第36話 異世界体験報告会(上)


 異世界修学旅行についての連日に渡るマスメディアの報道も、やっと下火になった頃、異世界科がある高校では、修学旅行の報告会が行われた。

 場所は体育館で、異世界科一年生はもちろん、普通科の生徒も参加している。 

 説明会の時と違うのは、報道関係者が参加していないことだ。


 校長が開会の言葉を述べた後、林が舞台上の演台に立った。


「校長先生のお言葉にもありました通り、先日、異世界科二年生が修学旅行した時の体験を発表します。

 では、宇部、よろしく頼むよ」


 舞台袖から出てきた宇部が、林と入れかわる。


「異世界科二年学級委員長の宇部です。

 私たちのクラスで、異世界へ修学旅行をした時のことをお知らせします」


 体育館のフロアに座る異世界科二年生以外の生徒たちは、宇部の発言に食いいるように耳を傾けている。

 

「私たちが訪れたのは、『パンゲア』という世界です。 

 この世界は、機械が発達していないかわりに、魔術や魔道具が独自の発展を遂げています。

 その世界にあるアリスト王国という国のお城に滞在しました」


「おい、お城だってよ!」

「マジ、異世界行ったのかよ!」

「本当に行ってんのか?」

「アリストって、なんか聞いたことある」

「魔術、ホントにあるのかしら?」 


 普通科の生徒たちが口々にしゃべりはじめたが、こういう場に慣れている宇部は、彼らが静かになるまで黙っていた。 


「アリスト王国の女王は、我が校の卒業生、畑山先輩です。

 私たちは、お城の迎賓館で宿泊しました」


「「「おおー!」」」


 宇部の言葉に、生徒たちが思わず歓声を上げた。


「お城では、舞踏会や食事会、様々な催しに参加しました。

 けれども、一番思い出深いのは、『水盤の儀』です」


 生徒だけでなく、教師たちも、興味津々といったところだ。


「この儀式は、水を浮かべたお盆のようなものの上に手をかざすというもので、どういう仕組みかは分かりませんが、それによって、『覚醒』が起こります。

 それによって、色んな職業クラスになることができます。 

 ここからは、そういった事に詳しい白神さんから説明します」


 白神が出てくると、宇部は袖に退いた。

 生徒がざわついているのは、白神がアリストの町民が着る服を身に着けているからだ。

 染色もせず、素材の色そのままの上着とスカートは、初めて見る者にはヨーロッパの田舎風というイメージを抱かせた。


「白神です。

 異世界科クラブの副部長をしています。

 この服装は、アリストの街で女性が着る一般的な格好です。

 小西君、出てきてください」


 小西が、やはり町民の格好で舞台に出てきた。

 小柄な彼が着ると、おとぎ話の小人っぽいイメージがあるからか、生徒たちの一部から明るい笑いが起きた。


「染色技術が発達していないパンゲア世界では、一般の人々はこういった服装をしています。

 色が着いた服は、特別な時に着る晴れ着くらいですね」


「大和君、三宅さん、お願いします」

 

 二人が袖から出てきて、小西の横に並ぶ。

 彼らは、飾りが付いた色鮮やかな服を着ていた。


「こちらは、女王陛下から教材としていただいた、貴族の服装です。

 見たところ、子爵家の子女が着る服だと思われます。

 原田君、お願いします」


 ぽっちゃりした原田が、大きなパネルを横向きに抱え、舞台に出てくると生徒たちが噴きだした。

 彼のぎこちない動きが受けたらしい。

 

「これが王族の服装です」


 原田が体の前に立てたパネルには、等身大の二人が写った「写真」があった。


「こちらが、アリストの隣国、マスケドニアの国王陛下。

 そして、こちらが、その王妃であるヒロコ様です」


 何人かの教師が、驚いた顔をしているのは、ヒロコ王妃が教え子だと気づいたからだろう。


「近頃、王妃となられたヒロコ様は、この学校の卒業生でもあり、勇者として有名な加藤さんのお姉さんでもあります」


「やっぱり、ヒロか!」


 思わず叫んだ中年の男性教師が、慌ててその口に手を当てた。

 生徒たちは、抜けるような青い礼服を着た、美形の国王夫妻をまじまじと見ている。

  

「ご覧のように、王族や貴族は、公式な場において色鮮やかな服を身に着けるのが普通です。

 さて、次はお待ちかね、『覚醒』のお話をしましょう」


 白神は、マイク立てに置いてあったマイクを取ると後ろに下がった。

 異世界科の生徒たちが一列になって袖から出てきて、舞台奥に並んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る