第87話 新しい友達(下)
「ええ、初めまして。
俺はシロー、よろしくね」
白い巨大ゴリラが、右手を大きく振りかぶる。
「ええと、お話ししませんか?」
一抱えほどありそうな、ボスゴリラの拳が俺に激突する。
ゴキッ
あー、これは可哀そう。
俺が持っている、『物理攻撃無効』の加護で、攻撃のエネルギーが全部ヤツに返っちゃったね。
「ウガガガガガ!」
腕を抱えて転げまわっている。
あちゃー、このゴリラ、体は大きいけど気が弱いのか、泣いちゃってるよ。
ちょっと待ってね、今、痛みを和らげるから。
点魔法でゴリラの体を固定し、腫れあがったその拳に手を触れる。
治癒魔術を付与した『・』が、拳の中へ入っていく。
拳が白く光ると、やがてヤツは静かになった。
あー、この人、じゃなくて、このゴリラ、気を失ってるよ。
◇
しばらくして目を覚ました白い巨大ゴリラは、上半身を起こした姿勢でルルに頭を撫でられ、気持ち良さそうに目を細めている。
しかし、俺が撫でようとすると、ビクビクっと怯えるんだよね。
さっきケガを治したの、俺だよ。
『d(u ω u) ケガをさせたのもご主人様ですけどね』
えー、ブランちゃんだって、肩に乗せてもらってるのに、俺だけのけ者?
あっ、そういえば、最近取ったスキルで、『形態変化』ってなかった?
あれ試してみよう。
自分の身体が一瞬光ると、急に視点が高くなる。
おっ、できたかな?
ルルがこっちを見て驚いてるから、成功したんだね。
おお、この体ならゴリラさんも、驚いてはいるが警戒してない。
『( ̄▽ ̄) 最初に変身するのが、巨大ゴリラって……』
いや、点ちゃん、これならゴリラさんも安心するじゃない。
話しかけてみよう。
「うほっほ!」(こんにちは!)
「うほっほ!?」(こんにちは!?)
おお、言葉が通じる!
『( ̄▽ ̄) ゴリラ語ですけどね』
「うほ、ほほうほ」(ちょっと、尋ねたいことがあるんだけど)
巨大ゴリラと話して分かったことは、最近になって森の奥に多くの人族が住みついて、色々悪さをしているらしい。
そのため、ゴリラさんたちは、群れになって警戒していたそうだ。
厄介なのは、その人族が強力な物理結界を張っていて、内側から魔術で攻撃してくるらしい。
すでに、何体もの仲間がケガをしたそうだ。
どうもきな臭いことになってきたな。
◇
俺が『デカゴリン』と名づけたボスゴリラは、俺たちを彼らの集落へ案内してくれた。
その集落には、巨木の枝を利用し高い所に造った家がたくさんあった。
これ、ツリーハウスだよね!
子供の頃からツリーハウスにあこがれがある俺は、巨大ゴリラになったままだったのを利用し、木の枝を渡り家々を見学した。
体のサイズを計算しきれず、幾つか家を壊してしまったが、それは点ちゃんに直してもらった。
一際大きなツリーハウスがデカゴリンの住居だった。
家の中は清潔で、ゴミ一つ落ちていなかった。デカゴリンは綺麗好きらしい。
ワンルームだけの間取りで、壁には簡単な棚や何かの道具まである。
この家を見ると、デカゴリンは魔獣として扱わない方がいいだろう。
デカゴリンは少しの間その姿を消すと、何かを抱えて戻ってきた。
毛皮の敷物に座っている、ルルと俺の前に大きな葉っぱの包みが出てくる。
どうやら、何かご馳走してくれるらしい。
包みを開くと……ええと、これ、カブトムシの幼虫っぽいよ。
元気に動いてるし。
さすがのルルも引いている。
何でも食べるブランちゃんも、これは要らないって。
まあ、そうだよね。
点収納から、大事にとっておいたお好み焼きを出す。
デカゴリンが陶器の皿を食べてケガをしてもいけないので、ルルの前に置いてある葉っぱの中身を俺のそれに移し、空いた方をお皿の代わりとする。
「うほっほ」(食べてごらん)
「ほほっ、うほっ!」(熱っ、旨っ!)
ええと、デカゴリンって、食べた時の反応が国王陛下と同じなんだけど、もしかして、兄弟?
『(; ・`д・´) そんなワケあるかーっ!』
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