第98話 聖樹様への報告
ボナンザリア世界を去る事になった俺たちは、ベラコスの郊外にあるお花畑を出発の場所に選んだ。
「シローさん、ホントにありがとう!」
「素晴らしい仕事を紹介してくださってありがとう!」
咲きみだれる花に囲まれ、そんなことを言っている男女は、ハンナとケロベス、今はハナとケロと名乗っている二人だ。
二人より添い、いかにも仲が良さそうだ。
このリア充め!
『へ(u ω u)へ やれやれ、また言ってるよ、この人』
「みみみ」(ダメですね)
点ちゃん、ブランちゃん、リア充に明日はないのだ。
『(・ω・)ノ それって「俺たちに明日はない」じゃないの?』
くぅ、点ちゃんの地球知識が充実しきてる。
「シロー、今更変えるのもどうかと思いますが、母さんとデロリンが仲良くしているのを見るのはちょっと……」
ルルが、困ったような顔をしている。
そうなんだよね。ハンナとケロベスの二人に『形態変化』使う時、ハンナはエレノアさん、ケロベスはデロリンをモデルにしたんだよ。
まあ、本物と偽物が会うことは、一生無いと思うから大丈夫だよね、きっと。
少し離れた所では、ルエラン親子が別れを惜しんでいた。
「母さん、じゃあ行ってくるよ」
「ああ、シローさんに迷惑かけないようにね」
ルエランは、俺たちと一緒にアリストがあるグレイル世界へ向かう。
向こうで支店長会議があるし、神薬に関する打ちあわせもあるからね。
「この世界に来たら、またウチのギルドに寄るんだよ!」
ナルとメルの頭を撫でながら、片目のギルマス、サウタージさんが念を押す。
「もちろんですよ」
俺も、ベラコスの街やギルドの雰囲気が好きだしね。
「では、みなさん、お世話になりました!
良い風を!」
見送りの人々が、手にした招き白猫の肉球をプニプニしながら声を合わせる。
「「「ニャンニャン!」」」
こちらも、それに答えた。
「「「ニャンニャン!」」」
お花畑から、俺たちの姿が消えた。
◇
セルフポータルが開いたのは、エルファリア世界、『聖樹の島』にある森だ。
ここが初めてのルエランは、巨木が連なるその景色に圧倒されている。
「この森……素材の宝庫ですね!」
彼の目がキラキラしている。
そのまま採集を始めそうな彼を引きとめ、聖樹様の所へ向かう。
聖樹様の前まで来たので、膝を地面に着く。
「シローさん、なんでそんな格好を?」
「ルエラン、聖樹様の前だから」
「ええと、聖樹様はどこにいらっしゃ……」
彼は、やっと目の前にいらっしゃる聖樹様に気づいたようだ。
あまりの大きさに、初めてここに来た人は、みんな驚くからね。
ルエランは、カクンと両膝を折り、地面に座りこむと、信じられないという顔で固まっている。
周囲には、聖樹様が発する、おおらかな波動が満ちていた。
「聖樹様、ただ今、戻りました」
『シロー、エミリー、ご苦労じゃった。
点の子よ、よろしく頼む』
『(*'▽') はいはーい!』
点ちゃんが、聖樹様とみんなを繋ぐ念話のネットワークを構築する。
「聖樹様、『ボナンザリア世界』の神樹様は、無事お元気な姿をとり戻されました」
頼まれていたことが成功したことを報告する。
『ありがとう。
あの子からも、知らせてもらった』
「それから、頂いた神樹の種を包んでいた素材を、薬としてつかうのをお許しいただけますか?」
『もちろんじゃ。
それは、すでにお主につかわしたもの。
自由にするがよい』
「ありがとうございます」
『お主、我が渡した玉を使っておらんのではないか?』
「ええと、どの玉でしょう?」
『(*'▽') ご主人様、ホントに忘れてるの?』
『先だって、お主が来た時、渡したはずだが』
「ああ、これでしょうか?」
すっかり忘れていた俺は、聖樹様から頂いた、虹色に輝く玉を右手に載せた。
『それは異世界間の念話を可能にする玉じゃ』
えええっ!
それって、かなり凄いものじゃない?
『(・ω・)ノ だからあ、なんでそんな大事なものを忘れちゃうんですか!』
ごめんごめん。
これで世界間の連絡が、ぐっと楽になるね。
『(・ω・) 直接行かなくても済みますからね』
『その玉、もう一つ渡しておこう。
エミリーが使うがよい』
『聖樹様、ありがとうございます』
エミリーの念話が伝わると同時に、紙のようなものに包まれた玉が、空から落ちてくる。
さっそく、空中でつかまえ、点収納に入れておいた。
『この世界を訪れた時は、またここを訪れるがよい』
「ありがとうございます」
聖樹様への報告が終わった俺たちは、ギルド本部前へ瞬間移動した。
◇
俺たちがギルド本部前に現れると、あっという間に人々が集まってきて囲まれてしまった。
この集落は、働き手のほとんどがギルド本部に所属する冒険者か職員だから、俺たちの活動に興味があるんだろう。
ただ、旅の間、俺は『ポンポコ商会』の仕事をしている時間が多かったから、話はリーヴァスさんに任せよう。
そんなことを考えていると、ギルド本部の扉から、白いローブを身にまとったミランダ本部長が姿を現した。
相変わらず、背筋がピンと伸びた美しい姿だ。
その彼女が、エミリー、舞子が並ぶ前にひざまずくと、翔太を除き、みんながそれにならった。
「聖女様、大聖女様、再びお目に掛かれ光栄に存じます。
大変なお仕事、ご苦労様でした」
ミランダさんだけには、俺たちの旅が神樹様を癒すためのものだと、前もって知らせておいたからね。
「神聖神樹様のご加護がありましたから、無事お仕事を終えることができました」
エミリーが、ゆっくりした口調でそう言った。
そんな彼女の姿は、神々しいばかりに威厳があり、まるで森の生命力が凝縮し人の形をとったかのように見えた。
エミリーは、ミランダさんの手を取り立たせると、翔太、舞子と共に、ギルド本部へ入っていった。
旅の間、ギルド間の調整をしていたリーヴァスさんが、その報告をするためだろう、四人の後を追った。
ナルとメルは、さっそく子供たちからボードに乗せてくれるようせがまれている。
ルル、コルナ、コリーダ、それにミミとポルは、この地で知りあった人たちと、談笑している。
ここが初めてのルエラン、そして、二度目の黒騎士、ショーカ、ハーディ卿の周りにも、人が集まっていた。
俺?
なんか、みんな近寄ってこないんだよね。
なんだこれ?
『(*'▽') ご主人様、嫌われてるの?』
「みぃ?」(そうなの?)
いや、点ちゃん、ブラン、それヤメテ!
俺自身、そうかもしれないと思って、ちょっと不安なんだから。
◇
ギルドの待合室で、ぽつんと一人座り、膝の上で丸くなっている
「ギルド長がお呼びです。
ミミさんとポルナレフ君もご一緒にいらしてください」
あれ?
この人、俺に対し、こんなに恭しい態度だったっけ?
まあ、いいか。
一度外へ出て、住民に囲まれているミミとポルに声を掛けると、彼らを伴いギルド本部奥の個室へと入った。
落ちついた内装の部屋には、茶色いソファーが置いてあったので、ミミ、ポルと並んでそれに腰かける。
それほど時間をおかず、ミランダさんが一人で入ってくる。
彼女は、立とうとした俺たちを制し、向かいのソファーに座った。
「三人とも、ご苦労だったね。
シロー、『ボナンザリア世界』での件、よくやったね」
神樹様のお姿を元に戻した一件だね。
「いいえ、あれはエミリーの仕事でしたから」
「それでもさ。
あんたがいなけりゃ、新世界へ渡ることもできなかったんだからね。
謙虚すぎると嫌味だよ」
「はあ、そうですか」
「なに気の抜けた返事してるんだい。
ああ、これを伝えとかなくちゃね。
ミミ、ポル、あんたたちもよくやった。
それでだ、二人とも、銀ランクから金ランクに昇格する話が出てる。
あんたたち、受けてくれるかい?」
ミミとポルの反応は意外なものだった。
「お言葉はありがたいのですが――」
「ボクたちには、まだ早いと思います」
ええっ!?
二人とも、金ランクに憧れてたと思ってたんだけど?
「今回の旅で、まだまだ冒険者として学ぶことがあると知りました。
本当に金ランクにふさわしくなれたと思えたら、そのとき昇格したいです」
「私も同じ考えです」
ポルとミミはそんなこと考えてたのか。
「リーヴァスから聞いたよ。
カニの一件かい?」
そういえば、ミミとポルは、『田園都市世界』で、リーヴァスさんに叱られて反省してたよね。
「もちろん、そのこともあるんですが、自分たちは色んな面でまだまだ未熟だと思いました」
「うーん、そんなことないと思うけどねえ。
もしかして、あんたら、自分をこのシローや、リーヴァスと較べてないかい?
こいつらは規格外だから、比較対象にならないよ。
だが、まあ、あんたらがそう思ってるなら、昇格は少し待つかね」
「申し訳ありませんが、それでお願いします」
「私もポン太と一緒で」
ミランダさんは、ため息をつくと、俺の方を見た。
「シロー、『ポンポコリン』は、ホントに一流冒険者パーティだねえ」
全ギルドの頂点にいる彼女の言葉は、何より嬉しいものだった。
「話は変わるが、この二人、しばらく私に預けてくれないかい?」
「……それは、もちろん、俺に異存はありません。
ミミ、ポル、二人はどうしたい?」
「「ミランダ様、よろしくお願いします!」」
じゃあ、決まりだね。
こうして、ミミとポルは本部での冒険者修行が始まった。
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