第80話 新たな支店


 ルエランとフィナさんとの会議はなんの問題もなく済んだ。

 問題がないどころか、業務提携の話だったはずが、いつの間にか『ルエラン薬草店』が『ポンポコ商会』の支店になることに決まってるし……なんでこうなった?

 

 まあ、ルエランとフィナさんの強い意向でそうなったんだけど、ホントに良かったのかね、これ?

 アドバイザー役のハーディ卿とショーカのやり切った感いっぱいの顔が気になるけど。


『d(u ω u) 今更ですよ、前にもやってますから』


 えっ!?

 それは聞きのがせないよ、点ちゃん!

 今まで、そんなことやってないでしょ!

 

『(・ω・) ごまかしてるのか、ボケてるのか……ま、ボケてるんでしょうけど』


 ようようよう!

 オイラがいつそんなことやったってんだ!

 表へ出やがれ、こんちきしょーめ!


『(・ω・) 急に江戸っ子になっても、ごまかせませんからね』 


 マジ? 俺、いつそんなことやった?


『d(u ω u) ドラゴニアに支店ありますよね』


 それはあるけど。


『(・ω・)ノ あのお店、元々、なんのお店でしたか?』 


 なんのお店って、あそこは元々イオちゃんとネアさんが二人でやってたお肉の屋台で……あれ?

 ああっ!

 俺、やっちゃった!?


『(・ω・) 全く、今になって何を驚いてるんですかね、ご主人様は』


 ……やっちゃってた。

 間違いなく、やっちゃってた。

 俺は頭を抱え、テーブルにつっ伏してしまった。


『(・ω・)ノ 珍しくご主人様が反省してる』

「みぃー」(してるー) 


 ◇


 会議後、ルエランと二人だけになると、彼にあるものを渡すことにした。


「これ、何です?」


 薄い皮に包まれた、球形のものを手に載せたルエランが目を輝かせている。

 きっと、薬の素材として利用できないか、考えてるんだろう。


「ああ、さっき世界群の話をしたとき、『神樹』のことが出てきたでしょ」


「ええ、世界を守ってくださる、凄い存在なんですよね」


「これ、その『神樹』の種だよ」


「ええっ!」


 驚いたルエランが、手から種を落としそうになる。 


「正確には、その薄皮の中に包まれてるのが種だけどね」


 ルエランは、礼をするような姿勢で、種を頭の上に押しいただいている。

 まあ、本当にありがたいものだから、それはいいんだけどね。

 変な宗教なんかおこさないように。


「君が持ってる土地のどこかに植えるといいよ」


「は、はい、そうさせてもらいます!」


 ◇


 ニ、三日、ベラコスの街で遊んだところで、所持金が無くなった。

 お金は数える気をなくすほどあるのだが、この国の通貨をつかいはたしてしまったのだ。

 ポータルズ世界群と新世界群では、度量衡の統一がまだできていないからね。


 宿泊は『ルエラン薬草店』の別館を使わせてもらっていたからタダだったが、異世界情緒あふれる魔道具や服を女性陣が買いまくったことでそうなってしまった。

 ルエランから借りるのも悪いので、王都へ向かうことにする。

 国王からなら、心置きなくお金を借りられるからね。


『(*'▽') この人、国王にたかろうとしてるよ』 

 

 いや、さすがに国王はお金持ってるでしょ。

 

『( ̄▽ ̄) やっぱり、国王のお金を狙う気満々ですね』


 まあ、そうだけど。


 こうして俺たちは、一週間ほど滞在したベラコスの街を後にすることになった。

 森の中にあるお花畑に点ちゃん1号を出す。

 見送りに来ている、薬草店の従業員たちが騒ぎだす。

 なぜだか、ルエランまで興奮している。


「ルエランは、点ちゃん1号を前に見たことあるでしょ」


「いいえ、ありませんよ!

 これ、いったい何です?」


 あー、それで騒いでたのか。


「これは空を飛ぶ乗りものだよ」

 

「「「ええーっ!」」」


 見送りの人たちが、やけに驚いているね。

 この世界には、空を飛ぶ乗りものがないからね。


「では、また来てください」


 フィナさんが、ナルとメルの頭を撫でながらそう言った。


「ええ、王都での仕事が終わったら、ルエランを迎えにきますよ」


「息子のこと、よろしくお願いします」


 フィナさんが頭を下げる。


「もちろんです。

 こちらこそよろしくお願いします」


 点ちゃん1号は、王都に向け青空に舞いあがった。

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