第96話 上映会


 陛下の招きで、家族や仲間たち全員が晩餐会の席に着いている。食事が始まるぎりぎりのタイミングで、俺も広間に入ることができた。


「あれ?

 シローさん、冒険者の服じゃないんですね?」


 ショーカがこちらの格好を見て驚く。

 俺にしては珍しく、執事さんが用意してくれた貴族用の服を着てるからね。

 頭の布も外してるし。


 陛下の隣に俺が座ると、食事が始まった。

 

「シロー殿、今日はルナーリアと遊んでくれたそうじゃな。

 感謝する」


「陛下、お気になさらないでください。

 以前、こちらにうかがった折りに、姫様と約束していましたから」


 ルナーリア姫をはじめ、子供たちの姿が見えないのは、みんな海で遊びつかれて寝てしまったからだ。

 

「シローさん、今日はどんなことをして遊ばれたのです?」


 王妃が感謝のこもった目で俺を見る。


「ええと、潮干狩りとか、砂遊びですね」


「ほう、それはどんな遊びですかな?」


 陛下は興味深々だね。

 

「お食事の後で、様子をご覧にいれますよ」


「なんと!

 そのような事ができるのか!?

 それは楽しみじゃな!」


「それと、これは俺からのプレゼントです」


 テーブルの上に人数分の白いお皿と小皿が並ぶ。

 

「シローさん、この透きとおった食材は何ですか?」


 シュテインは、白い皿に盛られたそれが食材だと気づいたらしい。


「小皿のつけ汁で召しあがってください」


 例のごとく、陛下の後ろに立つお毒見役のおじさんが、皿を手にとり一口食べ、驚いた顔のまま皿を元の位置に戻す。

 陛下が待ちかねたように、皿に載った食材を口にした。


「黒い、いや、茶色いつけ汁につけて食べるのか?

 むっ、なんじゃこれは、ほんのり甘いぞ!

 なんと上品な味なんじゃ!」  


「俺の世界では、イカと言われる食材に近いです。

 海で獲ってきました」


「おお、そうか!

 海で獲れた食材じゃったか!

 それは、まこと珍しいのう!」


 この世界の海には、首長竜など、水生の巨大な魔獣が多数生息していて、誰も海には近づかないそうだ。


「そのスープは醤油といいます。

 大聖女様と俺がいた国で、よく使われる調味料です」


 舞子はイカの刺身で故郷を思いだしたのだろう。

 少し涙ぐんでいる。


「すっごく旨いニャ~」


 本当に美味しいと、ミミは語尾が変わるよね。

 そういえば、猫はイカ食べられないけど、猫人ってイカ食べてもいいの?


 ◇


 食事が終わり、メイドさんがテーブルの上を片づける。

 さあ、海で遊んだことを報告しなきゃね。


「では、みなさん、こちらの壁をご覧ください」


 陛下と王妃、シュテイン皇太子は、狐につままれたような顔をしたが、言われたとおり、壁の方へ椅子の向きを変えた。 


「では、始まります」


 落ちついたベージュ色の壁紙が白く変わり、海辺で遊んでいる、パーカー姿のルナーリア姫が大きく映しだされた。


「おお!

 これは!

 絵が動いておるのか!?」


 陛下が驚きの声を上げる。

 ポータルズ世界群には、新世界も含め、映像を記録する魔道具が普及してないからね。あるにはあるのだけど、かなり希少なものだ。

 俺が映しているのは、点魔術によるものだから、映像も限りなくクリアだ。

 

「まるで本物のルナがそこにいるみたいだ!」


 魔道具には詳しいシュテインも、映像の鮮やかさに心奪われている。

 ルナーリア姫が遊ぶ姿を目を細めて見ていた陛下と王妃だが、映像が『マンボウ』でのものに切りかわると、驚きに声を失った。

 しかし、驚いたのは、彼らだけではない。

 予想外のことに、俺も驚いている。


 点ちゃん、『マンボウ』の場面は、映像にしてないはずだけど?

 あれ?

 おーい、点ちゃーん?

 なんで答えないんだろう?


「ななな、なんだあれは!」


 陛下が驚くのも無理はないよ。

 首長竜ちゃんが、登場しちゃいましたよ。

 王妃なんて、怖がって顔を手で覆ってる。


「なんと!」


 ルナーリア姫が、最高の笑顔で首長竜の頭に乗っている。

 あちゃー、陛下が気を失いかけてるか。

 ……ふう、やっと映像が終わったな。


 あれ!?

 なんか続いてない?

 ああっ、これ、みんなを瞬間移動させた後、俺が密かに釣りしてるところじゃん!

 なんでこんなところまで映ってんの!


 画面には、海に浮かべたボードに乗った俺が、悪戦苦闘の末、巨大なイカを釣りあげた後、そのイカに墨をぶっかけられ、全身まっ黒に染まるところまで映っていた。

 俺が服を着替えたのは、これが原因なんだ。


 ルル、コルナ、コリーダ、舞子の四人が、めちゃくちゃ笑ってる。


『(*'▽') ルルさんからの頼みで、釣りの場面まで撮りました』


 て、点ちゃん、ひどいよ!

 俺が隠れて釣りするって、最初から彼女たちにバレてたってこと?

 

『(*'▽') もちろんですよー』

  

 ひい!

 オーガのような顔をした宰相が、ずんずん近づいてきてるんですけど? 


 ……。

 ……。

 ……。

 一国の王女を大変な危険にさらしたということで、死ぬほど叱られました。

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