第101話 支店長会議(2)


 アリストにある『やすらぎの家』屋上での支店長会議は、俺の言葉で始まった。


「みなさん、今日は『ポンポコ商会』支店長会議に参加してくれてありがとう。

 世界の壁を超え、こうしてここに集まれたことを嬉しく思います。

 では最初に、これから新しく支店ができる、スレッジ世界からのお客様から、一言いただきましょう。

 こちら『ドワーフ皇国』女王であり、俺の友人でもあるシリル陛下です」


 二十人以上が座れる大きなテーブルに着いた支店長たちが、すっと立ちあがった女王シリルを見て息を呑んだ。

 ドワーフでもある彼女は、人族なら小学生三年生くらいにしか見えない。

 しかし、白く輝くティアラを頭に載せ、純白のドレスを着たその姿には、女王としての誇りと威厳が見てとれた。


「シローより紹介にあった、シリルじゃ。

 こやつ、友人とか言いながら、私の所へ来るのを忘れておったそうじゃ。

 頼りないヤツじゃからこそ、みなが助けてやらねばならぬぞ。

 我が国としても、各々方との商取引を楽しみにしておる。

 先だって『神樹戦役』では、みなに迷惑をかけた我が世界じゃが、以後よろしく頼む」


 シリルが子供椅子(彼女には秘密)に座ると、割れんばかりの拍手が起こった。

 彼女って、簡単に人の心を掴んじゃうよね。


「ええ、本日、司会を務めます、『ポンポコ商会本店』のメリンダです。

 最初、それぞれから、財務報告をしてもらいます。

 それが終わると、軽食をはさんで新商品の紹介となります」


 体に巻きつける、ダークエルフの民族衣装を着たメリンダは、堂々としていて頼もしかった。

 彼女は、まだ二十歳になるかならないかのはずだ。環境が人を作るって本当かもしれないね。


「では、アリスト支店から報告してください」


「ええと、ア、アリスト支店を任されております、コラリンコです。

 今年の収益は……」


 えっ!? ボスの名前って、「コラリンコ」だったの? 

 初めて知ったよ!


『(・ω・)ノ ずーっと働かせてきた人の名前を知らないって、ホント失礼ですよ!』


 点ちゃん……返す言葉もございません。

 しかし、アリスト支店ってそんなに儲けてたのか?

 なんだ、あの金額!

 税金が怖いな。

 後で、ハーディ卿に相談しておこう。


 ◇


 各支店長からの財務報告が終わり、休憩を兼ねた軽食の時間となった。

 屋上の隅に置いた、愛用のバーベキューコンロで、食材を焼いているところだ。

 まあ、旅行中と違い、今日はデロリンがいるから、彼任せなんだけどね。

 俺の仕事は、せいぜい火力の調節くらいだ。


「シローさん、この食材、凄い人気ですね!」


 そう言ったエルフのチョイスは、器用にも片手に皿を三つずつ持ち、デロリンから食材を載せてもらっている。

 ケータリング役の彼は、みんなに料理を配るのだ。


「だろう?

 これ、『田園都市世界』っていう所で獲れた、巨大なカニだよ」

 

「へえ、『田園都市世界』ですか?

 聞いた事ないですね」


 まあね、新世界の事は、まだ一般に知られていないから。


「シロー、刺身の追加お願いします」


 ルルが押すワゴンには、空の皿が並んでいる。


「ええーっ?

 みんな、刺身、そんなに食べたの?」


 好き嫌いの分かれる食べ物だから、それほど早く無くなるとは思ってなかったよ。


「好評ですよ。

 特にシリルちゃんが、たくさん食べてますけど」


 ああ、そう言えば、あの国って、高級品としてわずかながら海産物が流通してたな。

 彼女、すでに刺身の味を知っていたのかもしれない。


「パーパ!

 貝ちょうだい!」


 食事の時間だけ屋上に上がってきているメルが、冒険者服の裾を引っぱる。

 

「ナルにも、焼いて!」


「ようし、じゃあ、いっぱい焼いちゃうかな」


 ボナンザリア世界で採った大粒の二枚貝は、すでに砂抜きが終わっている。

 点収納していたそれを、ざらざらと網の上に並べる。

 貝は火が通ると、ぱかっと口を開いた。


「「ぱかっ、ぱかっ、ぱかっ!」」


 子供たち二人には、それが面白かったようだ。

 口を開けた貝に、醤油をじゅっと垂らすと、皿に盛ってやる。


「熱いから、ふうふうしてから食べるんだよ」


「「わーい!」」


 二人は貝が山盛りになった皿を掲げ、ルルの所へ駆けていった。

 マンマに、「ぱかっ」の報告をするのだろう。


 点ちゃんによって、環境コントロールされた屋上は、柔らかな陽射しが降りそそぎ、爽やかな風が吹いていた。

 食事の後は、いよいよ新製品の発表会だ。

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