第100話 支店長会議(1)
長旅の後、アリストにある『くつろぎの家』に帰ってきた俺は、支店長会議の準備に取りかかった。
世界群各地にある、『ポンポコ商会』の支店長が集まる会議だ。
初めての事なので、俺にしては準備に手間を掛けていた。
『(*'▽') 会議なのに!』
そう、会議なのに、天敵の会議なのに、いつにない気合いを入れ、用意をしている。
『おーい、ダン。
聞こえるか?』
『おっ、シローか?
この前は、『英雄島』への招待、ありがとうな。
みんなが、『マンボウ』は最高だって言ってたぞ。
それより、お前から念話が来たってことは、こっちにいるのか?』
ダンが言うところの「こっち」とは、彼がいる『学園都市世界』のことだ。
彼は、その地にある『ポンポコ商会』の支店長でもある。
『いや、パンゲア世界アリストから念話してる』
『おい、一体どういうことだよ?!』
ダンの驚きも無理はない。世界と世界を繋ぐ念話など、前代未聞だからね。
『聖樹様から、異世界間でも念話ができる便利グッズをもらったんだ』
俺は右手を開き、握っていた虹色の玉を眺めた。
『お前なあ、便利グッズって……』
呆れるダンに、支店長会議に向け準備するよう伝える。
世界によっては、会議の時間帯が、向こうの深夜になることもありえるので、念を押しておく。
かなりの時間をかけ、全ての支店長に念話を繋いだ。
◇
三階にある自分の部屋から、一階のリビングに降りると、ルルがお茶の用意をしてくれていた。
ソファーでくつろぎ、ルルがいれてくれた、日本茶を飲む。
「ふう、旨いなあ。
ルル、もうこのお茶の入れ方、覚えたみたいだね」
「ええ、せっかくお茶碗も頂きましたから」
ルルが手に載せているのは、俺がプレゼントした志野茶碗だ。
本来、抹茶をたてるものなのだろうが、それはいつか考えよう。
「シロー、一つ確認したいのですが……」
「なんだい、ルル?」
「今回の旅行、世界群を巡るというものでしたよね?」
「ああ、そうだよ」
「やっぱり。
もしかして、スレッジ世界を忘れていませんか?」
「……」
「シロー?」
やっちゃった!
また、うっかりをやっちゃったよ!
しかも、今回は、世界群規模のうっかりだ。
「スレッジを忘れてた」
スレッジには『ポンポコ商会』の支店が無いから、頭から完全に抜けおちてた。
あそこは、ギルドができたばかりだから、リーヴァスさんは、仕事があったはずなんだけど……。
よく考えたら、旅行中は、次にどこへ行くか言わずにセルフポータルを開いた事が多かったから、リーヴァスさんには、どうしようもなかったのか。
気づいたらアリストに帰ってました、って感じだよね、きっと。
「私たちは構いませんが、シリルちゃんは、きっと待っていたと思いますよ」
俺たちが世界群を回ることは、ギルド間の通信を通して、ドワーフ国女王シリルも知っているはずだから、ルルが言うとおりかも。
「これ、やばいよね」
「ナルとメルも、シリルちゃんに会えるのを楽しみにしていましたから。
ご招待できるなら、そうしてあげてください」
「そうだね。
支店長会議の時、彼女も参加してもらおうかな」
そうすれば、まだ支店がないスレッジ世界にも、それを作る準備くらいできるだろう。
「よかった。
ナルとメルも喜びます」
「ルル、気づかせてくれてありがとうね」
「え、ええ、どういたしまして」
頬を染めるルルは、出会った頃のまま初々しい。
「あーっ!
二人切りで、なにしてたのかな~?」
「シロー、教えてもらえる?」
コルナとコリーダがリビングに入ってくると、落ちついていた場が急に賑やかになった。
◇
初めての支店長会議は、アリスト王国の休養日正午に開催された。
支店名(世界名)参加者、という順で以下の通り。
地球支店(地球世界) 黒騎士
アリスト支店(パンゲア世界) ボス、キツネ
マスケドニア支店(パンゲア世界) ミツ
ケーナイ支店(グレイル世界) アマム、ターニャ
学園都市支店(学園都市世界) ダン、ドーラ
東の島支店(エルファリア世界) パリス、ロス
南の島本店(エルファリア世界) メリンダ
ドラゴニア支店(竜人世界) ネア、イオ
ティーヤム支店(ボナンザリア世界) ルエラン
アドバイザーとして、ハーディ卿とリーヴァスさんが、ゲストとして女王シリルがこれに加わる。
また、地球世界は『異世界通信社』から、取材陣も呼びよせている。
ケータリングは、ルル、コルナ、コリーダが手伝ってくれるということもあり、俺を含めて参加者が二十名を超えるから、会場は庭をはさんで我が家の向かいにある、『やすらぎの家』屋上を使うことにした。
「はあ、はあ、リーダー、一応、お一人お一人からのコメントはいただきましたよ」
鼻息荒く報告をするのは、俺の友人で、『異世界通信社』社長でもある柳井さんだ。
スーツがよく似合っているだけに、興奮しているのが余計に目立つ。
「これはしょうがないですよ。
社長、こちらに来る前から、やけに張りきってましたからね」
「興奮して寝られないって言ってましたね」
陽に焼けた長身のイケメンは、後藤さん。角刈りのややゴツイ男性は遠藤だ。二人は、柳井さんの部下だ。
「ちょっ、ばっ、馬鹿!
シロー、あっ違う、リーダーの前で、なに言ってるのよ!」
普段は冷静な、柳井さんの慌てる姿は珍しい。
「今日は、取材の方、よろしくお願いしますね」
「「「はい!」」」
柳井さんだけでなく、後藤さん、遠藤も張りきってるみたいだね。
「ひ、ひゃあっ、ひ、姫様?!」
そんな声を上げているのは、エルファリア世界から来たエルフの男性ロスだ。
お茶を出してくれたのが、コリーダだと気づいた彼が驚いたのだ。コリーダは、エルフの王女だったからね。
「今は違いますよ。
他の人と同じよう接してください」
コリーダはそう言っているが、メイド服が彼女の豊かな身体をかえって強調しており、ロスが落ちつくのは無理だろう。
「あんた、姫様のどこ見てるのよ!」
彼は、さっそく共同支店長でもある女性、パリスから頬をつねられている。
「コルナさん、いい!」
コルナのメイド服姿は、カワイイもの好きである黒騎士の心を射抜いたようだ。
彼女は、濃紺のスーツ姿で、コルナに迫っている。
「耳とシッポに触ってもいい?」
「だっ、ダメです!」
三角耳とふさふさ尻尾を手で押さえ、顔を赤くしたコルナは、とても可愛かった。
「ルルさん、この服、すっごく似合ってます!」
ナルやメルと、そう年頃の変わらないイオが、初めて見たメイド姿のルルに抱きついている。
「ありがとう、イオちゃん」
ルルは、微笑みを浮かべ、イオの青い髪を撫でている。
そうこうするうち、参加者みんなへ、お茶が行きわたったようだ。
俺は、獣人世界ケーナイで手に入れた、握りこぶし大の素朴な素焼きの土鈴を鳴らした。
カロンカロン
大きなテーブルに着いた、二十人近い参加者が、こちらに注目する。
いよいよ、支店長会議の始まりだ。
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