第37話 異世界体験報告会(下)
「では、『剣士』に覚醒した皆さん、お願いします」
白神の声を合図に、舞台奥から三人の女子を含む十五人の生徒が前へ出てきた。
それぞれが、剣道部から借りた竹刀を手にしている。
「構え!」
原田が、ぽっちゃりした体から声を出すと、会場から幾つか笑いが起こったが、それはすぐに止んだ。
十五人が一糸乱れず演じた剣技の
最後、原田一人が鋭い『突き』をもう一度見せると、体育館が拍手に沸いた。
「すげー!」
「原田君、カッコイイね!」
「俺も『剣士』になりてー!」
十五人の『剣士』が舞台奥に下がると、替わって前に出てきたのは、委員長の宇部を含む十二人の『魔術師』だ。
「では、次は『魔術師』のみなさんです」
白神の言葉を聞いて、普通科の生徒からヤジが飛んだ。
「おいおい、魔術師だってよ!
魔法でも見せてくれるのか?」
「口から火を噴くんじゃねえか?」
「鳩かウサギを出すんじゃねえか?」
どうやら、マジシャンと『魔術師』の区別がつかない者がいるらしい。
そんな彼らも、舞台上の生徒たちが、一斉に水玉を宙に浮かべてみせると。
急に黙りこんでしまった。
幾つかの水玉が舞台上にピシャリと落ちてしまったが、かえってそのことで魔術の信ぴょう性が高まったようだ。
数人の生徒が、用意していた雑巾で濡れた舞台を拭きおえると、彼らに代わって二人の男子生徒が前へ出てきた。
「大和君と小西君は、『拳闘士』となりました」
白神からの紹介で、上下白い道着に黒帯を締めた大和と、白い道着と紺袴を着こなした小西が、舞台上から舞台下の教師と生徒へ礼をする。
次いで、お互いに礼を交わした二人は、息が合った演武を始めた。
それはあらかじめ決められた動きだったが、二人が繰りだす手と足は速すぎて何本にも見えるほどだった。
最後に一瞬で二人が左右それぞれの立ち位置を代えると、会場から割れんばかりの拍手が起こった。
彼らのパフォーマンスは、魔術や剣技に比べ、その凄さが分かりやすかったらしい。
湧いていた「客席」が静かになるのを待ち、三宅が前へ出てきた。
控えていた二人の生徒が、舞台袖から大きなキャンバスを持って現れる。
「三宅さんは、『写生師』という
白神が紹介すると、小柄な三宅がぴょこんとお辞儀した。
彼女は、手にした
ワンドの先が銀色の線を描く。やがて、その線は六匹の生きものを形づくった。
舞台下から見ている生徒たちは、何のことか分からず、ぽかんとした顔で見ている。
描きおえた三宅が、ワンドの先でキャンバスに触れた。
六匹の生きものの絵にさっと色が着く。白、黒、茶色の縞模様、白、ピンクに塗られたそれは、それぞれ白猫、黒猫、ウリ坊、白い毛玉、ピンクのカバ二匹だった。
この時点で、教師と生徒から驚きの声が上がったが、その六匹がキャンバス上をちょこちょこ動きだすと、黄色い歓声が上がった。
「きゃーっ!
なに、アレ!
カワイイ!」
「あれ、動画なの?」
「丸くて白いふわふわって、なに?
カワイー!」
「ピンクのカバ、スゲーな!」
「まるで生きてるみたい」
キャンバス上を歩きまわっていた六匹は、やがて元の位置に戻ると、ピタリと静止した。
「アリストで我々が出会った、シローさんの家族である、ブランちゃん、ノワール君、コリン君、キューちゃん、ポポラちゃん、ポポロ君でした」
そう言って、ぴょこんと礼をする三宅に、生徒だけでなく教師までも、みんな立ちあがり拍手した。
そのざわめきが鎮まらないうちに、マイクを持った白神が話しはじめた。
「修学旅行前の説明会で私たちが襲撃を受けたことは、みなさん記憶に新しいと思います。
私たちは、覚醒で手に入れたこの力を、自分たちの身を守るため、そして、なによりも社会全体のために使っていくつもりです。
今日は、長いこと私たちの話を聞いていただき、どうもありがとうございました。
職業の紹介をしたのは、『賢者の卵』こと白神でした」
彼女は、スカートの後ろに差していたワンドを抜くと、呪文を唱えながら、その先を上へ向け大きく振った。
体育館の天井辺りに光の輪ができると、そこから様々な色の光がクルクル回りながら落ちてくる。
それはきらきら輝くパステルカラーの花だった。
「「「うわー!」」」
リン
リン
リン
落ちてきた光の花は、生徒たちが伸ばした手や床に触れると、鈴の音に似た涼やかな音を立てて散り、跡形も残らなかった。
舞台上では異世界科の二年生が並び、礼をする。
体育館は、コンサート会場のような盛りあがりをみせた。
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