第77話 薬師の街(上)


 キューの仲間たちが棲む森の草地で飛行型点ちゃん1号に乗りこんだ俺たちは、森を抜けたところにある、ベラコスという小さな街の外れにある草地に着陸した。

 瞬間移動も使えるけど、そればかりじゃ味気ないからね。

 

「わあ、綺麗!」


 草地に咲く色とりどりの花を見て、ナルが喜んだ。

 キューとウリ坊コリンがさっそく花の中を走りまわっている。


「素敵だわ!

 庭に植えたいわ!」


 花が好きなルルは、頬を染めるくらい感動しているね。お花さんたち、グッジョブ!

 

 点ちゃん、お花は持ってかえれる?

 きっと生態系への配慮とか必要になると思うんだけど。

 

『(*'▽') 私が管理するから大丈夫ですよー!』


 でも、俺たち、他の世界に行ってることもあるでしょ。

 その間はどうするの?


『d(u ω・)  前のレベルアップで、そういったこともできるようになりました』


 凄いな、点ちゃん。

 世界をまたいで点をコントロールするのは無理だろうから、点に付与できる命令が増えたのだろう。

 点ちゃん、どんどん成長してる!


『p(≧▽≦)q いえいえ、それほどでもないですよ』


 いや、すっごく喜んでるでしょ、それ。


「ルル、点ちゃんから許可がでたから、少しならお花を持っていけるって」


「ええっ!?

 嬉しい!」


「シロー、本当に大丈夫ですか?」


 さすがショーカ、他世界の植物がアリストやマスケドニアがある『パンゲア世界』の生態系にどんな影響を及ぼすか、未知数だからね。


「点ちゃんが言ってるなら大丈夫だよ。

 多分、花粉一粒まで管理するはずだから」


「ええっ!?

 そんなことが可能だとは……」


 そういえば、各世界の植生には共通点があるって、点ちゃんから聞いたことがあるな。

 人や物品が行き来するんだから、当然そうなるだろうね。

 まあ、だけど管理するにこしたことはないよね。

 

「みんな、近くにあるベラコスという街へ行くよ。

 せっかくだから歩いていこう」


 こうして俺たちは、森から街まで約一時間くらいのハイキングを楽しんだ。


 ◇


 街に入る門の所で話しかけてきた、太った門番のおじさんは、俺が知らない人だった。


「これだけか?

 やけに人数が多いな?」


 おじさんの目が、無遠慮に女性たちに向けられるのが分かった。

 以前この世界に来た時、作っておいた、ギルド章を出す。

 

「おっ、お前、銀ランクなのか!?

 それにどこかで見た気がするのだが……」


 本当は黒鉄くろがねランクなんですけどね、この世界には無いランクだから。

 

「通っていいですか?

 他の者は通行証がないんですが、すぐにギルドへ行って作ります」


「うーん、いくら銀ランクでも、さすがにこの人数じゃ無理だ。

 どうすっかなあ……」


 おじさん、胸の前で左手を握り、その上を右手で撫でている。

 あー、初めて見るジェスチャーだけど、意味は分かるね。

 この人、袖の下を要求してるよ。


「ちょっとだけ待ってくださいよ」


「おまっ――」


 指を鳴らすと、周囲の風景が見覚えあるベラコスギルドの待合室に変わる。

 突然俺の姿が消え、門番さんは今ごろ驚いているだろう。

 

「あっ、あなたはっ!」


 受付をしている女性が、勢いよく立ちあがる。

 大きな音がしたのは、彼女が座っていた椅子が倒れたからだろう。

 彼女が受付奥の扉に姿を消してすぐ、それを開け中年の女性が現われた。

 モラー少佐同様、右目に眼帯を着けているが、豊満な体と顔つきの鋭さが際立つ美しい女性だ。


「おっ、お前、帰ってきたのか!」


「サウタージさん、お久しぶりです」


「おい、お前、いったい何やったんだ?

 王城からの知らせで――」


 長くなりそうな彼女の話を、その手首を握ることで中断させる。


「な、なんだ?」


「ちょっと失礼」


 さっきまでいた門の前へ瞬間移動する。

 ちょうど門番がルルに伸ばした手を、リーヴァスさんが払いのけるところだった。


「キサマっ、あれ?

 ギ、ギルマス!?」


 太っちょおじさんが、いきなり目の前に現れたサウタージさんに驚いている。


「おい、お前、何してる?」


 サウタージさんの冷たい声に、顔色が青くなったおじさんが硬直する。 

 

「田舎者の俺にはよく分かりませんが、何かしてほしかったようです」


 彼がやっていた、握りこぶしを撫でるジェスチャーをする。


「お前、不正な金を取ろうとしたな?」

 

 サウタージさんの声がさらに冷たくなる。


「めめめ、めっそうもない!」


 ガクブル状態のおじさんは、すでに膝を地面に着いているが、とりあえず言い訳をした。


「おい、お前!

 こいつを兵舎までしょっぴけ!」


 サウタージさんが、少し離れた所に立っている若い衛士に声を掛ける。

 そして、ふとっちょおじさんが持っていた縄を奪うと、あっという間に彼を後ろ手に縛ってしまった。

 ギルマスの権威、凄いよね。


「逃がすなよ!」


「は、はい」


 若い衛士が、緊張した面持ちでおじさんを連れていく。

 後から来て俺たち一行の後ろに並んでいた商人風の人たちから、歓声と拍手が上がった。

 門番のおじさん、いろいろ余罪がありそうだな。

  

「おい、シロー、さっきの事を含めて色々説明してもらうぞ」


 さっきの事って?


『(・ω・) 瞬間移動のことでしょ』 


 ああ、そういうことか。


 サウタージさんが、両手で俺の右手をがっしり握った。

 なぜか、ルルたちが冷たい目で俺を見ている。

 いや、君たち、絶対に何か誤解してると思うよ!

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