第103話 支店長会議(4) 


 支店長会議、新商品発表のトリを勤めるのは、司会役のメリンダだ。


「エルファリア世界、『南の島』で本店を任されているメリンダです。

 私が住む『南の島』は、土地が痩せていて農産物のほどんどが国内で消費されます。

 鉱産資源もあるのですが、厳しい環境のせいで、採掘、精錬にまで及んでいません。

 みなさんご存じのコケット、これに使われている緑苔が外貨獲得の大部分を占めています。

 この度、リーダーに巨大帆船を提供していただき、海産物を中心とした輸出がやっと始まるところです」


 彼女は、そこで言葉を切り、俺へ頭を下げた。

 ここからは、俺が説明をすることになっている。


「彼女が言ったとおり、本店は海産物を扱うことになるんだけど、他にも保冷用の箱や高級志向のボードも売りだす予定だよ」


 指を鳴らすと、各支店長の前に、一つずつカバンが現われる。

 テーブルの中央には、俺が地球で仕入れてきた、大小のぬいぐるみが山と積まれている。

 カバンとぬいぐるみを見て、支店長たちの顔に「?」マークが浮かんだ。


「イオ、ぬいぐるみをそのカバンに入れてごらん」


「うん、分かった」


 竜人の少女イオが、自分の前に置かれたカバンの口を広げ、そこへぬいぐるみを入れていく。


「あれ?

 変だよ、お兄ちゃん」


 彼女がいくらぬいぐるみを入れても、カバンは膨らみさえしなかった。


「リーダー、これ、もしかしてマジックバッグですか!?」


 ミツさん、真剣過ぎ!

 美人がその顔すると、怖いですから。


「ああ、本店でとり扱うことになった」


 犬人のドーラが、太くなった尻尾しっぽをピンと立て、ガタリと立ちあがる。


「ま、まさか、マジックバッグを作ったんですか?

 いや、まさか、いくらなんでも、そんなことあるはず――」


 立ったままのドーラに、ハーディ卿が話しかける。


「ドーラさん、そのまさかですよ」


「……」


 しばらくの間、誰もしゃべらなかった。

 驚いていないのは、そのことをすでに知っているハーディ卿とメリンダだけだ。


「マジックバッグ作成のことは、支店長だけの秘密とし、絶対に外部にもらさないよう徹底してください」


 メリンダの言葉に、支店長たちがカクカク頷いてる。

 まるで人形みたいだね。


『へ(u ω u)へ やれやれ、ご主人様は、相変わらずですねえ』


 そうかなあ。


『(; ・`д・´)つ 反省しろーっ!』


 ◇


 マジックバックに関する諸注意が終わると、支店長たちは、なぜかぐったりしていた。


「くれぐれも、マジックバッグを持ったまま、ポータルを潜らないように。

 収納の機能が失われるからね」


 最後に念を押しておく。


「明日、みんなをそれぞれの世界へ送りますが、その時は、マジックバッグを俺に預けておいてください」


「えっ?

 シローさん、これ、もらえるの!?」


 ミツさん、顔が近い近い!


「ええ、そのバッグは差しあげます。

 渡すとき、持ち主にしか使えないよう設定しますから」


「「「うおおーっ!!」」」


 なんだか、えらく騒いでるね。


 みんなの興奮がようやく収まると、司会のメリンダが会議をしめにかかった。


「では、最後に、今回、『ポンポコ商会』のためお骨折りくださった、ハーディ卿から一言いただきましょう」


「今回、シローさんたちの旅に同行させてもらい、ここにいる方々と知遇を得ました。

 お互い、商売を通し世の中に貢献しようという心は同じだと思います。

 これからも、切磋琢磨して仕事に打ちこみましょう。

 最後に、あなた方の新しい仲間を紹介します。

 新しくできた、ボナンザリア支店の店長、ルエラン氏です」


 みんなが拍手でルエランを歓迎する。

 

「ハーディ卿、最後にお言葉ありがとうございました。

 リーダーも、私たちも、あなたには本当に感謝しています。

 これからも、アドバイザーとして、われわれに商売のことを教えてください」


 メリンダの言葉でみんなが拍手すると、ハーディ卿が再び立って手を振り、それに応えた。


「では、リーダー、最後に一言」


 メリンダの言葉を受け、立ちあがる。


「新しい仲間、ルエランも増えました。

 最後に乾杯をして、会議を締めくくりましょう。

 乾杯に使うジュースは、ボナンザリア支店が扱う新商品、マラアクジュースです」


「おいおい、新商品まだあんのかよ」


 思わずぼやいたダンが、奥さんのドーラに頭を叩かれている。

 しかし、その彼が、マラアクジュースを口にした瞬間。


うんまっ!!」


 やったね、狙いどおり!

 マラアクの実を集めてくれたデカゴリンたちも、これで本望だろう。


『へ(u ω u)へ デカゴリンちゃん、まだ死んでませんから! やれやれ……』

「みぃ……」(やれやれ……)

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