第82話 オコ騎士の帰還(上)


 朝起きて、木窓から外を見た子供たちが騒いでいる。

 庭の隅に見覚えのない建物があるからね。


「あれま!

 ありゃ、なんだい?」

 

 リーシャばあさんの、驚いてはいるが、どこかのんびりした声がする。


「ああ、子供たちが近所のお屋敷にお風呂を借りに行く、って言ってましたよね。

 だから、庭に風呂場を造っておきました」


「ええっ!?

 あれ、あんたが建てたのかい?」


 りーしゃばあさんは呆れ顔だ。


「ええ、後で魔道具の使い方と掃除の仕方を教えますから」


「だけど、あんた、お湯の魔道具って高価なんだろう?」


「ああ、俺が作ったものだから、元はタダみたいなものですよ」


 俺が点魔法で作ったお湯の魔道具は、魔石と魔力、どちらでも使える優れものだ。


「……そんなに良くしてもらっていいのかね」


「以前来た時も、お世話になりましたから」


「いいのかねえ、こっちがご馳走してもらっただけなんだけどねえ」


「ははは、ホント、気にしないでください」


 その時、玄関の方で誰かの声がした。

 

「シュー兄ちゃんだ!」

「わーい!」

「遊ぼー!」


 子供たちが、玄関の方へ駆けていく。

 少しすると、白いローブを羽織りフードで顔を隠した人物が、子供たちと一緒に部屋に入ってきた。


「あっ、シローさん!

 どうしてここに!?

 帰ってきたんなら、お城に来てくださいよ!」


 フードを外すと、並外れた美貌が顕れた。

 彼は、少し怒っているようだ。

 俺が答える前に、黒騎士が尋ねる。


「シローさん、この方は?」


「ああ、今に分かるよ。

 ここでは言えないんだ」


 シュテインは、この国の皇太子様プリンスだからね。

 黒騎士は、キラキラした目で色白の美青年を見つめている。

 恋に落ちたの?

 いや、あのキラキラは、何か別のものだね。


 シュテインに急かされた俺たちは、仕方なく孤児院を後にした。

 まあ、お城に瞬間移動したんだけどね。


 ◇


「シロー、ここは?」


「このティーヤム王国のお城だよ、ルル。

 舞子、国王は気やすい人だから、気を楽にね」


 緊張した面持ちの舞子に声を掛けておく。

 上品な調度で飾られたこの部屋は迎賓館の一室で、かつて俺一人で使った時は広く感じたが、家族や仲間が一緒だと、さすがに狭い。


「すぐに部屋を用意させます」


 美しい青年は、そう言いのこすと、足早に部屋を出ていった。


「綺麗な街ね」


 そう言ったコリーダは、窓から外を眺めている。

 彼女は自分が住んでいた、エルフの城を思いだしているのかもしれない。


「城の周囲は緑地が多いから、眺めはいいよ」


 街を取りまく高い外壁の外にはスラムもあるのだが、それはここから見えない

 

「エルフのお城、イビス城だっけ?

 あれとはまた違ったおもむきがあるわね」


 元々、狐人族のお城に住んでいたコルナも、この城からの眺めが気にいったようだ。 


「シローさん、私に見せていいのですか?」


 そう言ったのは、ショーカだ。軍師としての目で見れば、お城の戦術的弱点なども見抜けるのだろう。


「ははは、マスケドニアが新世界まで攻めこむなんてないでしょ?

 ショーカさんも、ここで見たことを報告したりしないはずだし?」


「え、ええ、まあ」


 なぜか、ショーカが青くなる。 

 彼が何か言おうと口を開きかけたところで、メイドがわらわらと部屋に入ってきた。


「なんでメイド服?」

 

 黒騎士が驚いている。

 そうなんだよね。この国には、なぜかメイド服があるんだよ。明らかに地球世界からやって来た『迷い人』の影響だよね。

 

 メイドさんによって、それぞれが部屋に案内される。

 部屋にはブランと俺だけが残された。


「ふわ~」

 

 ベッドに横になると、すかさずブランがお腹の上に乗ってきて丸くなる。


『( ̄▽ ̄)つ ご主人様って、隙あらば昼寝しようと狙ってますよね』 


 まあ、少しぐらい……zzz


『(*ω*) いきなり寝落ちー!?』

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