第88話 ツリーハウスの朝


「シロー、そろそろ元の姿に戻ったらどうです?」


 デカゴリンの家でお好み焼きを食べた後、くつろいでいると、巨大ゴリラの姿になっている俺の前に、ルルが冒険者用の服やズボン、靴を置く。

 この姿に変身するとき脱げたものを、彼女が拾ってくれたらしい。

 不思議なことに、体が大きくなっても服が破れなかったんだよね。

 脱げちゃってるけど。

 この『形態変化』っていうスキル、もしかしてかなり使えるかもしれない。


「うほほほーほほっほ」(この姿、気に入ってたんだけどね)


 再びスキルを使い、本来の姿に戻ると視点が低くなる。

 ちょっと残念だなあ。


「きゃっ、シロー、服、服を……」


 ルルが自分で目隠ししている。


 あれ、ホントだ。全裸だね、これ。

 ルル、だけどそれ、指の間からこっそりこちらを見てないかな?

 

 ◇


 上空に停めてある点ちゃん1号に戻った俺は、ルルが入浴している間に、王城にいるシュテインに念話を繋いだ。


『シュテイン、聞こえるかい?』


『あっ、念話ですね!

 ええ、聞こえますよ』


『森の魔獣というか、住民と友達になったんだけど、彼の話だと……』


 俺はシュテインに、森に人族が潜んでいることを伝えた。


『なるほど、物理結界ですか。

 そいつらは、恐らくクーデターが失敗した時、逃亡した貴族たちですね。

 捕まえた者の供述では、攻城用の魔道兵器だけでなく、強力な物理結界を張る魔道具まで用意していたそうですから』


 なるほど、それならそいつらに強力な物理結界が張れるのも納得できる。

 

『こっちで処理していいか?』 


『いいですが、どうするつもりです?』


 シュテインにいくつか指示を出しておく。


『分かりました。

 心おきなくやってください』


『了解。

 じゃ、言ったとおりに頼むよ』 


『はい、明後日が楽しみです。

 シローさん、お気をつけて』


 ◇


 朝、鳥の鳴き声で目が覚める。

 なんか、凄く気持ちがいいぞ。

 あれ、ここどこ?

 ああ、デカゴリンのツリーハウスか。

 快適だなあ、ここに住みたいよ。

 アリストの『くつろぎの家』には神樹様がたくさんいらっしゃるから、ツリーハウスできないかな?


『(; ・`д・´) 不届き者ーっ!』

 

 いや、そんなに悪い考えじゃないと思うんだけど。


 ◇


 デカゴリン、ルル、ブラン、俺、そして、もちろん点ちゃんで、森の不審者をやっつける計画を打ちあわせる。

 デカゴリンは直接ルルと念話はできないから、点ちゃんを通して念話のネットワークを作っておいた。


「デカゴリン、そいつらはどこにいるの?」


「うほほっほー」(向こうのほうです)


「そいつらの人数は分かる?」


「うほん」(分かりません)


 ヤツらが物理結界を張っていたなら、デカゴリンたちは、人数が分かるほど近寄れなかったんだろう。


「シロー、本当に一人で大丈夫ですか?」


 ルルは俺が一人で敵地に乗りこむのが心配らしい。


「ああ、その方が却って動きやすいんだ。

 俺一人なら、何かあっても点魔法でなんとかできるしね」


「とにかく、無茶しないでくださいね」 

 

「分かってるよ、ルル」


「うほん、ほほほん」(ホント、気をつけてね)


「ああ、デカゴリン、ブランを頼んだよ」


 作戦上の都合で、今回はブランを置いていく。

 彼女が活躍するのは、ヤツらを捕まえてからだ。 

 では、作戦を開始しようか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る