第83話 オコ騎士の帰還(中)
見覚えのある侍従長に案内され、俺たち一行は、夕日で彩られた花壇の間をお城の本棟へ向かっている。
迎賓館から三分ほどの距離だが、色とりどりの花で飾られた庭は、ルルの心を捉えたようだ。
彼女は植えこみごとに、立ちどまって花を眺めている。
そのためか、俺たちがお城にある玉座の間に入った時には、すでに貴族たちがピシリと立ちならんでいた。
玉座の前でひざまずこうとした俺たちは、侍従にそれを止められた。
「シロー殿、よう戻られた!
オコ騎士の帰還、ティーヤム国を挙げて歓迎する!」
ええっ?
気楽に立ちよったつもりなのに、どうしてそんなことに?
それに、オコ騎士ってどうよ?
まあ、例の言葉で呼ばれるよりマシだけど。-----
「お久しぶりです陛下。
今回は、『ポンポコ商会』という会社の仕事でここを訪れました。
どうか、大げさな事はご無用に願います」
「そうか……宰相に言うて祭りの準備をしようと考えておったのだがな。
仕方ない。
だが、一週間は滞在してもらえるのだろう?」
この国の一週間は、六日だったな。
「はい、少なくともそのくらいは滞在する予定です」
「頼むぞ。
それから約束していた件は、商業ギルドと話がついておる。
明日にでも場所を案内するから、不満があれば、気兼ねなく息子に言ってくれ。
では、堅苦しいことは抜きにして、食事にしたいのだが、あー、もしできるなら――」
「陛下、分かっております。
今日の夕食は俺が用意しますよ」
「「「おおお!」」」
なぜか、陛下だけでなく、貴族の何人かも歓声を上げる。
「では、宰相、人数のことなどシロー殿と打ちあわせよ。
会見はこれまでじゃ」
陛下はさっと玉座から立ちあがり、そそくさと奥の扉へ消えた。
何を急いでいるのかな?
『d(u ω u) お好み焼きを早く食べたいだけじゃないですか?』
いや、点ちゃん、いくら何でも、それって……あり得るな!
あの王様なら、それもあり得る。
なにせ、熱々のお好み焼きを食べるために、わざわざ法律まで作らせたほどだからね。
◇
食事には、俺が初めて見る大広間が使われることになった。
これは、俺たちの人数が多いだけでなく、貴族が食事を共にすることになったからだ。
宰相によると公爵家、侯爵家以上の十人程が参加するらしい。
居並ぶ貴族たちが、子供のように目を輝かせてこちらを見ている。
なんか期待されてる?
あれ? 陛下の後ろに立っているお毒見役、以前は視線だけで殺せるような目つきで俺を見ていたのに、あの人までキラキラおメメになってるよ。
しょうがないなあ、とりあえず、お好み焼きを出しておくか。
「わあ、オコ焼きだあ!」
陛下の隣に座る少女、ルナーリア王女が嬉しさを隠しきれない。
少女の反対側には王妃が座っているが、彼女、じっとお好み焼きに見入っている。
王妃様がよだれを垂らしてはいけません。
慌てて「号令」をかける。
「いただきます」
「「「いただきまーす!」」」
「「「熱っ、旨っ!」」」
王妃様、ルナーリア、シュテインが同時に声を上げる。
シュテイン、君はなんで陛下の横ではなく、俺の横に座ってるのかな?
お替りのため?
まあいいや。
「ふぅおー!
陛下からうかがった通りじゃ!
なんじゃ、この旨さはっ!」
「あり得ん!
これはあり得ん!」
「旨すぎる!」
お好み焼き、貴族のおじさんたちにも、受けてるみたいだね。
「おい!
早う渡さぬか!」
「味見、いえ、毒見せぬものなど、陛下に召しあがっていただけませぬ!」
陛下と毒見役が、お好み焼きが載った皿を取りあっている。
もう、あの二人は放っておこう。
「「美味しいね」」
「「うん!」」
翔太とエミリーの笑顔に、ナルとメルも笑顔で答えている。
こっちはほのぼのしてるな~。
「あっ、ミミ、自分の食べたでしょ!
ボクの取らないでよ!」
「ポン太のものは私のもの!」
あれ? ほのぼのじゃない人もいたか。
「これ、初めてだけど、最高ね!」
「でしょ、コルナ!
これ、私の好物なの!」
そう言う舞子の前には、これも地球から持ってきたピザが……。
ちなみに、これ、イタリアで焼きたてを買ってきた。
お好み焼きの在庫が少ないから、仕方ないんだよね。
「これ、ニューヨークでも食べましたが、こっちの方が美味しいです」
「私も、東京で食べたけど、断然こっちの方が美味しいわ」
ルルとコリーダが、そんな話をしている。
まあ、このピザ、イタリアの地方都市にある評判の店で買ってきたから。
いち早くお好み焼きを食べおえた王妃様、ルナーリア姫、シュテインが指をくわえてこちらを見ている。視線が俺とルルたちを往復しているのは、お替りにピザをご所望なのだろう。
しょうがないから、王族と貴族には、お替りとして、焼きたてピザを一枚ずつ配った。
「「「「「熱つトロうま~!」」」」」
いや、全員で声を合わさなくていいから。
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