第97話 薬師の本分
晩餐会の翌朝、俺たちは、陛下や王妃、ルナーリア姫、シュテインに別れを告げた。
「シロー、あなたを『マンボウ騎士』に任じます」
ルナーリア姫の言葉で、この国での役職が一つ増えてしまった。
『オコ騎士』『モフモフ騎士』『マンボウ騎士』の三つになっちゃったね。
『(*'▽') ご主人様、ぱねー!』
またもや! 点ちゃんは、面白がってるだけだね。
立ちさる前に、みんなが王都を空から見たいということなので、点ちゃん1号で飛ぶ。
一時間もせず、ベラコスの街に着いた。
ギルドのサウタージさんに挨拶してお土産を渡した後、『ルエラン薬草店』を訪れる。
店に入ると、やけに興奮したルエランが奥から跳びだしてきた。
「シローさん、聞いてください!
凄いですよ!」
何が凄いんだろう?
「ル、ルエラン、ちょっと落ちついて!
何があったの?」
「あっ、その前に、ハナとケロ、二人を派遣してくださってありがとうございます。
よく働いてくれて助かってます」
「ええと、ハナとケロって誰だっけ?」
「シロー、森で会った例の二人では?」
ルルが教えてくれる。
「ああ、あの二人か!
君の役に立ってるなら、俺も嬉しいよ」
ハナとケロって、ハンナとケロベスのことだね。分かりやすい名前にしたものだ。
だけど、「ケロ」ってカエルみたいだな。
「では、凄い発見をお見せしますから、一人で調合室に来てください」
「俺一人だけ?」
「ええ、よろしくお願いします」
これは、本当に凄い発見かもしれない。
何事にも控え目なルエランが、そんなことを言うなんてね。
◇
家族や仲間をルエランの母親フィナさんに任せ、俺はルエランと二人、薬剤店の奥にある調合室に来ている。
整理整頓がモットーのルエランには珍しく、調合を行う器具の周辺はビーカーやフラスコが雑然と並べられていた。
ルエランは、台の上に置いてあった小型のナイフを手にすると、いきなりそれで自分の手のひらに切りつけた。
当然、傷口が開き血が流れだす。
「おいっ!?」
ギョッとした俺に、ルエランが落ちついた声を掛けた。
「よく見ていてください」
彼はそう言うと、小さな容器に入れてあった、琥珀色の液体をほんのわずか、血まみれの手に垂らした。
シューッ
そんな音を立て血が泡立ち、少しするとそれが収まった。
ルエランは、傷を負った手のひらを布で拭いた。
「えっ!?」
そこにあったはずの傷は、綺麗に消えていた。
ピンク色の線が残っているから、そこに傷があったのだろう。
「こりゃ凄い!」
同じような事は舞子の呪文でも可能だが、これはさっきの液体さえあれば、誰にでもできるからね。
「『神薬』と名づけました。
中心になった素材は、これです」
傷が消えた彼の手には、薄い紙のようなものが載っていた。
「あっ、それって神樹の種を包んでいるヤツだね」
「そうなんです。
種を植えた後、この素材を調べていて、成分がエリクサーに似ていると気づいたんです」
「点ちゃん、エリクサーってなに?」
『(*'▽') 別名「蘇生薬」と言われる、万病に効く薬の名前ですね』
「ルエラン、なんでそんな薬の成分を知ってたの?」
「以前、運よく素材が手に入り、手掛けたことあるんです。
この薬草店も、そのとき儲けたお金で建てました」
新しく『ポンポコ商会』に参加したこの若者は、思った以上に大物だったらしい。
「シローさん、この素材ですが、他にお持ちではありませんか?」
やばい。何がやばいって、そんな凄い素材が大量にある。
以前、『神樹戦役』に参加した人たちに神樹の種を配った時、それを包んでいた紙のようなものは、「ゴミ」として全部回収してあるからね。
「ええと、一万枚ほど持ってる」
「えええっ……!」
ルエランのくりくりした目が、白くなったり黒くなったりしてる。
ちょっと面白い。
『(; ・`д・´) 不埒(ふらち)者ーっ!』
◇
神薬の話があるから、ルエラン、彼の母親であるフィナさん、それと俺の三人だけでお茶をすることにした。
俺は、ルエランが作った新しい薬の話をした後、自分の考えを口にした。
「フィナさん、そういうことですから、『ルエラン薬草店』が『ポンポコ商会』に入るかどうか、もう一度、考えてください。
ぶっちゃけた話、そのまま神薬を売る方が、儲けられると思いますよ」
「難しい事は分かりませんが、
微笑んで言うフィナさんに、ルエランが続けた。
「ボクは薬師です。
薬師の本分は、より多くの方を病やケガから回復させることだと思うんです。
そのためには、『
なるほどなあ、薬師の本分か。
ルエランは、間違いなく本物の薬師だね。
俺は、そんな人物が『ポンポコ商会』に入ってくれたことを嬉しく思うとともに、彼が言ったとおり、薬によっていかに一人でも多くの病人を救うか、その責任の重さを痛感していた。
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