第15シーズン 狙われた聖女編

第1話 きっかけ

『ポータルズ』第15シーズン『狙われた聖女編』開始です。


 例のごとく、最初にポータルについての説明とここまでの粗筋がありますから、もどかしい方は、二つ目の「◇」からお読みください。


『(*'▽') では新章へ』


――――――――――――――――――――――――


『ポータルズ』 


 そう呼ばれる世界群。


 ここでは各世界が『ポータル』と呼ばれる門で繋がっている。

『ゲート』とも呼ばれるこの門は、通過したものを異世界へと運ぶ。

 この門には、様々な種類がある。


 最も多いのが、二つ対になった『ポータル』で、片方の世界からもう一方の世界へ通じている。

 このタイプは、常に同じ場所に口を開けており、向こうに行った後、こちらに帰ってこられる利便性から、商業活動や外交をはじめ、一般市民の行き来にも使われる。

 国は通行料を徴収することで、門の管理に充てている。


 他に一方通行の『ポータル』も存在する。

 このタイプは、前述のものより利便性が劣る。僻地や山奥に存在することが多く、きちんと管理されていない門も多い。

 非合法活動する輩、盗賊や無許可奴隷商人の移動手段ともなっている。


 また、まれに存在するのが、『ランダムポータル』と呼ばれる門だ。

 ある日、突然町の広場に現れることもあるし、人っ子一人いない森の奥に現れることもある。そして、長くとも一週間の後には、跡形もなく消えてしまう。


 この門がどこに通じているかは、まさに神のみぞ知る。なぜなら、『ランダムポータル』は、ほとんどの場合、行く先が決まっていないだけでなく一方通行であるからだ。

 子供が興味半分に入ることもあるが、その場合、まず帰ってくることはない。

 多くの世界で、このケースは神隠しとして扱われている。


 ◇


 ある少年が『ポータル』を渡り、別の世界に降りたった。

 少年の名は、坊野史郎ぼうのしろうという。

 日本の片田舎に住んでいた彼は、『ランダムポータル』によって、異世界へと飛ばされたのだ。


 そこには、中世ヨーロッパを思わせる封建社会があった。

 違うのは、魔術と魔獣が存在していたことだ。


 特別な転移を経験した者には、並外れた力が宿る。

 現地では、それを覚醒と呼んでいた。


 転移した四人のうち、他の三人は、それぞれ『勇者』、『聖騎士』、『聖女』というレア職に覚醒した。しかし、史郎だけは、『魔術師』という一般的な職についた。

 レベルも1であったが、なにより使えるスキルが『点魔法』しかなかった。この魔法は、視界に小さな点が一つ見えるだけというもので、このことで彼は城にいられなくなってしまう。


 その後、個性的な人々との出会い、命懸けの経験、そういったものを通じ、彼は少しずつ成長していった。


 初め役に立たないと思っていた点魔法も、その『人格』ともいえる、魔法キャラクター『点ちゃん』と出会うことで、少しずつ使い方が分かってきた。

 それは、無限の可能性を秘めた魔法だった。


 史郎はこの魔法を使い、己の欲望のまま国を戦争に追いやろうとした、国王一味を壊滅させた。


 安心したのもつかの間、幼馴染でもある聖女が、一味の生きのこりにさらわれ、『ポータル』に落とされてしまう。


 聖女の行先は、獣人世界だった。

 彼女の後を追いかけ、獣人世界へと渡った史郎は、そこで新しい仲間と出会い、その協力で聖女を救いだすことに成功する。


 しかし、その過程で、多くの獣人たちがさらわれ学園都市世界へ送られていることに気づく。


 史郎は友人である勇者を追い学園都市世界へと向かい、彼と力を合わせ、捕らわれていた獣人たちを開放する。


 ところが、秘密施設で一人の少女を見つけたことから事態は新たな展開を見せる。

 その少女は、エルフの姫君だった。彼女から、エルフが住む世界への護衛を頼まれ、史郎は彼の家族と共に『ポータル』を渡る。

 エルフの世界で、史郎と彼の家族は、エルフ、ダークエルフ、フェアリスに係わる多くの謎を解き、三種族間の争いに終止符を打つ。


 エルフ王からもらった恩賞の中には、竜人世界に由縁のある宝玉が含まれていた。

 そして、この貴重な宝玉を奪おうとした者が史郎の仲間をさらう。仲間を救出したまではよかったが、彼は宝玉によって開かれた『ポータル』に落ちてしまう。


 史郎が『ポータル』によって送られた先は、竜人が住む世界ドラゴニアだった。その世界を支配する暴君一味を倒した史郎は、後から合流した仲間と共に、ドラゴニアの空に浮かぶ大陸、天竜国へと向かう。


 天竜国は、竜が棲む世界だった。天竜と真竜を苦境から助けた史郎は、聖樹の招きで再びエルファリアを訪れる。聖樹が彼に与えた能力は、世界間を渡る力という途方もないものだった。

 かつて、地球から異世界に飛ばされた史郎とその仲間は、この力を使い再び地球に戻った。


 久しぶりに帰った故郷ふるさとの地球世界で、彼らは様々な困難を乗りこえ、再び異世界に立ちもどる。

 そして、彼らが地球世界から異世界に連れてきた少女エミリーが、『聖樹の巫女』として覚醒する。

 

『聖樹の巫女』とは、ポータルズ世界群が危機に陥ったとき現れる存在だった。その危機に対処するため、異世界で、そして地球世界で、史郎は少女を守りながら、神樹たちの力を取りもどしていく。


 竜人世界を再び訪れた史郎は、彼の友人たちがさらわれ、異世界に連れていかれたことを知る。

 友人を探し彼が訪れた先は、奴隷制に支えられた文明を持つスレッジ世界だった。

 そこでは、二大国の後継者がクーデターを起こし、国の実権を握った。彼らの狙いは、ドラゴナイトと呼ばれる鉱石と神樹とから得られる力で異世界を征服することだった。

 しかし、その世界にある多数の神樹が一度に伐採されてしまえば、かろうじてバランスを保っている世界は、ポータルズ世界群ごと消滅する恐れがあった。

 史郎は、ドラゴナイト鉱石と神樹を守る巨人族に力を貸す。そして、家族や仲間の活躍で、戦場における圧倒的な劣勢を覆し、いくさに勝利した。


 世界群の危機が去り、家族と穏やかな日々を送っていた史郎は、地球からパンゲア世界への転移中に、ある世界へ召喚されてしまう。 

 その世界は、ポータルズ世界群とは異なる世界群に属する、田園都市世界だった。

 家族が住む世界へ帰る手段がない史郎は、そこへ通じるポータルを探し、彼が『新世界群』と名づけた異世界を渡りあるくことになる。


 そこは、かつて『ポータルズ世界群』から分かれた世界群だった。

 わずかな人間が住民の生命まで支配する田園都市世界。男性しか住まない国と女性だけしか住まない国が争う結び世界。そして魔術が階級を決めるボナンザリア世界。それぞれの世界で冒険をくぐり抜けた史郎は、とうとう元の世界群への手がかりを見つける。

 そして、やっと家族の待つ家へと帰りつく。


 史郎は家族をともない、異世界に散らばる彼の会社『ポンポコ商会』を巡った後、『新世界群』と『ポータルズ世界群』を再び繋ぐことに成功する。

 

 これは、そこから始まる物語だ。


 ◇


 ここは、モスナート帝国。国境である西の山脈を隔てアリスト王国の東に接する大国だ。この国は、先々代の帝王が治める時代に国が乱れ、他国からの干渉を排除するため、長く鎖国政策をとってきた。

 東と北を海、西と南を山脈に囲まれるという地勢が、その政策を容易に可能にした。

 

 昨年あった『神樹戦役』の折、西方諸国は『神樹同盟』を結び互いに連携したが、モスナート帝国だけには、その情報すらほとんど入ってこなかった。

 ただ、鎖国はしていても、難破船の漂着民から、うわさ程度のことなら入ってくる。

 ただ、その情報は、あいまいで不正確なものだった。


「ふむ、聖女が現われたとな」


「はっ、不思議な力で、わずか一万の軍勢で百万にも及ぶ敵をうち破ったとのこと」


 見目の整った青年が片膝を着き、頭を下げてそう報告するのを、玉座に座る三十台に見える女性が薄目を開けて見下ろしていた。

 白いティアラを頭に載せたその女性は、モスナート王国の現皇帝、女帝カルメリアだ。

 驚くほど整ったその美貌は、しかし、どこか人形の冷たさを感じさせた。


「治癒の能力について、詳しく分かっておるのか?」


 女王が身を乗りだす。その声に、初めて感情らしきものが聞きとれた。

 それは、期待と渇望だった。


「多くの病人を治したとしか、まだ伝わっておりません」


 強固な鎖国政策のせいで、この国には他国で当たり前の情報すら入ってきていない。

 それが可能なのは、この国が東を大海、残る三方を峻険な山脈に囲まれており、人の出入りを容易に制限できたからだ。

 その異様なまでの徹底ぶりは、各国に間諜を放つことさえ避けてきたほどだ。

 女帝は、自ら決めたその禁を破ってまで、国境を越えその手を伸ばすと決めたようだ。


「プラトラよ、ここに聖女をつれてくるのだ」


「はっ、畏まりました、陛下!」


 玉座の間から宰相が出ていくと、女帝カルメリアは、細い指先でこめかみの辺りにそっと触れた。その指が、額、頬、アゴと滑っていく。


「このままでは……。

 聖女を手に入れるのだ。

 なんとしてでも」


 眉をしかめたカルメリアの目には、何かを睨みつけるような鋭さがあった。


 ◇


 地球世界から帰ってきてから、俺は連日家族サービスに追われていた。

 帰還翌日は、『くつろぎの家』の庭で、お好み焼きパーティを開いた。ナルとメルは久しぶりにお腹いっぱい大好物が食べられて跳びはねていた。


 そして、家族サービスが一区切りついた今日は、ギルドで帰還祝いと称した酒盛り。アリストギルドの冒険者たちは、ちょっとしたことでも酒を飲んで陽気に騒ぐから、これはいつものことだ。お土産目当ての冒険者が、ギルドの待合室に入りきれないほど集まっていた。


「で、シロー、今回はルルちゃんたちが一緒じゃなかったんだろう?

 向こうでハネを伸ばしたんじゃねえのかい?」


 頭のてっぺんで髪をまとめた、頬にバツ印の傷があるベテラン冒険者が、そんなことを話しかけてきた。


「そんなはずないでしょ!

 それより、地球世界に『キャロ親衛隊』の支部ができてましたよ」


「おっ、あの坊主たち、頑張ってんな!

 さすが、この俺、『親衛隊長』の教え子だぜ!」

「いや、そりゃ、この俺、『団長』のお陰だぜ!」

「いやいや、ちがうでしょ。

 ボクがアドバイスしたからですよ。

 さすが、『親衛隊リーダー』だよね、ボク」


 俺をとり囲んだ冒険者の人垣から、キャロがひょっこり顔を出す。

 身長一メートルほどしかないギルドマスターは、スカートの裾がギザギザにカットされた緑色のワンピースを着ていた。小さな彼女は、見かけによらず、お酒が飲める年齢だ。


「親衛隊ってなあに?」


「キャ、キャロちゃん!

 いえいえいえいえ、なんのことですか?」

「俺、『団長』だなんて一言も――痛え!

 だれだ、後ろから、頭叩いたのは!?」

「ええと、『シロー親衛隊』?」

「「「ナイナイ!」」」


 肩に乗った白猫ブランが、左右の前足交互に肩を踏みはじめる。

 これは、「もう帰ろうよ」の合図だ。

 ワイワイ騒いでいる冒険者の集団を抜け、部屋の隅で瞬間移動しようとしたら、キャロに手招きされた。

 何か話したいことがあるらしい。


 個室に連れこまれ、ソファーに座らされる。

 キャロ自身は、緑色のとても小さな椅子に座っている。これは、『コケット』にヒントを得て創りあげた、彼女専用の椅子だ。


「ふぁ~、気持ちイイ!

 この椅子の問題は、座ると動きたくなくなることね」


 キャロがそんなことを言うので、とりあえず目覚まし代わりに、テーブルの上に彼女用の小さなポットとテーカップを出しておく。


「ギルマス、何かありました?」


「ええ、あなた、モスナート帝国について何か知ってる?」


「この国の東にある隣国でしょ。

 国境にパンゲーラ山脈があるのと鎖国政策をとってるから、こちらとは、ほとんど交流がないと聞きましたが……」


「どうも、あの国がこちらへ人を送りこんできてるらしいの」


「うーん、そのくらいはするでしょうが、何か問題でも?」


「今のところ、商人や冒険者のふりをして情報を集めているようなんだけど、それがどうも『聖女』についてらしいの」


「なんですって!」


「大聖女様、小聖女様、エミリーちゃんの誰を調べているかも、まだはっきりしてないの。

 女王陛下は、それで困ってるみたい。

 いずれにせよ、あの国の狙いが聖女様なら、国としても黙っていられないでしょうね」


「もしかして――」


「そうよ、ギルド本部からあなたのパーティに指名依頼が出ているわ。

 この件の調査です。

 ミランダ様としては、なぜの国が聖女様に興味を持ったか、それを調べてほしいとのことです」


「なるほど」


 きっと依頼書には詳しく書いていないのだろう。書いてしまえば聖女のことが記録に残るからね。

 どうやら、この依頼には、とことん本気で、しかも内密に取りくまなければならないようだ。


『(・ω・)ノ ご主人様、本気ってどうするの?』


「そうだね、まずは『始めの四人』で集まるかな?」


 大聖女舞子、小聖女イリーナ、「聖女」エミリーを守るなら、いくら慎重になってもやり過ぎということはない。

 

「点ちゃん、今回は、ちょっと本気を出すよ」


『(= ω =) 本気のお風呂とかじゃあないですよね?』


「ない! 

 ……と思う?」


『へ(u ω u)へ やれやれ』

「みゃうみゃう」(やれやれ)


 あれ? 点ちゃんもブランちゃんも、その反応はなぜかな?

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