第78話 薬師の街(中)



 ギルドの個室には、リーヴァスさんと俺、そしてギルマスの三人だけがいた。

 他の家族や仲間たちは、カウンターがある待合室で待機中だ。

 

「シロー、お前に関しては、国王直々のお達しが出ている」


 何だろう。悪い予感しかしないね。


「私にもよく意味は分からんが、お前はこの世界を救った英雄らしい」


 ぐはっ、その二文字、クリティカルヒットですよ。

 

「ギルドのランクも金に上がってるぞ。

 ギルド章、受付で交換しておけよ」


「……」


「おい、なんでそんなにしょぼくれてるんだ?」


「サウタージさんでしたかな。

 冒険者をしております、リーヴァスと申します。

 私はこのシローがリーダーを務める『ポンポコリン』というパーティの一員です」


「あ、ああ、よろしく頼む」


 なぜかサウタージさんの頬が赤くなっている。

 

「彼は『英雄』と呼ばれるのが苦手でして。

 できれば、その言葉はつかわないでやってくれますかな?」 

  

「ああ、それはいいが……私がつかわなくてもなあ」


 サウタージさんの歯切れが悪い。どういうことだろう?


「シロー、彼女には私から説明しておきますから、みんなの所へ行っておやんなさい」


 リーヴァスさんは、エルファリアのギルド本部から、新世界にあるギルドとの交渉を依頼されているからね。


「リーヴァスさん、ありがとう」


「お、おい、待て――」


 サウタージさんの言葉を背に部屋から出ると、素早く扉を閉める。

 ふう、心臓に悪いよ、全く。

 あの「え」で始まる言葉だけは聞きたくなかったな。


 待合室へ行くと、木の丸テーブルテーブルに着いた家族と仲間が、冒険者たちに囲まれていた。

 

「「パーパ!」」


 ナルとメルが走ってくる。


「あれ、パーパだよ!」

「うん、パーパ!」


 二人が指さした壁を見ると、A4サイズくらいの羊皮紙が貼られている。

 そこには、やけに上手い似顔絵が描かれていた。

 俺の似顔絵だ。

 だいたい、絵の人物、頭に布巻いて肩に猫乗せてるし。

 せめてもの救いは彩色してないってことかな。

 えっ!

 絵の右下にあるサイン、「シュテイン」って書いてある。

 あのリア充美形プリンス、絵の才能まであるのかよ!


『( ̄▽ ̄) リア充美形プリンスってねえ……』

「ミュ」(変なの)


 だって、王子様で、超美形で、メチャ綺麗な婚約者までいるんだよ!

 絵まで上手くなくったっていいだろう!

 しかし、プリンス自ら、指名手配の絵を描くってどうよ。


『(・ω・)ノ ご主人様ー、よく見て。指名手配なんかじゃないよ』


 えっ?

 どういうこと?


『(・ω・)ノ 似顔絵をもう一度よく見てみよう』


 あっ……

 こんなところに「オコ騎士、モフモフ騎士」の文字が!

 オコ騎士って、確か「お好み焼き騎士」ってことだよね。


『( ̄▽ ̄) どこまで逃避してるんですか! その上ですよ』


 ええと、なになに……。


『世界を救った英雄シロー』


 オワタ。

 遠ざかる意識の中、似顔絵に書かれた文字が、頭の中をひらひらと舞った。 

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