第22話 魔術学院見学(下)
午前中の授業が終わると、魔術学院の二回生と異世界科の生徒たちは、昼食のため食堂に集まった。
学院の食堂は広く、いつもはいない三十人程の異世界科の生徒が座っても、まだ空席があった。
食堂で騒ぎが起こると困るということで、翔太は個室で何人かの生徒と一緒に食事している。
「このテーブルがオレら二回生の専用だ」
そう言ったのは、学院生ペータだ。アゴヒゲが目立つ彼は、二十歳で学院に入るまで冒険者をしていたという異色の経歴だが、この世界の学校では生徒たちの年齢に幅があるのが、むしろ普通なのだ。
「食事、凄く豪華ですね」
彼の隣に座わると、さらに幼さが目立つ小西少年が学院の食事に驚いている。
彼らは三つある多言語理解の指輪を発言者に渡すことで、会話を成立させている。
「ははは、この国はね、魔術で大きくなったようなもんなのさ。
だから、魔術師の地位も高いし、この学園も優遇されてる。
卒業したら、まず食いっぱぐれることはないしねえ」
十八才にしては、大人っぽいララーナという女学生がウインクする。
それを目にした、女性に免疫のない異世界科の男子数人が、顔を赤くした。
「私はプリンスについていくから、将来の心配なんかしてないわ」
長いブロンドをポニーテールにまとめた、ジーナという女子生徒が、ませたポーズでそんなことを言った。
彼女は必死に背伸びしようとしているが、十五才というには幼いその顔だちと、頬に散ったそばかすで、無理をしているようにしか見えない。
「あんたなんかプリンスにふさわしくないわよ!」
彼女をライバル視している眼鏡の少女ドロシーが、さも軽蔑していますという視線を送る。
「なんですって!
この真面目だけが取りえの不細工女!」
「あーら、オークっぽいあなたと較べれば、私はエルフ美人よ!」
席から立ちあがり、やり合いだした二人に、世界科の生徒は驚いたが、いつものことなのか、学院生はみなどこ吹く風だ。
「ねえ、みなさんが、翔太様のこと『プリンス』って呼ぶのは分かるんですが、先生までそう呼んでるんですね」
学院生二人のバトルそっちのけで、白神が疑問に思っていたことを尋ねる。
「それはそうよ。
彼、本物のプリンスだもん」
大人っぽい女子生徒ララーナが、当たり前という口ぶりでそう言った。
「「「本物!?」」」
「あれ?
みなさん、プリンスや女王陛下と同じ世界から来たんでしょ?」
たった今までジーナと口喧嘩していた、眼鏡少女ドロシーが会話に加わる。
「そ、そうだけど……兄貴め、知ってて黙ってたな!」
白神は、『ポンポコ商会』と取引がある彼女の兄なら、その情報を知っていたはずだと考えたのだ。
彼女の推測通り、彼の兄は翔太が本物のプリンスになったという情報を掴んでいたが、それを知ったのがシローを通してだったので、彼はそれを外部に洩らさないよう決めたのだ。
彼女の兄は商売に関して、律義と言うしかない。
「
あんた、『賢者』になるんじゃなかったの?」
「あっ、まずい、そうだった!」
にぎやかな食事がひと段落つくと、学院生が数人立ちあがり、みんなにお茶を配った。
「わー!
異世界のお茶だー!
もしかして、エルファリア産のお茶?」
お茶が出てきただけで、白神はテンションが高い。
「ははは、いくら学院が裕福でも、あんな高いもの買えるわけないじゃない。
これは、この国のお茶よ」
ドロシーが、眼鏡をくいと指で押しあげながら説明する。
「そういえば、この学院、他校の見学とか普通は受けつけないと聞いたんですが……」
小西の問いかけに答えたのは、ポニーテールのジーナだった。
「ここだけの話にしてね」
ジーナは、前かがみになり、声をひそめた。
「シロー様から学校にお願いが来たらしいの」
「えっ?
そんなことで許可が出たの?」
小西の疑問も当然だ。
「当たり前でしょう?
英雄からお願いされたら、いくら頑固な学院長先生だって許可くらい出すわよ」
「ちょっと待ったー!」
白神が、歌舞伎役者っぽい格好で広げた右手を前に出す。
「シローさんが英雄ってどういうこと?」
ジーナから多言語理解の指輪を渡されたドロシーが、心底呆れたという表情で、それに答えた。
「えっ?
シロー様って、あなたたちと同じ世界の出身でしょ?
ホントなにも知らないのね。
噂だけど、シロー様、勇者、聖女、現女王陛下、その四人が、隣のマスケドニアとの戦争を止めた立役者らしいのよ。
それでね、そんなことは、まだまだ序の口で、彼、世界群を崩壊から救ったらしいの」
「ど、どういうこと?」
問いかけた白神を除き異世界科の生徒たちがシーンとなる。
「なんでも、世界群の崩壊を引きおこしかねない世界があってね。
シロー様は、伝説のパーティ『ポンポコリン』を率いて、その世界まで行って問題を解決したらしいのよ」
「問題の解決って?」
「百万人ほどの軍勢に一万人で戦いを挑んで勝ったの。
その戦いって『
「ひゃ、百万人……」
白神は、猫賢者から言われたことを思いだしていた。
『シロー殿の姿はなかなか見えてこんよ』
彼女はそのことについてまだ尋ねたかったが、授業の予鈴が鳴ってしまった。
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