第102話 支店長会議(3)


 にぎやかな屋上バーベキューの後、支店長たちは、再び会議用の大テーブルに着いた。


「それでは、各支店から新製品を紹介してもらいましょう」


 司会のメリンダがそう言うと、アリスト支店のキツネが立ちあがった。


「え、ええ、アリスト支店の新商品はこれです」


 そうそうたる面々を前に引きぎみのキツネが、テーブルから少し離れた所に商品を組みたてる。

 組みあがったものを見て驚いているのは、それを初めて見るルエランぐらいで、他の支店長は、浮かない顔をしている。

 それはそうだろう。

 商品は、すでにお馴染みの自立式ハンモック『コケット』だった。


「シロー、これ、コケットだよな?」


 自分でもそれをとり扱っているダンが、商品に近づく。

 

「ああ、そうだよ。

 ダン、横になってみろよ」


 雰囲気に呑まれたキツネが黙っているから、俺がそう促した。


「ああ、お前が言うならそうするが……なんだこりゃ!

 全く寝心地が違うぞ!」


 ダンが驚くのも無理はない。究極の寝心地だと思っていたコケットのさらに上をいくんだから。


「もう知っている者もいると思うけど、これには俺だけが手に入れられる新世界の素材が使ってある。

 ハーディ卿の勧めで、ハイエンド商品として売りだすことにしたんだ」


「ハイエンド商品?」


「ああ、超高級品ってこと。

 売却対象は、王族、上級貴族を考えている」


「おい、そんなやつらだけに売るのはどうかと思うぜ!」


 かつて反政府組織のリーダーをやってたくらいだから、ダンは俺の考えがお気に召さないようだ。

 念話を通じ、彼だけに裏の作戦を伝える。

 

「がははは!

 そりゃあ面白れえ!

 お前らしぜ、シロー!

 この商品、ウチの支店も、上流階級様にバンバン売らせてもらうぜ!」


 みんなダンの豹変に驚いてるみたいだね。


 

「パンゲア世界のマスケドニア支店です。

 ウチは、二つの新商品を考えました」


 ミツさんは、カバンをテーブルの上に置くと、そこから二つのモノを取りだした。

 

「「「おおっ!」」」


 支店長から声が上がったのは、その一つがすでにお馴染みのものだからだ。

 それは、白い招き猫だった。

 

「肉球に入れる特殊素材の量を増やし、ぷにぷに感が大幅にアップしました」


「おお!」

「これはっ!」

「確かに、ぷにっぷにだ!」  


 ぬいぐるみの肉球に触れた支店長たちが驚いている。

 

「これも、ハイエンド商品として売る予定です」


「「「おおー!」」」


「そして、もう一つは、エルファリアの果実ジュースを目標に作りました。

 隣国キンベラにある出店でみせから取りよせた、ケーキと共に召しあがってください」


「こりゃ、旨い!」

「シュワシュワしてて、爽やかだね!」

「このケーキにも合うね!

 この味は見事だわ!」


 食事では、わざとデザートを出さずにおいた。この商品がデザート替わりだね。



「『地球世界』支店、黒騎士です。

 ご存じ、『フェアリスの涙』というお酒を扱っています。

 ここではお出しできませんが、この度、新たなお酒を売りだします」


 黒騎士さん、がんばった!

 こんなに話した彼女を見たのは初めてだよ。



「グレイル世界ケーナイ支店の新商品は、新世界『ボナンザリア』の薬師ルエランさんから提供された、ポーションの数々です」


 ポルの母親である狸人アマムさんがそう言うと、補佐役として彼女の隣に座る地球人ターニャさんが、テーブルにポーションのビンを並べた。

 ポーションは、品質が分かるよう、透明なビンにいれてある。青、黄色、赤。色とりどりのポーションが陽の光を浴び、キラキラ輝いている。


「魔力補填、体力増強、ケガへの対処など、いずれも従来のポーションに比べ、遥かに高い効果があります」


「「「おおー!」」」


「これは、各支店とも、その世界の薬師対象に売ってください」


 売れ筋商品に、支店長たちの目が輝く。



「エルファリア世界、東の島支店の新商品は、こちらです」


 エルフの男性ロスさんの合図で、隣に座る、同じくエルフの女性パリスさんが遊戯用の『ボード』をケースから取りだした。


「おお、それは!」

「ついに、売りだすんですね!」

「あれ、私も欲しかったんだ!」


 ほとんどの支店長は、サーフボードを小型にしたような『ボード』を目にした事があるからね。

 女王シリルが、食いいるようにそれを見つめている。 

 遊びずきの彼女にも、後で一つ渡しておこう。


「この『ボード』には使用期限があります。

 購入される方には、その事をきちんと確認してもらってください。

 エルフ語になりますが、これがお客様との契約書になります」


 そうそう、『ボード』には使用期限があるから、後で苦情が出ないよう、契約書を作ることにしたんだよね。



「次は、ウチの番だな。

 ええと、『学園都市世界』の支店を任されているダンだ。

 ウチは、最近までごたごたしてたのもあって、商品開発ができてない。

 シロー、いや、リーダーから、水と湯の両方を出せる魔道具を提供してもらったので、現在それを改良中だ。

 近いうちに、商品サンプルを各世界に送るから、販売を検討してくれ」


「同じく、『学園都市世界』で支店をやっているドーラです。この商品も、販売先は各世界の魔道具を扱う店に限定してください。

 つまり、卸売りの形になります」


「ドーラ、ベビーカーの事は言わなくていいか?」


「そうだったわ。

 シローさんがうちの子にくれたベビーカーが商品化できないかと思うの。

 リーダー、後でみんなに見せてくれる?」



「えー、ドラゴニア支店です。

 幾つか新商品があります。

 シローさん、お願いします」


 ネアさんから振られたので、二つの商品を机の上に並べる。 


「それは……色が濃いけど、蜂蜜ですか?」


「メリンダ、よく分かったね。

 この支店では、すでにとり扱っている蜂蜜とは別に、特殊な蜂蜜を扱うことにした。

 これは、そこにいるイオにしか集められない『黒蜂蜜』だよ」


「シローさんが、おっしゃるように、これは娘にしか採集できない蜂蜜です。

 これもハイエンド商品として売る予定です」


 そこで竜人の少女、イオが口をはさむ。


「この瓶一つで、竜金貨二百枚で売れました」


「おい、シロー、竜金貨二百枚って、どのくらいの価値なんだ?」


「ああ、金貨百枚(約一億円)くらいだよ、ダン」


「げっ、親指くらいの小瓶が金貨百枚かよ!

 まったく、ドラゴニアの売りあげが、支店中ダントツなのも頷けるぜ。

 で、そっちの丸い玉はなんだ?」


「ああ、こっちは、家だ」


「えっ?

 よく聞きとれなかったんだが?」


「だから、これ、家だよ」


「イエって、人が住むあの『家』か?」


「ああ、そうだ。

『ポチボンハウス』って言うんだ」


「馬鹿言え!

 なんでそんなもんが家なんだ?!」


「ははは、ちょっと見てろ」


 俺は、テニスボール大の玉から出ている突起をポチッと押した。


 ボンッ


 そんな音を立て、テーブルの上に、高さ三十センチくらいの精巧なミニチュアハウスが現れた。


「実際は、人が住めるサイズになるよ」


「「「……」」」


 説明を聞いて、みんな、すっごく目が大きくなってる。口を閉じないとよだれが垂れるぞ。

 ダンが、椅子からずり落ちそうな格好で言った。


「相変わらず出鱈目でたらめだな、シローは……」


 いや、勇者なんだから、お前も十分出鱈目だろう。

 俺はそう言いたいよ。

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