖女』に興味を持ってるらしい」
「シロー殿、お言葉ですが、あの国は
本当にそのような動きがあるのですか?」
そう発言したレダーマンは、どうしても話が信じられないという表情だ。
「間もなく、ギルドやその筋からも国に報告が上がると思うよ。
ギルド本部のミランダさんが俺たちに依頼を出そうと判断したくらいだから、どうやら間違いない情報のようだよ」
「ミランダ様が依頼を出されたということは、『ポンポコリン』で動くということですか、シロー?」
「そうだよ、ルル。
今回は、刺客を相手にする可能性があるから、ナルとメルはお留守番だね。
リーヴァスさんが帰られたら、すぐに出るよ」
「ミミちゃんとポル君にも連絡したの?」
「ああ、コリーダ、もう連絡してある。
彼らは、今、エルファリアのギルド本部預かりだろう?
準備ができ次第、アリストギルドに連絡が来ることになってる」
「『ポンポコリン』が守ってくれるなら安心だろうけど、エミリー、舞子、あなたたち自身も油断しないように。
翔太、しっかりね」
さすが畑山さん、俺が言うべきことがなくなっちゃった。
「陛下のおっしゃる通りだよ。
調査の流れでは、パーティで帝国へ潜入しなければならないかもしれない。
そうなると、どうしても守りが手薄になるからね」
「国から人を出した方がいいかしら?」
「いや、畑山さん、それは控えた方がいいでしょう。
大きく動けば、こちらが警戒してるって、相手にバレちゃうからね。
そうなると、向こうが強硬策に出る恐れがあるから」
「なるほど、ボーの言うとおりね。
話はこれで終わり?」
「今日のところは、これでいいかな。
じゃあ、せっかく来たんだから、ランチを食べていってよ」
「「わーい!」」
エミリーと翔太が喜んでくれるなら、料理に力をいれないとね。
「ボー、例のもの、私もいいわよね?」
女王陛下も、朝からジャグジー露天風呂をご希望ですね。
「レダさん、陛下のつき添いお願いします」
「いえ、ここは勇者殿にお願いしておきます。
私は個人的にシロー殿とお話がありますし」
ちっ、忘れてなかったのか、このイケメンおじさん。
「じゃあ、ルルたちも、陛下とご一緒したら?」
「陛下、よろしいでしょうか?」
「大歓迎よ、って、アレあなたたちのお風呂だからね。
あはははは」
女王畑山の笑い声とともに、みんなが部屋から出ていくと、ラウンジには俺と騎士レダーマンだけが残った。
どうせ、畑山さんをしょっちゅう城から連れださないでくれって苦情だよね。
「シロー殿……」
レダーマンの真剣な顔が怖いよ! そして、顔が近い!
「私、このほど名誉顧問に就任しまして」
なんだそりゃ? 名誉顧問?
「キャロ様の親衛隊、ご存知ですよね?」
どういうこと?
「ええ、知るには知ってますが――」
「私、『キャロ親衛隊』の名誉顧問に就任いたしました」
「……」
「昨日、ギルドで親衛隊の者が、プレゼントを頂いたとか。
ひいては、私にも、ぜひキャロ様の『フィギラ』とかいうものをいただけませんか?」
あー、確かに配ったよ、土魔術で造ったキャロの人形。
だけど、フィギラじゃなくて、フィギュアね。
フィギラって、どこの宇宙怪獣だよ!
「あのー、お話というのは――」
「それだけですが、何か?」
何か、って、突っこみたいのはこっちだよ!
「……はい、どうぞ」
売り物にしようと大量に作ってあった、キャロフィギュアの一つを点収納から取りだし、手渡す。
「おおお!
これが『フィギラ』ですか!
なんと素晴らしい!」
おい、なぜフィギュアの下からのぞきこむ!
そんなことしても、パンツとか見えませんから!
爽やかな笑顔を浮かべたレダーマンは、フィギュアを鎧の隙間に入れると、さっと立ちあがった。
「では、失礼します!」
白銀の鎧がかちゃかちゃ音を立て、ラウンジから出ていく。
「どうなってんだありゃ?」
『(・ω・)ノ あの人、なんだかご主人様っぽい』
「ええーっ!
いくらなんでも、そりゃないよ、点ちゃん!」
『(・ω・) あの人、ご主人様に似てるよね、ブランちゃん』
「みゅうみゅう」(似てる似てる)
俺は床の絨毯に両膝を着き、しばらく立てなくなってしまった。
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